コピー・ペーストと「守破離」〜学習とは「型」を覚えた後、それを破って離れるプロセス。「型」はいつかは破らないといけない。
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
◆コピーペースト思考の特徴◆
「自分の頭で考える」とよく言うけれど、一体それはどういう事なのか。例えばある物事に対し、答えを知っている人でも、自分で考えてそこにいる人と、もらいものの思考でそこにいる人がいる。その違いを考えてみたい。
例えば「子供の足が速くなるにはどうしたらいいか?」と二人に聞く。Aさんは、経験則から「大きく動かしなさい」と言う。Bさんは、「教科書にそう書いてあったから大きく動かしなさい」と言う。二人とも教科書は見ている。Aさんは経験と照らし合わせて教科書に同意している。Bさんは教科書をコピーしている。
子供が尋ねる。「どうしてですか?」
Aさんは「経験からそう思う」と答える。ところがBさんも「経験からそう思う」と答える。Bさんは教科書のコピーだという事を忘れている。というよりも自分の考えだと本気で信じている。二人とも答えは同じ。でも全く違う。
ある学説が出る。大きく動かすより小さく早く動かした方がいい。Aさんは「本当だろうか?」と疑い、自分の経験と知識でそれを検証する。Bさんは「その学説はどの程度の権威が保証しているか?」を見ている。その学説が教科書に載る。Bさんは新しくそれを頭にコピーペーストする。
Aさんは悩む。大きく動くべきか、小さく動くべきか。答えはいつも暫定的で、そして、過去の自分はいつも至らないと思っている。Bさんは悩まない。「間違えたのは教科書のせいで、自分の頭のせいじゃない。」つまり自分の責任ではない。二人に尋ねると、二人ともこう答える「自分で考えた結論です」
「自分で考えろ」という言葉が効きにくいのは、その人にとっては、「考える」とは「コピーペースト」の事で、それ以外の答えの出し方は知らないから。知らないもの、見えないものをいくら説明しても、伝わらないのだと思う。
◆コピーペーストと守破離◆
もちろん、人間は言語や振る舞い、表情も含めコピーから始まっている。その先まで深くいくなら「自由意志」はあるのか、というような所に行き着くのだろうけど、そこまでいかない所の話。
「型文化」というのが日本にはあって、それはまず「考えるより先に型を覚えてしまおう」という事。初心者は何が大事かもわからないから、いちいち疑問に思わずにひたすらに言われた事、教わった事を繰り返す。そうして反復がある臨界点を越えるとできるようになる。
体罰も、コピペ思考も、根性論も、私にはこの「型文化」の副作用に思える。考えるな、身体で覚えろ、さすればいつかはわかる日が来る。反復の奨励、思考の否定。「型」は誰にでも効くから、みんなを平均値に引き上げる効果があるように思う。
「守破離」という言葉がある。学習には「型」を覚えた後、それを破って離れるというプロセスがあるという意味。コピー自体は学習プロセスでは必要な事だろうけれど、ある時点から今度はそれを破り始め、オリジナルを作り始める。「型」はいつかは破らないといけない。
自分の頭で考えるとは、照らし合わせるものがある、という事。その照らし合わせる鏡を作る為に守破離の「守」があるのだろうけど、それを破れないとコピペ思考に陥る。日本の教育は基本は「型」を教えるものだけど、破るシステムがあまりなく、だから自力でそれに気づかないといけない。
「型」は記憶。記憶して記憶して考え無くてもできるまでに記憶する。オートマティックな状態を作る。問いかけると、同じ「型」を持った人は、みんな同じ答えが出てくる。答えを出したのは頭ではなくて、「型」というシステム。
「型」から離れて初めて、照らし合わせる事が出来る。「型」そのものになっている人は自分がしている事が「型」だとも知らない。「型」から出た答えを自分の考えだと信じている。
【あわせて読みたい】
- 【滝川クリステルの動画番組】『今、何を考え、どう動くべきか』第二回
- 宝の山「NIPPON」を日本人が認識するための、国内クール・ジャパン活動をもっと!(生駒芳子・ファッション・ジャーナリスト/アート・プロデューサー)
- 正社員を辞めて自分らしく働く=“ハイスキルマザー”って何?〜女性がイキイキ働き続けられる柔軟なワークスタイルの実現へ向けて(田中美和・株式会社Waris 共同代表)
- 伝統工芸の後継者を育てる“ネットのチカラ”〜女性の感性と特性が活きる「日本の色」伝統技術の現場(大平雅美・アナウンサー/大正大学客員准教授)
- 箱根駅伝とAKB48〜その「人気」は「場」にあって「演者」にあるのではない(為末大・スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
- “戦略的住まい選び”こそ現代のサバイバル技術〜家は買わない・賃貸は更新しない・ベースキャンプを定める(安藤美冬・株式会社スプリー代表取締役/作家)