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.国際  投稿日:2015/7/18

[相川梨絵] 【新首相の発言が波紋呼ぶバヌアツ】~サイクロン災害直後に政権交代~


 

相川梨絵(フリーアナウンサー/バヌアツ共和国親善大使)

「相川梨絵のバヌアツ・ニュース」

執筆記事プロフィールBlog

バヌアツは、ちょっと前の日本のようにすぐに政権が変わってしまう国。サイクロン後の復興でごたごたしている最中、またまた首相の交代劇が行われました。現首相は、これで4回目となるサトー・キルマン氏。その名前から、日本人の血が流れているのでと言われている方です。2012年には、島サミット出席のため、日本にも来日し、私もご挨拶させて頂きました。

タンナ島出身の前任ジョー・ナツマン元首相は、素朴な印象で伝統を大切にする考えだった一方、キルマン現首相は、改革派。バヌアツは、カスタム(伝統、文化)を重んじる国。現在でも、村のチーフが絶対的な力を持っていて、村独自のルールで生活しています。サイクロンの時に混乱などがなかったのは、チーフが、各家庭に平等に支援物資を配り、村で助け合って乗り切っていたからです。時には政治にも、意見します。

キルマン首相は、そんなアンタッチャブルな領域のカスタムにも大きくメスをいれようとしています。その手始めに、カルチャーセンターの館長を更迭しました。カルチャーセンターとは、バヌアツの文化的な物を展示しているだけでなく、その知的財産権なども管理している場所。私たちメディアも取材をする際は、カルチャーセンターの許可、使用料などを交渉しなければなりません。バヌアツ文化を守る門番的な役割を担っている機関です。

突然の館長更迭に、新聞が大きく反発しました。首相が文化、伝統に手を出した!と。さらに、キルマン氏は、バヌアツの伝統の代名詞「カバ」にも苦言を呈しました。カバとは、南太平洋で飲まれているお酒のような飲み物で、飲むと酩酊作用があり、古来からチーフが大事な決定をする際、先祖と話す事ができるとして愛飲していました。いまでは、女性も飲む事ができる気軽な飲み物。日本のとりあえずビール的な存在で、仕事終わりに、カバを飲む人が多いです。

勤勉だったバヌアツ人がカバのせいで怠惰になっていると。遅刻や欠席の理由はカバによる二日酔いが多い。カバも少量なら良い物だか、乱用するのは良くないと、声高に発表しました。

この意見には、私も最もだと思います。お酒も何でもそうですが、ほどほどに嗜むなら良いものでも、度を超して日常生活にまで支障が出るのはよくありません。しかし、カバの生産がバヌアツ経済の柱の一つになっている事実もあり、このコメントでも、批判があがるのではないかと思っています。

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(写真:2012年、島サミットで来日した際のキルマン首相。)

また、外交では、前々任から西パプア問題について、パプア独立の立場をとり、ソロモン諸島やパプアニューギニアと良好な関係を結んできました。しかし、この件に関して、前日、キルマン氏は沈黙を破り、まさかのインドネシアよりの発言をしました。

また就任して一ヶ月ですが、すでに、沢山の批判が新聞では踊っています。悪しき習慣は退治した方がいいのか、古きを温めた方がいいのか、キルマン氏の手腕が吉とでるのか凶と出るのかわかりません。キルマン政権がどれほど続くかも、見物です。

※トップ画像:バヌアツチーフとタムタム。

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