争点は「都政の透明化」 若狭勝衆院議員インタビュー
安倍宏行(Japan In-depth 編集長・ジャーナリスト)
「編集長の眼」
火ぶたを切って落とされた東京都知事選。三つ巴の戦いが始まった。自民・公明の推薦を受けた元岩手県知事・元総務相増田寛也氏、自民党で元防衛相小池百合子氏。そして野党統一候補、ジャーナリスト鳥越俊太郎氏だ。
小池氏は現職衆議院議員だったが、自民党の推薦は得られなかった。その小池氏に対し、自民党東京都連は7月11日、「都知事選挙における党紀の保持について」と題する文書を党員に配布。党として増田寛也氏を推薦するとした上で、他候補を応援することを禁じた。あて先は、「地域総支部長・選挙区支部長殿、各級議員殿」で、文書の発行者は「自由民主党東京都支部連合会会長 石原伸晃氏、幹事長内田茂氏、党紀委員長野沢太三氏」だ。
その中身は以下の通り:
1.党員は、党の決定した公認・推薦候補者を応援し、党公認・推薦候補者以外の者を応援してはならないこと。
2.党員は、反対党の候補者を応援し、または党公認・推薦候補者を不利に陥れる行為をしてはならない。3.各級議員(親族等含む)が、非推薦の候補を応援した場合は、党則並びに都連規約、賞罰規定に基づき、除名等の処分の対象となります。
あからさまに党が推薦する候補以外を応援したら、“一族郎党”処分する、との脅しに驚いたのは筆者だけではあるまい。そこまで党内を引き締めないと危ない、との危機感の現れなのか?この締め付けにすぐさま反旗を翻した自民党の衆議院議員が元東京地検特捜部副部長の経歴を持つ若狭勝氏だ。
その若狭氏は、7月11日のBSフジプライムニュースで下村博文衆議院議員が「本日の自民党東京都連の会議で、増田さんを推薦することで、参加者全員が挙手した」と発言したことに対し、Facebookや自身のブログで、「少なくとも私は手を挙げていませんでした。」と敢然と反論したのだ。選挙戦では小池候補の応援演説を精力的にこなしている。党除名も覚悟の上、だ。その若狭氏に16日、単独インタビューを行った。
安倍:今回の都連の党議拘束、無理筋じゃないかといわれています。これについてどう思われますか?
若挟:おそらく、焦りがあるのは間違いないと思いますね。都連側に。そして、すごい心理的な作戦であることも確かです。かなり厳しい選挙だなと思うと、ああいう文書出すこと自体、組織の心理としてまあ理解できなくはないと思いますね。それによる心理的な拘束、影響力って言うのは相当なものだと私自身非常に今感じています。私はそういう文書が出たとしても、自分の信念を曲げたくないという思いでやっているわけですが、ほとんどの人はああいう文書が出た段階で、いや難しい、という話になってきてます。
安倍:一定の効果はあるだろうと。でも親族、一族郎党まで縛り、効かせられないですよね、現実問題。
若挟:そうですね、括弧書きで「親族等を含む」、と書いてありましたから。親族って言うのは民法でいうとすごいものなんですよね。単に兄弟とか親子とかそういうものではないので。一定の法律的な用語が当然大事な話になっていくわけですから、法律用語を知らなかったといったら笑い話だし、法律用語を知っているんだったら、じゃあ親族って言うのはどこまでなんですか、と言ったら、たぶんほとんど口を閉ざすしかなくなっちゃうんじゃないかなと思いますね。
安倍:もし利権追求チームができるのでれば、自分も積極的に参加するとおっしゃってますけど、実際に都の中に利権構造があるとお思いですか?
若挟:利権構造はあると思います、私は東京地検特捜部の副部長も含め、検事としてやってきて、そういう意味では毎日利権構造の追及や既得権益の問題点を追及するという仕事を主にやってきたわけですから、その目から見たら、利権構造って言うのは東京だけなくどこにでもあるものだと思うんですよ。決してそれはいいことではないのですが、実際問題そういうものがないところはないんじゃないかと思うんですよね。だいぶ減ってはいると思うんですけど。東京都の場合は大きいですから、動くお金も大きいと。私のところには結構情報入ってくるんですよね。最近でもかなり具体的に情報が入ってきてまして、ですから利権構造があるかないかっていったら、あるというのは間違いないと思います。
安倍:都民の目から見てもオリンピックではさまざまな施設を作ったりするわけで、どんどん費用が膨らんでいくじゃないですか。ああいうのは納税者からすれば納得いかないし、何がどうなっているのか曖昧だし、そこに国も絡んでくるし非常に不透明だなという感じがします。やっぱり特定の人に金が流れているとか、ブラックボックスの中で物事が決まっているとか、そういうものは現実としてあると認識されていますか?
若挟:そうですね、まあ少なくとも大きなお金が動いて、何らかの利益を得る人がいるという風に、私は検事的な感覚ですけど、すごい分かります。で、ブラックボックスで人事だけでなくいろんな問題がどのように決められているかについて言うと、私自身は現時点ではっきり分かっているわけではないです。ただ、いろんな人から話を聞くと、少なくても都連の中で、ある一部の人が色んなことを決めているという話はそんじょそこらで聞かれますね。
安倍:小池さんも都議の中からそういう声をよく聞くと会見で言ってました。
若挟:少なくても私は、弁護士やったりコメンテーターやったり、あるいは議員になってからも、今の社会は4つの価値観を大きな支えにしていく必要があると思っています。それは、公正、透明性、説明責任、情報公開の4つです。利権構造は公正ではない。しかもそれが分からない形で、いろいろとお金とか、利益が動いていて、隠れてやっているというと透明性が失われる。説明責任も当然果たせない。内密にやってるから情報公開もあったもんじゃないと。要するに4つの価値観のいずれにも反する、あるいはそのうちのいくつかに反するっていうのは、今の日本は過渡期だと思うんですよ。今後日本社会をどういう風に変えていくか、クリーンで公正な社会に変えていくということには非常に大事な価値観です。それに反するものにはきちんと追求して、打破していかなければいけない、そういう思いがすごく強いんです。
安倍:今回の都知事選がその試金石になりうると?
若挟:そうですね。少なくとも都民、都民って言ってもある意味、東京都ですから国民と同じようなレベルだと思います。分かりづらいでしょうが、東京が変われば日本が変わるということです。
安倍:マスコミも、争点がよくわかんないとか何とか言いますが、実は結構ここが争点じゃないかなって思うんですけど。
若挟:そうですね。やはり今後の日本社会をどうして行くか。特に、オリンピック・パラリンピックまでにできることを、全部しておく。ハード面もそうですけど、ソフト面も含めて、税金の使い道とか、いろいろなものを含め、透明化したシステムをなるべくオリンピックまでに築き上げていく(ことが大切)。オリンピック後がまた新たな、違うステージになると思うんです。
次のステージにはそうしたややこしい話とか、目に見えない話とかわけの分からないようなことをなるべくとっぱらって、時代がそこから変わったと(言えるようにしたい)。50年経って振り返った時に、日本って言うのはオリンピックを境に、違うシステム、要するにどんどん新たな枠組み、新たな仕組みが始まったんだ、と言えるようなことを、僕は描いています。
安倍:それは大事なことですよね。特に2020年から後、ものすごい勢いで高齢化が進む。いわゆる社会保障費がものすごい勢いで膨らんでいく。いまのままでは立ち行かないってみんな分かってる。中長期のビジョンが見えてこないというのがあるんですよね。
若挟:つい最近副知事をやっていた人にお話をお聞きしたんですけど、大きなビジョンを描くって言うのは都知事としてそんなに簡単なことではないと。やっぱり都連とか都議会があるので、そこのやはり調整とかがあるので、かなり大変な話だと。大きなビジョンで動かしていくには、大きなリーダーシップを取らなきゃならない。やはりいままでと同じ様な枠組みだと大きなリーダーシップがとりにくいと思うんですね。少なくても舛添さんの時はそんなような、猪瀬さんが傀儡だといってますけど。そういうような形で来ていた感はあると思いますよね。
安倍:それはでも、なかなか変えられないんじゃないか、という人もいますよね?
若狭:変えられるか変えられないか。僕は今後の東京あるいは日本の試金石だと思いますけど。そんなに簡単でないことは確かですよね。やはり難しいんで、そういう意味ではおそらく増田さんが知事になるとそのまま旧態依然の形で進んでいくと思うんですよね。で小池さんがなったとして、それを変えられるかどうかっていったら、そんなに簡単にいまの立場で、変えますとか、任せてくださいとか言えるだけのものは持ち合わせてないが、少なくともチャレンジできてそれに期待をこめられるのは小池さんだとは思います。
安倍:例えば、こうしたら変わっていくというようなものはあるのですか?
若挟:2つの方法があると思うんですよね。一つは、対症法的な方法。要するにいまの問題点が何か1つ1つ検証し、問題点があれば、1つ1つ変えていく。もうひとつは要するに病理学的にもっと大きなところで変えていく。そういう2つの方法が必要だと思うんです。
事象毎に1つ1つ見ていくだけで、「はい、事足れり。やり遂げた。」というのは全然半分だと思うんですよね。そこから分析して、何をビジョンとして工夫できるか、ということに繋げないと意味ない。で、大きなビジョンでやっていくんですけれど、これはある意味国との関係とか税金の問題とか絡んでくるし、東京都だけでは絶対できない話もいっぱいあると。特区にして進めればだいぶ違っては来ると思いますけど。そうはいってもそんな簡単ではない。いずれにしても2つの目を持って、進めないことにはなかなかうまくいかない。
安倍:特に後者ですよね。意思決定のシステムも少しずつ変えていかなければならないし、首長と相対峙する議会勢力に、同じ道を歩ませるための仕掛けみたいなものが必要でしょうね。そっちに行かざるを得なくするというか。行くと自分達にとってもメリットがある、行くと自分たちの議席を守れる、というような流れを作るとか。
若狭:そうですね。
インタビューを終えて)
若狭氏が党を除名されるかどうかは現時点では不明だが、選挙後党紀委員会が開かれるかもしれない。しかし、今回の都連の文書を厳密に遵守するとなると、仮に小泉純一郎元首相が小池百合子氏の応援に来たら、小泉進次郎氏が処分の対象になってしまう。また、2011年の愛知県知事選では自民党を除名処分となった大村秀章氏を菅義偉議員(現官房長官)が応援に入ったこともあり、ことはそう単純ではなさそうだ。
それはともかく、今回の都知事選、争点をアベノミクスの否定や原発、憲法問題など国政レベルの課題に求めることには違和感がある。小池候補と若狭議員が指摘するまでもなく、オリンピックに関する一連のドタバタ劇を見ていると、都政に非効率や不透明さがあることは明白だ。育児や介護の問題、首都直下地震対策、渋滞緩和、財政問題にテロ対策・・・都民の暮らしをよくするために取り組まねばならない課題は山積だ。
よくよく考えてみれば、最大の争点は、「メガロポリス東京の意思決定システムをどう公正、透明にしていくのか」ということに尽きるのではないか。そこにイデオロギーは必要ない。その為なら、都議会の中にある抵抗勢力と相対峙し、改革を断行する胆力が次の知事に求められるのではないか。もし、それを邪魔する勢力が都議会にあるのであれば、来年の都議会選挙でそんな勢力は落とせばいいだけの話だ。都民の為の政治を取り戻すことを私たちは第一義に考えるべきだろう。決して、人気投票に走ったり、国政政党の論理に振り回されたりしてはならない。
各政党もそこを取り違えているように見える。公党として、オリンピック後の政治の在り方を真剣に考え、意思決定を透明にしていく努力を怠れば、有権者の政治離れは東京から日本全体に広がり、欧米で進行しているポピュリズムが日本でも加速するであろう。それが有権者にとって好ましいことかどうかは、明白だ。
トップ画像:© Japan In-depth 編集部
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。