信頼を構築する7つの要素
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
最近信頼とは何かについて社員と議論をしていたので少しまとめて見ました。信頼はどうやって獲得され、信頼の内訳はどうなっていて、また日常私たちはどのような人を信頼しているのでしょうか。
似た言葉で信用というものがありますが、意味は少し違うようで、信用はいわば過去の成果に関してもの、信頼は未来に予測するもの、というのが一般的な見解のようです。まあ、実際にはほとんど違いなく使われているようです。私なりに考えてみて仕事の局面において、信頼は7つの要因に分けられるんじゃないかと思いました。もっと深く考えると他の要素もあるかもしれませんが。
①能力ーその人は優秀か。
(総合力、地頭、ポテンシャル、適応能力、成長の余白)
②専門性ーその人は何に秀でているか。
(職歴、技能、免許、技術レベル)
③貢献ーその人は貢献しようとしてくれるか。
(仕事に対する貢献、リーダーシップ、責任感、コミットメント)
④好き嫌いーその人を好きか。
(好き嫌い、その人と一緒にいたいか、その人に得をしてほしいか)
⑤価値観ーその人はどのような判断をしそうか
(共感、世界観、動機)
⑥人脈ーその人の仲間はどのような人たちか
(その人の支援者は誰か、その人の為に動く人は誰か)
⑦影響力ーその人は社会から信用を得ているか
(一般的評価、一般的イメージ、ブランド、発信力)
私の場合、今の所これらを総合的に判断し、人を信頼しているように思います。⑦の影響力は私たちの職業独特の観点かもしれません。信頼とは未来のその人のパフォーマンスに対する予測であり、予測は過去によって支えられています。実際に仕事を一緒にする場合もあれば、その人と会ったり仕事をした周囲の人の評判や、公になっている過去の仕事を見て判断したり、今であればSNSの影響力や発言内容も精査の一部になろうかと思います。
もちろん業界によっても違っていて、例えば閉鎖的な世界では、④好き嫌いと⑥人脈が重要になると思います。特に⑦影響力と⑥人脈を持っている重要な人物に好かれているかどうかで勝負が決まったりします。だから、閉鎖的な世界ではとかく人間関係を重視する構図になりがちです。こういう世界では、信頼は④好き嫌い、⑥人脈または③貢献が大事になると思います。
一方で実力がはっきりとわかりやすく出る世界ではだいぶ様相が変わります。プロスポーツの世界での監督から見ると、ほとんど④好き嫌い、⑥人脈、⑦影響力は関係ありません。ウサインボルトはみんなに大いに好かれていますが、仮に嫌われていたとしても監督は起用するでしょう。
チームの場合、広告効果が高いという点で⑦影響力を重視することはあるかもしれませんが、例外ではないかと思います。大事なのは①能力、②専門性、③貢献ですが、もしかしたらチームスポーツでは若干ながら④好き嫌いも関係するのかもしれません。アマになるほど④が重視され、プロになるほど②専門性が重視される感じがします。プロでも若いうちにみつけて育成が必要なものは①能力が重視されるように思います。
選択の繰り返しにより、徐々に信頼が獲得されていき、なるほど確かにあの人が選ぶものは確かだという履歴が残ると、さらに信頼は上乗せされます。孫さんのVCには乗っかりたいというのはそういうことかなと思います。反対にその履歴がうまくいっていないと徐々に信頼自体が失われます。
意図せずして自らの信頼が一人歩きすることもあります。有名な美食家が通っている店であったり、ウォーレン・バフェットのポートフォリオであったり、陸上選手の子供が履いている靴だったり、(実際には何も考えずに履かせることが多いですが)あの人が選ぶならいいに違いないと、自動的に足跡が信頼を生んでしまうわけです。
例えば営業などで多いですが、④好き嫌いを重視する人もいます。比較的軽い仕事であればこれでもいけますが、ある程度重たい仕事を任せる時には相手も信頼も賭けることになるので厳しくなります。やはり多少なりとも②専門性がないと難しいように思います。
また②専門性だけを重視してる人の場合、③貢献と⑥人脈がなく巻き込みがうまくいかない場合もあります。特に外部の人たちを惹きつける必要がある場合、さらに⑤価値観を前面に出す必要もあります。⑤価値観があるなと思う人間に任せると、後でいちいち修正をかけなくても少なくとも方向性に関しては自分と似た判断をするだろうという予測が立ちます。
若い時は、とにかく①能力、②専門性、そしてたぶん④好き嫌いにも多分に影響を受けて人を信頼していたのだと思うのですが、最近は⑤価値観が一番大事で、次に③貢献だなと思うようになりました。価値観が同じで(自由でオープンで内省的)、貢献する姿勢(特に社会に対して)を持っているかどうかが私にとっては重要なようです。
とにもかくにも信頼というのはなかなか得難いもので、商売においてはそれが一番大切だなと感じています。将来的には私も会社も、⑤価値観、③貢献、そして何かの形で②専門性を評価されるようになりたいなと思っています。
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この記事を書いた人
為末大スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役
1978年5月3日、広島県生まれ。『侍ハードラー』の異名で知られ、未だに破られていない男子400mハードルの日本 記録保持者2005年ヘルシンキ世界選手権で初めて日本人が世界大会トラック種目 で2度メダルを獲得するという快挙を達成。オリンピックはシドニー、アテネ、北京の3 大会に出場。2010年、アスリートの社会的自立を支援する「一般社団法人アスリート・ソサエティ」 を設立。現在、代表理事を務めている。さらに、2011年、地元広島で自身のランニン グクラブ「CHASKI(チャスキ)」を立ち上げ、子どもたちに運動と学習能力をアップす る陸上教室も開催している。また、東日本大震災発生直後、自身の公式サイトを通じ て「TEAM JAPAN」を立ち上げ、競技の枠を超えた多くのアスリートに参加を呼びか けるなど、幅広く活動している。 今後は「スポーツを通じて社会に貢献したい」と次なる目標に向かってスタートを切る。