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.国際  投稿日:2016/11/14

「選挙権は18歳」が常識である理由 年齢と権利義務の世界事情 その2


林信吾(作家・ジャーナリスト)

「林信吾の西方見聞録」

選挙権と被選挙権の年齢についての話を続けようとした矢先、米国大統領選挙で共和党のトランプ氏が勝利を博したというニュースが飛び込んできた。驚かなかったと言えば嘘になるが、総得票数では民主党のクリントン候補が上回っていたので、日本のマスコミが書き立てたところの「世紀の番狂わせ」は、いささか大袈裟であろう。むしろ、過去にも例があるが、得票数で上回った候補が必ずしも当選できない米国大統領選挙の不思議さを、もっと報じてもらいたかった。

この、トランプ大統領を誕生させるに至った、米国の選挙システムの話は12月に、そして米国の新政権については、言いたいことが山ほどあるので、正式にトランプ政権が発足する来年1月に、それぞれ書かせていただこう。ここでは、話を選挙権と被選挙権の年齢にひとまず戻すが、米国でも選挙権は18歳から与えられる。ただ、一般に選挙人登録をせずに投票することはできない(犯罪になる)。これは、日本のような住民基本台帳が存在せず、どこかの州に住民登録をしていても、自動的に選挙人名簿に名前が載る、ということがないからである。自己申告で選挙人登録をすることで、はじめて選挙権が得られるが、登録さえ済ませれば米国外にいても支障なく投票できる。

一方、被選挙権はと言うと、これが結構複雑で、上院議員・30歳以上で、9年以上米国市民であること。下院議員・25歳以上で、7年以上米国市民であること。そして大統領は、35歳以上で、生まれながらの米国市民であり、14年以上米国市民であることが、被選挙権を得る条件となっている。

オバマ大統領が当選した直後、「本当は米国生まれではないのではないか?」と疑問を呈する声が出たり、あのアーノルド・シュワルツネッガー氏は、オーストリア出身であったことから、カリフォルニア州知事にはなれても大統領候補にはなれなかった、というのは、日本でも割と有名な話だ。ただし、どちらも日本では考えにくいことでもある。

いや、日本でも昨今、民進党の新代表となった蓮舫さんはじめ、複数の議員の二重国籍問題が取り沙汰されたが、これからは、両親のいずれかが日本生まれでない、もしくは日本国籍ではないという人たちが、社会の各分野で活躍するようになるだろう。在日外国人に選挙権を付与すべきか否かという議論は、今も続いているし、選挙権や被選挙権の問題は、年齢だけにおさまることはないと、私は確信している。

またも「話を戻して」だが、世界に目を向けると、選挙権は18歳から、被選挙権は25歳からという例が、やはり多いようだ。北朝鮮では、選挙権・被選挙権ともに、17歳から与えられるが、そもそも民主的な選挙制度など存在しない国であるから、あまり参考にはなるまい。

特徴的なのは英国で、選挙権・被選挙権ともに18歳から付与される。さらには、英国及びアイルランド、英連邦諸国もしくはEU諸国の国籍を持つ者は、選挙人登録をすることができる。英連邦諸国出身者までは、大英帝国の遺産と言うことだろうが、EU諸国出身者については、今次の離脱騒動によって先行き不透明となった。

ところで、前回述べた通り、日本においても選挙権が付与される年齢が、20歳から18歳に引き下げられたが、反対論がなかったわけではない。典型的なのが、内閣参与の飯島勲氏が『プレジデント』電子版に寄稿した一文だろう。

概略紹介させていただくと、氏の考えでは、選挙権年齢は18歳に引き下げるより、被選挙権と同様の25歳に引き上げてもよいそうだが、その理由が凄い。かつて女子大で教鞭を執った際、現職の大臣の名を答えられなかったり、講義中にスマホをいじる学生に悩まされたから、というのだ。そんな女子大生が、25歳になったら政治のこともちゃんと考えられるようになるという根拠が、どこにあるのだろうか。

またも英国を引き合いに出すと、実はこの国では、選挙権は18歳だが被選挙権は21歳から付与されていた。しかし2006年に法律が改正され、18歳でも立候補できるようになったのである。ある候補者が、議員たるにふさわしい資質を備えているか否かは、有権者が判断すればよいことで、年齢で区切る意味など無い、という判断だったという。これが常識というものであろう。

私は飯島氏が『週刊文春』で連載している政治コラムについて、現場に長くいた人だからこその面白い読み物だ、と評価していたのだが、この程度の常識にも達していない人だったのか、といささか幻滅した。次回は、女性の政治参加の話をさせていただくが、これはいわば前振りである。

(その3に続く。その1も合わせてお読み下さい。)


この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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