[相川梨絵]【バヌアツ、歴史的な贈収賄事件】~副首相以下、15人の国会議員が起訴~
相川梨絵(フリーアナウンサー/バヌアツ共和国親善大使)
「相川梨絵のバヌアツ・ニュース」
今、バヌアツが揺れています。モアナ副首相、マルセリーノ・ペペテ大統領代理、6人の現役大臣など総勢15人の国会議員が贈収賄の疑いで起訴されていた裁判で、10月9日(金)に判決がでました。これほど大掛かりな汚職事件は過去に無い為、多くの国民がその行方に注目していました。
前日、政府から、国民は、裁判の結果を冷静に受け止め、穏やかに過ごすようにという異例の注意喚起が発令されました。また、日本大使館からも、暴動やデモが起こるかもしれないので外出しないようにという内容のメールが在バヌアツ邦人全員に送られてきました。
これは、以前、同じように政治汚職事件の判決が出た際、大きな暴動が起きたためです。この時は、国民の年金を議員がポケットマネーとして使い込んでしまったため、多くの国民が怒り狂い、議員の家を放火し、街を壊しと大変な状況だったようです。
今回は、モアナ副首相が、同じく被告人として名が挙がっている各議員たちに賄賂を渡したという疑いです。前回とは状況も違うので、暴動は起こらないのでは、という意見もありました。しかし、当日、全ての学校がお休みか午前中までになり、街中の商店もほとんど閉めていました。
前回の暴動を知っているバヌアツ人たちから、判決が出る午後は絶対に家をでないほうがいいと言われました。いつも平和なバヌアツでは想像もつきません。
この日、出た判決は14人有罪。そして、混乱を避ける為か、量刑は22日に持ち越しとなりました。懸念されていた混乱もなく、無事に終わりました。しかし、週が開けて10月12日(月曜日)の記事を見て、目を疑いました。
共和国であるバヌアツは国家元首である大統領が恩赦を与える権利を持っています。この週末、公務でサモアにいたバルドウィン・ロンスデール大統領。大統領不在時の全ての権限はペペテ大統領代理にあり、彼は、事件の当事者でありながら自分を含めた14人の被告人全てに恩赦を与える手続きを完了させてしまったのです。有罪を言い渡された本人が恩赦を下すというあり得ない事態がおきました。
彼の言い分は、「混乱を避けるため。平和なバヌアツを揺るがしてはいけない。ソロモンやパプア、フィジーで起きた暴動の様子から私たちは学ばなければならない、二の舞になってはいけない。」というもの。まったくもって、逆です。
彼の行動こそが、国民感情を逆撫でして、怒りを誘います。
これを受けてサトー・キルマン首相は、いっさいコメントせず。そして、その恩赦が通った直後、日曜の夜にバヌアツへ帰国したバルドウィン・ロンスデール大統領は、10月13日(火)の新聞で声明を発表しました。
自分の留守中にこのような事態になった事を国民のみならず世界中に謝罪し、直ちに憲法と照らし合わせて適切かどうか協議すると明言しました。バヌアツ国民は誰もが法の下に平等でなくてはならないとし、さらに、国民に冷静に見守って欲しいと繰り返し述べました。
バヌアツは、これまでに無い緊張状態なのは事実です。22日の判決で、そのまま恩赦が通るのか、違った量刑が言い渡されるのか。その結論によって、バヌアツは大きく変わるでしょう。
トップ画像:現地紙 バヌアツデイリーポスト見出し「ペペテ大統領代理、自分を含め14人の被告人全てに恩赦与える」