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.政治  投稿日:2016/3/29

またリコール? 議員報酬大増額の名古屋市


相川俊英(ジャーナリスト)

「相川俊英の地方取材行脚録」

名古屋市でまた市議会リコールの署名集めが始まろうとしている。まるで上がりのない双六のような展開である。

名古屋市議会(定数75人)の自民(22)・公明(12)・民主(16)の3会派は3月8日、年800万円の議員報酬を1455万円に引き上げる条例案を提出し、賛成多数で即日可決した。これに対し、河村たかし市長が審議のやり直しを求めて再議に付したが、3分の2以上の賛成で再可決され、議員報酬は新年度から650万円増額されることが確定した。

こうした議会に猛反発した市民グループがリコール運動に打って出ることを決めたのである。「市民の会なごや」という新団体を結成し、3月29日に議会リコール運動のキックオフ集会を開催という次第である。

地方議員は兼職を認められた非常勤の特別職公務員で、議員活動の対価として「報酬」が支払われる。報酬額は各自治体が条例で定めることになっており、通常、学識経験者などで構成する特別職報酬等審議会の答申を基に決められる。だが、その審議会も首長などの報酬や類似自治体の議員報酬などを勘案して答申しているにすぎず、議員報酬額の算出の根拠は明確な訳ではない。

適正額をどう判断するかは難しく、きちんとした議論がなされぬまま決められているのが、実態である。そもそも報酬額を決定する権限は当の議会にある。こうしたことから議員報酬が高すぎるといった批判の声が各地で鳴りやまない。

議員報酬の額を巡るバトルが延々と続いているのが、名古屋市だ。6年ほど前の2010年夏、「議員のボランティア化」を持論とする河村たかし市長は年間1600万円の市議報酬を問題視し、その半減を掲げて議会リコール運動を主導した。議員特権をなくせとの主張は市民の圧倒的な共感を呼び、約37万人分もの有効署名が集まった。議会は解散に追い込まれ、出直し市議選でベテラン議員がバタバタと落選した。とって代ったのが、大量の河村チルドレン市議(28)だった。一連の動きは「名古屋の奇跡」とまで呼ばれた。

こうして議員報酬を当面の間半減し、年800万円とする特例条例案が議員提案され、全会一致で可決となった。この結果に名古屋市民の多くが喝采し、溜飲を下げのである。5年前の2011年4月の出来事である。もっとも、その時もなぜ議員報酬が800万円なのかという説明やその根拠は明確ではなかった。

ところが、その後、河村チルドレン市議の不祥事が相次ぎ、河村与党の勢いは失速していった。昨年の市議選で12議席にまで後退し、かわって自民・民主・公明が失地を取り戻すことに成功した。議席の3分の2をおさえた既存勢力は削減された議員報酬の回復を主要課題とした。だが、なぜ800万円ではだめなのか、なぜ1455万円でなければならないのかといった説明はなく、市民にすれば「お手盛り」にしか見えなかった。議員活動の最優先テーマが議員報酬の大幅アップでは、市民も納得できるはずもない。

こうして、議会リコールという声が再び、あがったのである。前回のリコール運動後に法改正がなされたため、署名集めの期間は2か月間で、議会解散の是非を問う住民投票の実施に必要な署名数は約32万人分である。はたして名古屋で未曾有の事態が再度、起こるだろうか?


この記事を書いた人
相川俊英ジャーナリスト

1956年群馬県生まれ。早稲田大学法学部卒。放送記者を経て、地方自治ジャーナリストに。主な著書に「反骨の市町村 国に頼るからバカを見る」(講談社)、「トンデモ地方議員の問題」(ディスカヴァー携書)、「長野オリンピック騒動記」(草思社)などがあり、2015年10月に「奇跡の村 地方は人で再生する」(集英社新書)を出版した。

相川俊英

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