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.国際  投稿日:2017/8/19

日米、2+2で「核の傘」保つ


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・日米2+2、北朝鮮に圧力をかけ続けること、中国の南シナ海、東シナ海での領土拡張の動きへの反対を表明。

・尖閣諸島は日米安保条約第5条の日米共同防衛の対象になることが確認さる。

・北朝鮮や中国が核兵器を日本への威嚇や実際の攻撃に使う姿勢をみせれば、米の核戦力が日本を守ることも確認された。

 

ワシントンのアメリカ国務省へ久しぶりに出かけた。トランプ政権下では初めての日米両国間の2プラス2会合の取材のためだった。2プラス2とは日米両国の外務、防衛の担当閣僚4人による安全保障協議委員会のことである。8月17日の昼すぎだった。

この時期の首都ワシントンは夏の休みをとる人が多い。議会も閉会中である。だから街路は観光客があちこちに目立つだけで、全体として閑散という感じだ。だが国務省の入り口から内部は厳重な警備態勢が敷かれていた。

この会合には日本側からは河野太郎外務大臣、小野寺五典防衛大臣が出席した。いずれも安倍改造内閣での新登場、再登場の閣僚である。アメリカ側はすでにおなじみのレックス・ティラーソン国務長官(写真1)ジェームズ・マティス国防長官(写真2)だった。

 

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写真1)レックス・ティラーソン米国務長官

出典:Office of the President-elect

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写真2)ジェームズ・マティス米国防長官

出典:Office of the President-elect

この4閣僚は午前中から協議を重ね、昼食後に正式の会合が終わったところで、合同で記者会見をして、会合の成果を公表したわけだ。日米両国の安全保障の協力、というよりは日本側のアメリカの軍事力への依存の継続と刷新がその主体となる。

記者会見は午後1時半から始まった。国務省1階の講堂である。私はもうすでに何回も入った場所でもある。それにしてもトランプ政権の国務、国防両長官は改めて目前にみると、いかにも実務能力の高そうな、精悍な風貌と控えめな挙措の人物だった。

私は講堂の最前列から2列目の席に座ったから壇上の4閣僚をごく近くにみる形となった。ティラーソン氏はエクソンモービルの会長、マティス氏は海兵隊の将軍という前歴であることはもう広く知られている。

会見では日米の4閣僚が1人ずつまず会合の合意事項を手分けする形で報告した。ティラーソン、河野、マティス、小野寺という順番だった。日本側の両大臣は安倍改造内閣ではワシントンでの初登場である。

小野寺氏はすでに一度、防衛大臣を務めているから、本来の経験や見識を踏まえるように、円滑に発言を進めた。河野氏も落ち着いた身のこなし、要を得た発言だった。就任前にはいろいろ懸念もあったから、この場でのパフォーマンスは、なかなかやるではないか、という印象だった。

日米合意の内容は予想どおり、まず北朝鮮の暴走をどう抑えるか、対話のための対話はせず、いまのまま圧力をかけ続ける、軍事的な手段も排除しない、という厳しい日米連携の対応だった。中国の南シナ海、東シナ海でのルール無視の領土拡張の動きへの日米共同の反対も表明された。

そして肝心の日米同盟に基づく両国の安全保障協力ではアメリカ側の日本防衛の誓約が強調された。とくに中国が侵略を図る尖閣諸島に対してはアメリカ側から日米安保条約第5条の日米共同防衛の対象になることがはっきりと言明された。中国軍が尖閣に攻めてくれば、アメリカは日本と共同して防衛にあたるという誓約だった。

こうした諸点は日本側がトランプ政権に求めていたことのほぼすべてだともいえよう。そのかわりに日本も日米同盟に基づく共同の防衛努力ではこれまでよりも大きな役割を果たすことに合意をしたという。安倍政権とトランプ政権の防衛協力はこれで大枠がこれまでにも増して堅固に合意された、ということだろう。

しかしとくに注目されたのはアメリカの核抑止の日本への誓いだった。アメリカのいわゆる「核の傘」である。北朝鮮が日本への核攻撃をも辞さないという危険な言動を誇示する現在、その核の冒険や威嚇を抑えつけるアメリカ側の核抑止力をいざという際には日本にも適用するという姿勢は日本の防衛には非常に重要だといえる。

マティス国防長官は「アメリカが安保条約第5条に基づき、拡大抑止の誓約をも含む日本の防衛にあたる姿勢には揺らぎがない」と述べた。「拡大抑止」とは「拡大核抑止」のことである。

他国が核兵器での攻撃や威嚇をしてきた場合、こちらも必ず核兵器での報復の反撃に出るという意図と能力を顕示する。その姿勢が相手の核兵器の行使や利用を抑えつける。これがいわゆる核抑止の機能である。その核抑止が単に核保有国の自国だけでなく、同盟国にまで供与される場合、「拡大核抑止」と呼ばれる。つまりはアメリカの日本への「核の傘」である。

小野寺大臣も「私たち日米4閣僚はアメリカの日本防衛に対する拡大抑止の誓約の不動の存続の重要性を再確認した」と述べた。いざ北朝鮮でも、中国でも核兵器を日本への威嚇や実際の攻撃に使うという姿勢をみせれば、アメリカの核戦力が日本を守る、という意味である。

この点は日本側の報道ではあまり大きくプレイアップはされないだろう。だが実際には超重要な日米協力の核心部分なのだ。この「核の傘」誓約は日本国内で核兵器禁止条約への日本の賛同を求める反核勢力にとっては守られたのだった。

トップ画像:日米安全保障協議委員会(日米「2+2」)2019年8月17日米ワシントンDCにて

左から、小野寺五典防衛大臣、河野太郎外務大臣,レックス・ティラーソン国務長官、ジェームズ・マティス国防長官

出典)外務省HP

※この記事には複数の写真が含まれています。サイトによって全て見れない場合は、http://japan-indepth.jp/?p=35604にて記事をお読みください


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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