オスプレイを政治利用する新聞の不見識 その2
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
次に主たる擁護派である産経新聞の記事をみてみよう。
これまでもオスプレイは沖縄県の普天間飛行場への配備時など、執拗な批判にさらされてきた。しかし、物資輸送をはじめ、災害発生間もない被災地のさまざまな需要に応じるため、オスプレイを活用しない理由はない。主力輸送ヘリCH46と比べ、速度は約2倍、航続距離は約4倍で、積載量も約3倍といずれの性能も上回るからだ。
救援活動での活躍は、ことさらオスプレイの危険性を強調し、過剰ともいえる議論をリードしてきた一部メディアにとっては“不都合な真実”になりかねない。しかし、露骨な反対運動のアピールは、逆に被災者や関係者の怒りや失望を買うだけではないか。
一部メディアのオスプレイ叩きに被災者から批判の声「露骨な政治的パフォーマンスでは…」 産経新聞 2016年4月20日
http://news.livedoor.com/article/detail/11434501/
佐賀県が地元関係者の顔色をうかがい、態度をあいまいにしているその時、大地震が熊本を襲った。米軍のオスプレイが佐賀空港を訓練拠点化していれば、救援活動のあり方もまた、さらに充実したものになった可能性がある。佐賀県はその辺りのことを、しっかり見つめ直すべきだ。
「中国刺激」の懐疑的論調はいかがなものか 日米で被災者支援に活躍望む 佐賀県に配備されていれば違った展開も 産経新聞 2016年4月21日
http://www.sankei.com/politics/news/160419/plt1604190026-n1.html
「僕は、なぜこうみんなにいやがられるのだろう」。よだかは嘆息をもらす。「今まで、なんにも悪いことをしたことがない」というのに。宮沢賢治の『よだかの星』である。
米軍の垂直離着陸輸送機オスプレイは、魚鷹(うおたか)の異名を持つミサゴを意味する。やはり、なぜか一部の日本人からひどく嫌われている。今年2月、岩手県で行われた日教組の教研集会では、「配備反対」をテーマにした授業の報告さえあった。最新鋭の輸送機は「なんにも悪いことをしたことがない」どころか、善行を重ねている。
反対を唱える人がいる。安全保障関連法で強固になった、日米同盟をアピールするパフォーマンスにすぎないというのだ。勘ぐりが過ぎるのではないか。よだかは絶望の末に、空をどこまでものぼり星になる。オスプレイには、いてもらわないと困る。何より有事の際、日本を守る「切り札」の一つである。
オスプレイのため息「なぜいやがられるのだろう。今まで、なんにも悪いことしたことがない」 産経新聞 産経抄 4月19日
http://www.sankei.com/column/news/160419/clm1604190012-n1.html
産経新聞はオスプレイの高性能を謳い、如何に国防に必須の装備であるかを力説する。だがCH-46と比較することはおかしい。そもそもオスプレイはCH-46の後継機である。CH-46と較べて高性能だといってもそれは当然で、大宣伝するような話ではない。
また今回オスプレイが使用されたのは陸上自衛隊高遊原分屯地(熊本県益城町)から南阿蘇村の白水運動公園への空輸などわずか数キロの近距離だ。ヘリの2倍の速度、5倍の航続距離というオスプレイ以外のヘリでも充分にこなせた任務である。
むしろ自衛隊のCH-47の方が、搭載量が多く、より多くの物資を運ぶことが可能だ。また孤立して物資の補給が必要な場所であれば、より小さなUH-1Jなどのヘリのほうが有用である。つまり今回の任務はオスプレイでなければこなせなかったものではない。
今回の米軍の災害派遣は外交的、政治的な日米協力の象徴であり、また経験を積むためのものである。その派遣にオスプレイ以外の機体が投入されたとしても何ら問題はない。
産経新聞の報道はオスプレイ危険論に対する感情的な反論にすぎない。危険論に反論するのであればデータや機体特性、運用上のメリットなどの事実を用いて読者が納得できるような反論を行うべきだ。
そして米軍海兵隊あるいは空軍のオスプレイの運用はともかく、陸自に必要かといえばかなり怪しい。率直に申し上げれば不要である。米軍に有用だとしても自衛隊でもそうだとは限らない。
安倍政権はキチンとした評価も行わず、初めに採用ありきでオスプレイの調達を決定した。当時の小野寺防衛大臣は記者会見における筆者の質問に答えて、「オスプレイを何機調達するのか決めていない。調達してから決める」と述べている。つまり、運用構想も、必要な部隊規模の見積もりもなかったということだ。多額の予算を使う防衛装備調達では許されないデタラメさだ。他の民主国家でありえないことだ。
オスプレイの調達単価はより搭載量が多い国産のCH-47の約二倍、米国産のCH-47の3~4倍の調達単価がかかる。陸自航空隊の毎年のヘリ調達予算は300億円前後しかない。しかも整備が不足して既存ヘリの稼働率はかなり落ちている。そこに新たに調達コストも維持費も高額なオスプレイを導入すればどうなるだろうか。
17機のオスプレイでも300名ほどの新設部隊が必要だ。陸自が既存のヘリ部隊や、師団、旅団を削減でもして、その人員や予算をつぎ込むならばまだわかるのだが、そのような話もない。様々な部隊、機関から予算や人間を引きぬくことになるが、それは既存部隊のますますの弱体化を招くことになる。
更に申せば米海兵隊が導入した優秀なオスプレイをなにゆえ米陸軍が採用しなかったのだろうか。それには相応の理由がある。その辺の事情は筆者の以前の記事を参照してほしい。
まともな評価もしないでオスプレイ導入を政治決定した安倍政権〜兵器は子供の玩具ではない ① http://japan-indepth.jp/?p=2962
(オスプレイを政治利用する新聞の不見識 その1の続き。オスプレイを政治利用する新聞の不見識 その3に続く。全3回)
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この記事を書いた人
清谷信一防衛ジャーナリスト
防衛ジャーナリスト、作家。1962年生。東海大学工学部卒。軍事関係の専門誌を中心に、総合誌や経済誌、新聞、テレビなどにも寄稿、出演、コメントを行う。08年まで英防衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(Jane’s Defence Weekly) 日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関「Kanwa Information Center 」上級顧問。執筆記事はコチラ。
・日本ペンクラブ会員
・東京防衛航空宇宙時評 発行人(Tokyo Defence & Aerospace Review)http://www.tokyo-dar.com/
・European Securty Defence 日本特派員
<著作>
●国防の死角(PHP)
●専守防衛 日本を支配する幻想(祥伝社新書)
●防衛破綻「ガラパゴス化」する自衛隊装備(中公新書ラクレ)
●ル・オタク フランスおたく物語(講談社文庫)
●自衛隊、そして日本の非常識(河出書房新社)
●弱者のための喧嘩術(幻冬舎、アウトロー文庫)
●こんな自衛隊に誰がした!―戦えない「軍隊」を徹底解剖(廣済堂)
●不思議の国の自衛隊―誰がための自衛隊なのか!?(KKベストセラーズ)
●Le OTAKU―フランスおたく(KKベストセラーズ)
など、多数。
<共著>
●軍事を知らずして平和を語るな・石破 茂(KKベストセラーズ)
●すぐわかる国防学 ・林 信吾(角川書店)
●アメリカの落日―「戦争と正義」の正体・日下 公人(廣済堂)
●ポスト団塊世代の日本再建計画・林 信吾(中央公論)
●世界の戦闘機・攻撃機カタログ・日本兵器研究会(三修社)
●現代戦車のテクノロジー ・日本兵器研究会 (三修社)
●間違いだらけの自衛隊兵器カタログ・日本兵器研究会(三修社)
●達人のロンドン案内 ・林 信吾、宮原 克美、友成 純一(徳間書店)
●真・大東亜戦争(全17巻)・林信吾(KKベストセラーズ)
●熱砂の旭日旗―パレスチナ挺身作戦(全2巻)・林信吾(経済界)
その他多数。
<監訳>
●ボーイングvsエアバス―旅客機メーカーの栄光と挫折・マシュー・リーン(三修社)
●SASセキュリティ・ハンドブック・アンドルー ケイン、ネイル ハンソン(原書房)
●太平洋大戦争―開戦16年前に書かれた驚異の架空戦記・H.C. バイウォーター(コスミックインターナショナル)
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●現代大戦略2005〜護国の盾・イージス艦隊〜(システムソフト・アルファー)