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.経済  投稿日:2014/12/31

[神津多可思]【逆オイルショック、再び?】~金融・資産市場の動きを注視~


神津多可思(リコー経済社会研究所 主席研究員)

「神津多可思の金融経済を読む」

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今を去る約30年前、「逆オイルショック」と呼ばれる原油価格の急落があった。当時も1年の間に原油価格は半分ぐらいに下がってしまった。それと並行して、1985年の「プラザ合意」以降、円ドル為替レートは急激に円高に向かい、250円台だったのが88年には120円台にまで切り上がった。

この両者が相俟って、国内物価にはかなりの低下圧力が加わった。その結果、消費者物価が前年比+2%以上の上昇となったのはようやく89年に入ってからのことだ。その時には日経平均株価は3万円台に乗っており、すでにバブルは大きく膨れ上がっていた。

急激な円高による景気下押しの力を和らげるために、日本銀行は87~88年にかけて政策金利を2.5%という当時としては非常に低い水準に据え置いた。そうした低金利が続くとの期待が金融市場に蔓延したことが、バブルを膨らます一因となったというのが、「後知恵」としての整理だ。

私は80年代後半のこの頃、初めて日本経済の短期予測の仕事をした。その頃の思い出があるからか、原油価格が短期間で大きく下落することに何となく気持ちの悪さが付きまとう。今風に言えば、需給ギャップの動き以外の要因で物価が変化する時には、経済状況の体温計とも言われるその物価が、必ずしも経済の体温を正確に表示しなくなるから、そうした感覚を持つのだろう。

現在はどうか。原油価格が半年で半分になってしまったのは当時と似ている。しかし、今は円安が進行しているので、為替レートとの相乗効果で国内物価に低下圧力が加わるということはない。一方、それまでに比べて、より強力な金融緩和が継続している点は似ている。金融緩和の度合いについて言えば、ゼロ金利の上に、さらに量的質的緩和を強化しているのだから、現在のほうが当時よりはるかに強いとも考えられる。

経済に調整圧力が加わっている時、金融面からサポートするというのが金融緩和なのであるから、ある意味、経済成長とか雇用とか物価と言った実体経済と、金利とか株価といった金融経済との間に乖離が生じるのは当然だ。金融経済のほうから実体経済を押し上げるというルートは確かに存在するが、両者の間の不均衡が拡大することも事実なので、経済の体温を測りながらその不均衡が行き過ぎないようにすることが大事になる。

80年代後半は、ドル建て原油価格が半分以下になり、対ドル為替レートがやはり半分位になり、2.5%の政策金利が2年続いて、結局バブルとなった。現在は、ドル建て原油価格が約半分になり、しかし対ドル為替レートは前年に比べれば2割程度円安で、その一方、量的質的緩和が強化されている。今は、状況も違うし、当時と同じようなバブルが起こるとはとうてい考えられない。しかし、物価が経済の体温を必ずしも正確に示さなくなっていることは、程度は違うが共通している。

さらに、実体経済の回復スピードはどうも思ったよりもゆっくりのようだ。それだけに、金融の緩和がともすれば将来逆方向の調整が必要になるほど、何かの資産や財産の価格を過剰に押し上げてしまう可能性も高くなっているのかもしれない。

歴史は単純には繰り返さないがいつも「韻」を踏む。リーマンショックの後、国際的に活動する銀行に対する規制のあり方を見直している際に、世界の仲間達と何度となく言い合ったことだ。バブルの直接の原因は、銀行貸出であったり、住宅ローン債権を流動化した債券であったりするが、いずれについても、金融市場におけるリスク評価が甘きに流れた点は変わりはない。それが「韻」を踏むという意味だ。逆オイルショックについても、同じことが言えるかもしれない。2015年は、金融市場、資産市場の動きをいっそう用心深く観察したほうがよさそうだ。

 

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