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.政治  投稿日:2014/12/29

【乙未の年の日本経済、上振れへ】~成長戦略と社会保障制度改革が課題~


神津多可思(リコー経済社会研究所 主席研究員)

「神津多可思の金融経済を読む」

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来年2015年は十干十二支では乙未(きのとひつじ)の年だ。乙は甲乙丙丁の二番目で、甲で出た芽が曲がってしまっている様を示すと言う。一方、未の字は木の上に一本棒が足されているので、葉が生い茂って根元が暗くなっている様を示すようだ。両方を合わせると、必ずしも順風満帆の年というイメージではない。むしろ、折角、展望がひらけてきたのに、さまざまな障害が出てきて、すっと前に進めない感じがする。そういう時期であれば、新しい芽を大きく育てるため、これまで以上に丁寧な対応が必要になる。

さて日本経済の展望はどうか。先の総選挙は、与党が圧倒的多数の議席を維持し、これまでの取り組みが認められた結果となった。したがって、アベノミクスは続いていくことになる。もともと、金融緩和と財政支出で時間を稼いでいる間に成長戦略で成長率を底上げするというのは、「裁量的なマクロ政策に効果がある」とする立場からは一つの典型的な政策の組み合わせだ。したがって、大枠そのものについては、「裁量的政策は本来無意味」との立場でもとらない限り全面否定はできない。大事なのは、さまざまな政策の組み合わせがほどよいバランスになっているかどうかだ。

幸い、当面の日本経済については、いくつかの好材料がある。第一に、8%への消費税増税は、当初予想を裏切ってかなり大きなダメージをもたらしたが、それでも景気拡大のモメンタムは失われていない。個人消費や輸出は緩やかに持ち直しているし、企業の設備投資意欲は旺盛だ。第二に、大幅な原油価格の下落がある。急速な円安による投入コストの上昇が、中小企業を中心に収益を圧迫する側面があるということが分かってきただけに、それが原油安によって相殺されるのは大変にありがたい。第三に、原油価格の下落は世界経済全体としてもネットではプラスに作用するとみられているので、日本経済が直面する外需は、好調な米国を筆頭に上振れするはずだ。

これら好材料からすれば、2015年は乙未であっても心配ないというになるが、足元が暗くなっているのは、物価面と財政面だ。黒田日銀が掲げた「2年で2%のインフレ」という目標は、日銀のアクションではどうすることもできない原油価格の大幅下落により難しくなってしまった。そこで、さらなる円安をもたらすような対応がとられると、今度は原油価格低下のプラス効果が薄れてしまう。

また、政府が目指した2020年度に基礎的財政収支(ラフに言えば、歳出からこれまで発行した国債の元利払い分を除き、歳入から新たな国債発行分を除いた歳入と最終の差額)を黒字化させるという目標は、10%への消費税引き上げを2017年まで延期してしまったので、いっそう困難になってしまった。消費税再引き上げの延期自体は、2015年の日本経済にとってプラス要因だが、長い目でみた財政再建の展望がひらけないというマイナス面がある。

日本経済復活の芽は出ているが、それを息長く、大きく育てていく上では、新たにみえてきた問題に丁寧に対応していくことが大事というのが来年の十干十二支の含意とすれば、マクロ経済政策の面ではアベノミクスのバランス・チェックが重要だろう。三本の矢の中で、最も出遅れているのは明らかに成長戦略だ。他の二本に過重な負担をかけるのは、育ち始めた復活の芽をさらに曲げてしまうことになる。

企業部門の責務も大きい。上にあげた日本経済の好材料については、そのメリットの大部分はまだ企業部門に滞留している。潤沢なキャッシュ・フローを得た企業が、それを新たな投資や研究開発等の前向きな支出に振り向けていけるか。それらを通じて雇用を拡大し、かつ労働生産性を引き上げ、それに相応しい賃上げを実施していけるか。それらも注目される。

さらに、そうやって高めた経済力を以って、高齢化社会を乗り切る社会保障制度をどう確立していくかという問題もある。やはり乙未の年は、新たに問題点を見極め、さらに知恵を絞って、さまざまな努力を重ねる年になりそうだ。

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