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.社会  投稿日:2016/3/25

乙武氏「自己肯定感物語」破綻と障碍者の性


岩田太郎(在米ジャーナリスト)

「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

生まれながらに両手両足がない先天性四肢切断という重い障碍を持って生まれた、乙武洋匡(おとたけひろただ)氏(39)。積極的な生き方で障碍を乗り越え、「障碍者であることは不便だが、不幸ではない」という強いメッセージを、500万部を超すベストセラーとなった『五体不満足』などの著作で発信してきた。

仁美夫人(37)との間に長男(8)、次男(5)、長女(1)の3人の子宝を授かった乙武氏は、自民党から夏の選挙に出馬予定と見られていた。しかし、『週刊新潮』がスクープで報じた「五股不倫」が明るみになり、これまで築き上げてきた「爽やかでクリーン」というイメージが崩壊。立候補前から政治生命が絶たれるのではないかと見られている。

虚偽の個人イメージ崩壊としては、「全聾の天才作曲家」の佐村河内守氏や「高学歴ハーフタレント」のショーンKこと川上伸一郎氏のケースに類似している。

だが、乙武氏の虚像崩壊は、もっと深刻だ。「両親や周りの大人が愛情をもって育ててくれたので、明確な自己肯定感を持てた」「人生、だいじょうぶ」という壮大な救いの物語が、彼の口から語られていたのだが、実は乙武氏は自己肯定感を持っていなかったし、大丈夫でもなかったのである。

乙武氏は、自己の障碍を持つ体に対するコンプレックスを補うため、女性遍歴を重ねたフシがある。よく自身の一物の大きさや絶倫機能を自慢していたというが、そんなものは黙っていればよい話だ。それなりに役に立てば、それでよいのである。大きさや機能を殊更に言い募るのは、自分が本当にありのまま認められたという肯定感の欠如以外、考えられない。

生まれつき四肢を欠く彼は、下の世話も食事も常に誰かに頼まなければならない存在だ。実際には、健常者に想像もつかない欠落感があるのだろう。

そんな彼を、世間は好奇の目で観察しつつも、「自分は障碍者差別をしていない」として彼を持ち上げ、「差別主義者ではない」アリバイ作りに利用する。乙武氏も、「自己肯定感」という世間受けするフィクションをふくらませることで、そんな偽善者から成る世間を逆利用してきた。一種の「障碍者ビジネス」である。

乙武氏と関係を持った女性たちも、「欠損フェチ」やアリバイ作りの動機があったのかもしれない。結合性双生児で有名な19世紀中葉の『チャン&エン=ブンカー兄弟』はそれぞれ姉妹の白人女性2人と結婚し、多くの子供をもうけたが、兄弟2人が結合していたため(性器は別々にあった)、それぞれの妻とどのような「グループセックス」を行っていたか、世間は好奇心を持った。

障碍者である乙武氏の性生活に対する世間の関心は、それと変わらないレベルだ。世間と彼の関係性から、偽善的な「障碍の相互利用」を除くことは難しい。

では、乙武氏がそんな歪んだ世の中で自己肯定感を持てる可能性はあるか。彼と社会の関係でひとつ、偽善が入り込む余地のない、真実なものがある。それは、3人の子供との関係だ。子供たちにとって、乙武氏はかけがえのないお父さんだ。歪んだ同情心でも、欠損フェチでも、自民党が目論んだ障碍の政治的利用でもなく、子供にとっては唯一の父親なのである。

その意味で、父親としての乙武氏は欠けがなく、四肢がなくても唯一無二の完全な存在だ。その親子の関係にこそ、彼の欠落感の根本的解決と救いのカギがあるのではないだろうか。体の不全感は消えなくても、子に頼られる親としての存在は本物であり、それが真実の自己肯定感の源になる。

乙武氏が4月に40歳を迎える今からでも遅くはない。国政出馬などという浮ついた話は絶ち、これから成長する子供と地道な関係を築き、虚像ではない満足や自己肯定感を味わってほしいものだ。

 


この記事を書いた人
岩田太郎在米ジャーナリスト

京都市出身の在米ジャーナリスト。米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の訓練を受ける。現在、米国の経済・司法・政治・社会を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』誌などの紙媒体に発表する一方、ウェブメディアにも進出中。研究者としての別の顔も持ち、ハワイの米イースト・ウェスト・センターで連邦奨学生として太平洋諸島研究学を学んだ後、オレゴン大学歴史学部博士課程修了。先住ハワイ人と日本人移民・二世の関係など、「何がネイティブなのか」を法律やメディアの切り口を使い、一次史料で読み解くプロジェクトに取り組んでいる。金融などあらゆる分野の翻訳も手掛ける。昭和38年生まれ。

岩田太郎

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