.政治 投稿日:2016/10/26
エンブレム騒動エピローグ、東京2020応援マークとは?東京都長期ビジョンを読み解く!その38
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
「西村健の地方自治ウォッチング」
先日、リオデジャネイロ五輪・パラリンピックのメダリストのパレードが銀座で行われ、多くの人々が沿道に並び、熱狂した。ヒーロー・ヒロインを追う携帯カメラ、温かいメッセージのこもった横断幕、歓声に対するメダリストの心からの笑顔、、、、、確かにそこには幸せな空間があった。次は東京五輪・パラリンピック。沿道の国民、メダリストともに心の片隅に夢や期待、希望を持ったり、新たな誓いを立てたりする人も多かっただろう。
一方、東京の日常の風景では、東京五輪・パラリンピックのエンブレムが町かどやテレビコマーシャルなど様々なところで見かけるようになった。エンブレムを好きでなかった自分も今では東京五輪の首かけストラップを巻いたり、ピンバッジをつけて颯爽と東京都心を闊歩したりしている。
こうした中、「東京2020応援マーク」が発表された。組市松紋(くみいちまつもん)の大会エンブレムの一部を切り取った、アレンジされたデザインである。(注1)都政は揺れに揺れているが、その喧騒から一歩離れて(都政ウオッチは1回お休み)、「デザイン」の力について今一度エッセイ風に考えてみたい。
1 デザインの持つ意味
なぜこうしたエンブレムが必要なのか、五輪には5つの輪のデザインがあるではないか、とずっと思っていたというのが正直なところだ。しかし、エンブレムがあることの効果を今になって改めて感じる。
第一に、何を行っているのか、何のイベントか、認識できるようになることだろう。他のイベントと区別できるし、他の五輪とも区別ができるようになる。
第二に、スタッフや参加者の一体感がでる。皆の心を一つにする効果がある。個人的に「メンバー」「一員」であることを無意識的に感じられ、チームの1人としての安心感に包まれる。第三に、それぞれの国民、参加者がそのデザインに自分の思い出を込められる、記憶できることだ。五輪のエンブレムを見ると、その当時のことを思い出せる、そうした機能を持っている。
五輪観戦での言葉にできない感動、仲間とともに盛り上がった感情の高ぶり、「場」を共有した幸福感、外国人との意外な交流、大切な人とのプレシャスな思い出・・・。時には、切ない思いとともに、そっと心にしまう記憶も中にはあるだろう。いつの日か、年をとった時に、エンブレムを見てその頃を思い出し、付き合いがなくなってしまった“愛した人”や大切な旧友のことをふと想ったりすることもあるかもしれない。デザインには社会を変える力もある、とまでは言えないものの、それなりの役割を果たしているといえる。簡単に言うと、シンボルとしてのエンブレムというところだろうか。
2 公式エンブレムの意味そして今回のエンブレム
「江戸時代に「市松模様(いちまつもよう)」として広まったチェッカーデザインを、日本の伝統色である藍色で、粋な日本らしさを描いた」そうだ。
・ 形の異なる3種類の四角形の組み合わせ:国や文化・思想などの違い
・ 違いはあってもそれらを超えてつながり合うデザイン:「多様性と調和」のメッセージを込め、多様性を認め合い、つながる世界を目指す場であることを表した。とのこと。(注2)
3 改めて評価すると・・・
いくつかの候補の中から、選出されたということもあるが、この公式エンブレムを改めて振り返ってみよう。「東京2020大会エンブレム最終候補作品に関するご意見集約レポート」によると、今回のデザインは「日本らしさを感じる」「伝統を感じる」一方、「力が弱い」「当たり障りがない」「保守的」といった意見が出ており、ネットでは「暗い」「五輪らしくない」「(町に並んだ姿は)葬式みたい」などの意見が出ている。特に藍色一色、市松模様の部分は好みがわかれるようだ。
・落ち着いている・地味 ⇔ 華やかさに欠ける
・クール ⇔ 暗い
・静的 ⇔ 躍動感がない
・和の伝統 ⇔ 江戸っぽい
よく言えば左側のように言えるし、悪く言えば右側のように言える。そのエンブレムを見る人の価値観や好みによって意見が分かれてしまう。1つの物事も捉え方によって上記のように、どちらにでも解釈することが可能になるわけだ。
広告業界で働く女性デザイナーによると「ありそうなもの、ありがちではある」「しかし、隙間の作り方など、技術や細部へのこだわりが感じられる」「技術的に完璧で、まとまりがある」との意見をもらった。プロの視点を受けて改めて見てみると、不思議なことに違って見えてくる(笑)。
また、人間とは不思議なもので、個人的には好きではなかったデザインが、使ってみると結構慣れてくるものでもある(前述したように自分は変節してしまった)。デザインは使われて初めて、体をなすというところもあるのだろう。味が出てくるというものだろう。デザインの活かし方は、それぞれの人の心の中にあるのではないかと思ったりする。
4 新たに出てきた「応援マーク」
そして、今回出てきた応援マーク。公式スポンサーでなくても使える第2エンブレムという扱い。大会に向けた雰囲気を盛り上げる位置づけであって、対象はスポーツ大会や競技体験会、演劇や音楽の公演などで使われることが想定されている。
組織委に「応援プログラム」として申請し、認証を受ける必要がある。とはいえ、あなたの団体でも、使える可能性もあるみたいだ。多額のスポンサー料を払わない団体にとっては助かる、なかなか素晴らしい取り組みだ。この取り組みはロンドン五輪・パラリンピック以来行われるようになった取り組みだそうだ。
ただし、比較すると、佐野研二郎さんのスタイリッシュなデザインと多彩な展開例は改めて今考えてみると「もったいなかった」と思えてしまう。
最後に、この「応援マーク」。当団体も申し込みをしてみようと思う。生きているうちに一度しかないイベントである。せっかくの機会、みなさんも申請してみて、参画してみてはいかがか。東京五輪を観客として迎えるだけでは、もったいない。
(注1) 関連記事
http://www.asahi.com/articles/ASJB65GMPJB6UTQP01M.html
http://www.sankei.com/life/news/160126/lif1601260003-
n1.html
http://dentsu-ho.com/articles/4563
(注2)【参考】東京2020大会エンブレムコンセプトムービー
https://www.youtube.com/watch?v=OEFfrdnvWZs&feature=youtu.be
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。