無料会員募集中
スポーツ  投稿日:2016/7/24

「下町ボブスレーで五輪金を!!」その2 “町工場の夢”をつなぐ


神津伸子(ジャーナリスト・元産経新聞記者)

“下町ボブスレー”プロジェクト推進委員会が、2018年韓国・平昌(ピョンチャン)冬季五輪を目指すジャマイカ代表に2人乗りの新型そり3台を無償提供する。しかし、それは日本代表での採用が見送られての、東奔西走での結果だった。

■映画「クール・ランニング」の国ジャマイカが採用!

熱い思いは国境を越えてー。

2回の冬季五輪で、日本代表チームに採用されることはなかった下町ボブスレー。

22年前に公開された映画「クール・ランニング」のモデルとして有名な、ジャマイカ代表チームが、その下町ボブスレーに興味を示した。今年の1月から、長野市ボブスレー・リュージュパークで滑走テストを実施。ジャマイカ側の、要望に丁寧に応えた。そして、採用が決定。技術力への高い評価はもちろんだが、決め手になったのは、日本の町工場ならではのきめ細かい対応力だった。

テストの際、滑走を終える度に、ジャマイカ選手から出される改善希望点に、プロジェクトチームの技術者はその都度ていねいに受け止め、改良に努めた。その誠意ある姿勢にも、ジャマイカチームは、打たれたという。下町ボブスレーとなら最高のパートナーになれると。

「中小企業の客から難易度の高い要望が寄せられた時にも、きめ細かく対応出来る良さと、俊敏に動くフットワークが生きた」とチームはみている。

委員長の國廣愛彦は、こう話す。「確実に言われたことをやるが、要求される以上のことをするのが“下町の職人魂”です」

ゼネラルマネジャーの細貝淳一も「私たちの、もの作りの力を生かして、レースコースも技術もない国での、ビジネスモデルができないか。環境が整備されていない国では、私たちが様々サポートすることが重要になって来る」

■クール・ランニング、グレードアップ!!

6月末から今月上旬、プロジェクトチームの細貝らメンバー3名は、ジャマイカ・キングストン市を訪問。現地で、同国ボブスレー連盟のクリス・ウトークス会長と契約書の条文の交渉を行った。その後、5日に在ジャマイカ日本大使公邸で、調印式を執り行った。契約書には、そり提供の骨子、機密情報の保持、知的財産の帰属、協賛企業の開拓などについて定められている。来賓、報道関係者も多く詰めかけた。現地でも

“クール・ランニング、グレードアップ!!”など、大々的に報じられた。チームメンバーは、テレビ出演などもこなした。

また、文化・ジェンダー・娯楽・スポーツ省のオリビア・クランジ大臣を表敬訪問。「下町ボブスレーを、フルサポートする!」と、心強い言葉に、細貝らは胸を熱くした。

オリンピック委員会のマイケル・フォンネル委員長とは「ボブスレー競技は、マシンの性能が重要。資金不足のカリブ海諸国と先進国の差は歴然としている。ジャマイカ選手の身体能力と、日本の最新式マシンがあれば、世界のトップが狙える」との、強いタッグを再確認。

■ここがスタート地点

ジャマイカボブスレー連盟のクリス・ストークス会長は、「これ以上のソリはないと確信した。下町ボブスレーで五輪では金を取る!!」と宣言。とは言え、まだまだ五輪への道のりは始まったばかりだ。

最高速度120〜130km/h、“氷上のF1”。日本代表に採用されない理由は、ドイツ製そりとの比較テストで、最高速度、ゴールタイムとも上回れないと、指摘されたことだった。

今後、下町工場の技術を駆使した空気抵抗を最大限小さくした下町スペシャル、ジャマイカ選手の要望を反映した新型のジャマイカスペシャルを、今シーズンに向けて新たに製作する。そりの開発において、ジャマイカ連盟は選手の立場からアドバイスを行う。新型が完成した後は、トレーニングや競技会への参戦を重ねて、韓国・平昌五輪の出場権獲得を目指す。

「いろいろトライできるのは、今季が最後だ。五輪出場がかかる来シーズンは勝負の年になります。しっかりと選手の要望をくみ取って、最高のパフォーマンスを発揮出来るそりを製造したい」。平昌五輪まで、プロジェクトチームはジャマイカ代表に全力投球する。

一方、日本代表チームへの提供を、諦めたわけではない。「その夢は捨てていません」として、平昌五輪以降、いつの日か―。目標を掲げる。今回も、下町スペシャル1台を、国内チームに提供する。

“ものづくり日本”の最高の技術を、下町の町工場の力を結集して世界へ!!プロジェクトメンバーの熱い思いは、諦めず邁進し続け、その舞台は地球規模となった。

ものづくり。町おこし。ひとつ、ひとつコツコツと積み上げていく素晴らしさ。抜群のチームワーク。あらゆる意味で、日本中自治体の目標、参考になるプロジェクトとなった。

夏の五輪だけではなく、冬季オリンピックでも、ジャマイカ国旗や日の丸が翻る日が来ることを願う。ボブスレー会場で。

マシンは、もちろん

下町ボブスレー。

その1の続き。全2回)

*トップ写真:寒い長野の冬。チームジャマイカ&下町ボブスレーは、試行錯誤を繰り返し、最高のマシーンを作り上げていく。©神津伸子


この記事を書いた人
神津伸子ジャーナリスト・元産経新聞記者

1983年慶應義塾大学文学部卒業。同年4月シャープ株式会社入社東京広報室勤務。1987年2月産経新聞社入社。多摩支局、社会部、文化部取材記者として活動。警視庁方面担当、遊軍、気象庁記者クラブ、演劇記者会などに所属。1994年にカナダ・トロントに移り住む。フリーランスとして独立。朝日新聞出版「AERA」にて「女子アイスホッケー・スマイルJAPAN」「CAP女子増殖中」「アイスホッケー日本女子ソチ五輪代表床亜矢可選手インタビュー」「SAYONARA国立競技場}」など取材・執筆

神津伸子

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."