無料会員募集中
スポーツ  投稿日:2017/9/9

今更キャラを変えられない人たち


為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)

【まとめ】

・人間の人格はかなりの部分が思い込みで、いつでも変えられると思う。

・自分のキャラクターを変えることのできない人は意外と多い。

・自分を変えるのは早い方がいい。人生の後半になればなるほど変われなくなるから。

 

中学校の時、スポーツ大会や、歌の発表会の時にいつも適当にやる友達がいた。当時はちょっと不良っぽく、物事を斜に構えてみていて、それでいてなんでもうまくこなせる男子というのがもてたので彼は大いにもてた。能力は高かったので、全力を出さないのにみんなよりも上手にできて、さらっとなんでもこなせるのが格好良かった。

卒業して、十数年して会った時には少し様子が変わっていた。本人は変わっていないのだけれど、周囲の反応が変わっていたのだと思う。あんまり人の興味を惹きつけられなくなっていた。周囲がいろいろと変化をしている中で、彼の話はなんとなく昔のままだったからかもしれない。昔はあまり目につかなかったけれど、必要以上に大人を気取っていてそれが逆に子供っぽく見えたからかもしれない。

高校デビュー、大学デビューという言葉がある。高校や大学からキャラを変えて、多くの場合は垢抜けようとする意味だと認識している。一方で、熱いやつデビューのようなものもあると思っていて、ふざけて適当でクールだった人間がある日を境になんでも夢中に取り組むということがあると思う。

私は人間の人格はかなりの部分が思い込みだと思っているから、変えようと思えばいつでも変えられると考えている。もちろんコアの性格は変えにくいが、振る舞いはかなりの部分が変えられる。ただ、なぜだか人間は急にキャラクターを変えることに対してネガティブな反応を示すことが多く、周囲の反応に敏感な人はこの抵抗を超えられない。

人生の前半のある時期に、おそらく大した意味もなく、作ったキャラクターをずっと引きずりつづけて、いつしか自分でも変えられなくなってしまっている人は意外と多いのではないか。

演じている時間が長すぎると(そもそも演じていない自分なんていないのかもしれないが)、もう今更素直な自分を見せるのが恥ずかしくなり、どうやって自分を変えたらいいのかわからなくなる。

若いときのキャラなんていうのは学校などの狭い周囲の環境の関係で生まれた一時的なものにしか過ぎず、大人になればいくらでも新しい自分を作れる。あとは引きずっている過去の自分を乗り越える勇気だけだけれど、案外とこれがない人は多い。変わるのは早い方がいい。人生の後半になればなるほど本当に変われなくなる。

(この記事は2017年7月8日に為末大HPに掲載されたものです)


この記事を書いた人
為末大スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役

1978年5月3日、広島県生まれ。『侍ハードラー』の異名で知られ、未だに破られていない男子400mハードルの日本 記録保持者2005年ヘルシンキ世界選手権で初めて日本人が世界大会トラック種目 で2度メダルを獲得するという快挙を達成。オリンピックはシドニー、アテネ、北京の3 大会に出場。2010年、アスリートの社会的自立を支援する「一般社団法人アスリート・ソサエティ」 を設立。現在、代表理事を務めている。さらに、2011年、地元広島で自身のランニン グクラブ「CHASKI(チャスキ)」を立ち上げ、子どもたちに運動と学習能力をアップす る陸上教室も開催している。また、東日本大震災発生直後、自身の公式サイトを通じ て「TEAM JAPAN」を立ち上げ、競技の枠を超えた多くのアスリートに参加を呼びか けるなど、幅広く活動している。 今後は「スポーツを通じて社会に貢献したい」と次なる目標に向かってスタートを切る。

為末大

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."