対北朝鮮制裁、カギは中国の本気度
朴斗鎮(コリア国際研究所所長)
米国と中国は2月24日約50日ぶりに北朝鮮制裁の内容と水準に最終合意した。
米国のケリー国務長官と中国の王毅外相は、2月23日(現地時間)にワシントンで開かれた記者会見場で、対北朝鮮制裁決議案について「重大な進展があった」と語った。ケリー長官は「Significant Progress」、王外相は「重要的進展」と表現した。
決議案の内容について、ケリー長官は「採択されれば過去の決議案を上回る」と述べ、王外相は「決議案が通過すれば北の核・ミサイルプログラムを効果的に制限できる」と自信を表した。両国が制裁の程度や効果をめぐり同じ声を出したのは異例だ。米国は25日(現地時間)、国連安全保障理事会にこの新決議案を提出した。ロシアの“抵抗”で採択が延びているものの3月3日前後には採択される見通しだ。
中国が、制裁案合意に歩み寄った背景には、朴槿恵大統領が在韓米軍の「THAAD(終末高高度迎撃ミサイル)」配値協議に踏み切ったこと、また韓国が開城工団の操業を停止する思い切った制裁を決断し、米日足並みをそろえてこれまでにない強い制裁を加えたことがある。特に米国が発動した「セカンダリーボイコット」を含む金融制裁(現地時間2月18日オバマ大統領が署名)は中国に強いプレッシャーを与えた。
この北朝鮮制裁決議案では、
1.航空機・ロケット燃料の輸出禁止
2.原油供給の制限と石炭、鉄鉱石などの輸入禁止
3.北朝鮮を出入するすべての貨物の検査義務化
4.対北朝鮮兵器全面禁輸
5.渡航禁止および資産凍結対象に北朝鮮の偵察総局と国家宇宙開発局や原子力工業省など12団体17個人を追加指定
6.北朝鮮銀行の国外での新規支店・営業所開設禁止
7.朝鮮・高麗航空の国連加盟国領空通過禁止
8.北朝鮮政権の人権侵害に対し制裁を加えることができる根拠
も盛り込んだとされる。
今回制裁で特に注目すべきは、領海内の疑わしい貨物を積んだ北朝鮮行き船舶の検査、禁輸品目積載航空機の離着陸および領空通過禁止、検査に応じない公海上の北朝鮮船舶の入港禁止などがこれまでの「要請」から「義務」へと強化されていることだ。
国連憲章第7章では、平和に対する脅威、平和の破壊および侵略行動に対する行動に対して制裁を発動できるとし、41条で非軍事的措置として経済制裁や臨検などが、42条では軍事的措置として武力制裁が可能とされている。このうち北朝鮮には41条の制裁が科せられてきた。しかし制裁はこれまで「要請」のレベルであった。今回の制裁では陸・海・空の制裁が「要請」から「義務」に強化されている。これによって対北朝鮮制裁は、陸・海・空封鎖のレベルまで可能となった。これは軍事行動一歩手前まで制裁が強化されたことを意味する。
北朝鮮としては、今回の制裁案が中国と米国が中心となって取りまとめられたという点で今までにない強いプレッシャーを感じているはずだ。北朝鮮における海外貿易の90%は中国に依存しており、また陸海空いずれの航路や運搬手段もそのほとんどを中国経由であるからだ。
ただ、これまでも中国は対北朝鮮制裁に賛成しながら実行段階で骨抜きにする行動をとってきた。そのため今回も懐疑的な見方があるのも事実だ。米国の戦略国際問題研究所(CSIS)東北アジア担当のボニー・クレーザー氏は24日付のワシントン・ポスト紙への寄稿の中で「(これまでのケースをみると)中国は最初には制裁に加わるが、1カ月もすれば制裁をしなくなる」と指摘した。
3月7日からの韓米合同軍事演習が質量ともに過去最大規模となり、北朝鮮の核・ミサイル基地への先制攻撃や金第一書記の除去を想定した「斬首作戦」が実施されることから今回の国連制裁に金正恩政権がどのような反応を示すかが注目される。
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この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長
1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統