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.経済,ビジネス  投稿日:2015/6/1

[遠藤功治]【意外、国内利益率は低水準】~大手自動車会社決算と今後の課題 トヨタ 2~


遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン マネージングディレクター)

「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」

執筆記事プロフィール

(この記事は、【営利、我が国初の3兆円乗せへ】~大手自動車会社決算と今後の課題 トヨタ 1~ の続きです。全3回)

トヨタ自動車の利益に目を転じると、これは連結ベースでの営業利益のセグメント情報となりますが、日本が4%増の1兆5,714億円、北米が57%増の5,379億円、中国を除くアジアが7%増の4,217億円、欧州が39%増の811億円、その他地域が2.6倍増の1,115億円などとなっています。ここでも注意が必要なのが、日本の利益です。日本のセグメント利益には、当然、日本国内での利益が入りますが、この他に、海外への輸出に伴う利益、海外子会社等から親会社が受け取るロイヤルティー収入、海外子会社の生産用に日本から輸出する部品の利益なども入ります。

そしてトヨタも含め多くの自動車会社の場合、純粋に日本で作って日本で販売しての利益というのは、限りなくゼロか赤字の場合が多く、日本セグメントの利益の大半は、輸出やロイヤルティー収入といった、国内販売とは全く違う部分からの利益である場合が圧倒的に多いのです。ですから、日本セグメントが前年比で上昇しているからと言って、日本での販売が好調でそれによる増益であったなどと思うと、これは大きな錯覚ということになります。

ロイヤルティ―収入や輸出分の利益は当然円安の影響をモロに受けますから、何を隠そう、円安による増益効果は、この日本セグメントに最も顕著に現われます。このトヨタの決算に関して言えば、会社全体の営業利益は、一昨年度に比べ4,584億円の増加となっていますが、そのうちの為替変動による増益分は2,800億円あります。日本セグメントの利益は、前述通り4%増の1兆5,714億円ですが、これは一昨年度に比べ、613億円の増加です。つまり、為替影響が2,800億円もあったのに、日本のセグメント利益は600億円強しか増えていない、差し引き2,200億円の大半は、国内販売の利益減、タイなどからロイヤルティ―収入の減少、ということになります。

決して、国内利益が増えたなどとは思わないで下さい。国内利益は実質的な意味で、非常に低水準な利益率での黒字を維持というのが現状、補修部品などの利益も多いでしょうから、車の販売自体では殆ど儲かっていない、とも言えるかもしれません。日本における市場シェアが、登録車市場では46%、軽自動車を入れた全体で42%とうい会社が、実際は国内でそれほどの利益はあげていない、というのは驚くべきことです。

トヨタ自動車の国内販売は、トヨタ・レクサス・ダイハツ・日野の4ブランド、トヨタ・レクサスの大半が登録車、ダイハツが軽自動車(一部ダイハツの軽自動車をトヨタが販売していますが)、日野がトラックということになります。昨年度の販売台数は前述の通り1.6%減少、昨年3月末の消費増税により、4月以降登録車を中心に販売は大幅に減少、夏場以降戻ると思われていたものが期待外れで全く不調のまま、年末まで続いた、というのが実態です。

一方、ダイハツの軽自動車は、スズキとの過激とも言える販売競争により、増加しましたが、不毛な戦いであったことは、このJapan In-depthでも取り上げました。一方、トヨタの輸出は1.8%減少の178万台、トヨタの国内生産は318万台と5.7%減少しましたが、国内生産最低ラインとしている300万台は死守しました。国内生産に対する輸出比率は56%で、積極的に海外に生産を移行してきたホンダ(3%)や日産(15%)に比べると、まだかなりの高水準です。日本国内での販売で利益がそれほど上がってはいないにせよ、輸出を有る程度温存することで、国内生産台数を確保、限界利益を確実にし固定費をカバー、輸出分では円安メリットを享受、そして北米や東南アジアで確実に設ける、というのがトヨタのビジネスモデルでしょう。

2015年3月期の北米利益は5,845億円で、全体の21%、一昨年度比2,500億円余りの増益です。販売台数は7%増と堅調、特にレクサス部門は過去最高を記録、ガソリン安の影響で、プリウスなどが弱い一方、SUVやピックアップトラックが好調であったことも増益に貢献。一方、トヨタの金融部門の利益は、3,618億円で、これも一昨年度比670億円の増加です。トヨタの金融部門の利益はトヨタ全体の約13%で、その金額はマツダやスズキの営業利益よりも遥かに大きい訳です。また、この金融からの利益のうち、約70%程度は米国分だと想像されます。勿論、トヨタの金融というのは、自動車の販売金融で、米国では特にCaptive financeと言われ、トヨタ・ホンダ・日産が積極的に手掛けています。そして、ここでのリスク管理次第で、米国での販売や利益が大きく影響を受けてきます。北米のトヨタは、大型車の販売好調プラス、金融利益の好調と円安が寄与、当面は着実に増益基調が続く模様です。

アジアの利益は4,217億円と全体の15%、一昨年度比6%増と小幅な伸びに留まりました。原価低減と円安効果がその要因の大半で、販売自体は主力のタイやインドネシアでの不振が響き、7%の減少となっています。

(この記事は、【営利、我が国初の3兆円乗せへ】~大手自動車会社決算と今後の課題 トヨタ 1~ の続きで、【“意思ある投資”にシフト、一気に攻めに転ず】~大手自動車会社決算と今後の課題 トヨタ 3~ に続きます。このシリーズ全3回。記事中に貼られているリンクを見るには、http://japan-indepth.jp にてお読みください)

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