ミサイル防衛問題で韓国脅す中国
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー(2016年8月8日-14日)」
先週末から、ようやくリオ・オリンピックが始まった。国際的には政治休戦に入ったようだ。唯一、東アジアでは韓国へのTHAAD配備をめぐり、韓国内だけでなく、中韓間でも混乱が生じている。日本は今回の韓国の決断を高く評価すべきだと思うが、同システムが配備される予定の星州では地元住民の反対運動が続いているという。
先日、朴槿恵大統領は「先祖の墓がある星州にTHAADを配備したのは一種のノブレス・オブリージュだ」と述べたそうだ。あまり説得力のある説明とは思えない。中国を刺激するTHAAD配備について多くの国民を納得させるのは容易ではない。案の定、中国側はこれに激怒し、韓国に対する厳しい報復措置を始めたようだ。
中韓人物交流の縮小、韓国企業関係者の商用ビザ発給要件強化、韓国製化粧品輸入や「韓流」イベントのキャンセルだけではない。人民日報は「韓国最高指導者」が「慎重に問題を処理し、小貪大失で自国を最悪の状態に陥ること」を避けなければ「韓国が最初に打撃目標になる」と警告し、韓国側に大きな衝撃を与えたという。
対する韓国は中国の主張を「本末転倒」と反論した。朴槿恵政権下で中韓関係が悪化すると一体誰が予想できただろう。韓国のある識者は今回の中国側の傲慢な態度が「五百年前に朝鮮王が中国の使者に跪いた際の中国側の嘲笑と嘲弄」を思い出させると述べた。中国と陸の国境で接する国の苦労は昔から変わらないようだ。
〇欧州・ロシア
西欧は夏季休暇の真っ最中らしく、中央銀行関係者以外は仕事していないように見える。これに対し、ロシア方面では8日にバクーでイラン、ロシア、アゼルバイジャン三国の首脳会議が、9日にトルコとロシアの首脳会談が、10日にはロシア・アルメニア首脳会議がそれぞれ開かれる。どうやら独裁者たちの方がずっと仕事中毒のようだ。
〇東アジア・大洋州
9日に韓国与党が党大会を開き次期指導者を選出する。12日にはフィリピンの新大統領が反政府のモロ民族解放戦線の指導者と会談するという。結果を出すためなら、モロ戦線とも手を握るということか。フィリピンは民主主義の国のようだが、そのリーダーについては、どうも「当たり外れ」があるようだ。
〇中東・アフリカ
今週の中東は静かなものだ。8日には大統領を選ぶためレバノン議会が招集されることになっている。それにしても、この国の大統領は一体何時になったら決まるのだろう。アラブ諸国の自己統治能力のなさには、ただただ驚くしかない。テロが続発しないだけ、レバノンはシリアやイラクよりまし、ということか。
〇アメリカ両大陸
7日から国連事務総長がアルゼンチンを訪問する。同国がIMFやOECDと協力するよう働き掛けるそうだが、11日には公務員のレイオフに抗議する24時間ストライキが予定されている。果たしてうまく行くのだろうか。一方、オリンピック開催中のブラジル議会では9日に大統領弾劾につき投票がある。大したもんだぜ、ブラジルという国は。
〇インド亜大陸
中国の外交部長が12日から訪印する。やはり独裁国家の指導者・閣僚は簡単には休ませてもらえないのだろうか。今週はこのくらいにしておこう。
いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。