「希望の党」小池氏は全面関与を
安倍宏行(Japan In-depth 編集長・ジャーナリスト)
「編集長の眼」
【まとめ】
・衆院解散が早まり、若狭氏、細野氏は新党設立に奔走。党名に「希望の党」が浮上。
・参加する国会議員の中に知名度ある人はほとんどおらず、候補者選定も遅れ気味。
・このままでは新党の躍進は期待薄、小池氏の全面関与が不可欠。
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「小池新党」の名前を「希望の党」で調整、との報道があった。小池氏主宰の政治塾「希望の塾」から取ったのだろう。「小池新党」なのだから、小池氏の色が無ければそもそも意味がないので当然と言えば当然、驚きはない。
「ファースト」の4文字はどこに行った?との声もあろうが、あまり党名が長くなるのも考えものだし、「希望」に「ファースト」を付けるのも違う気がするので、さてどうなるか。
名前はさておき、問題は「小池新党」、現時点では「若狭・細野新党」のメンバーだ。若狭勝氏、細野豪志氏、この2人以外、正直全国区レベルで名の通った議員はほとんどいない。名前が挙がっている中で名の通っているのは、せいぜい元防衛副大臣だった長島昭久氏と渡辺喜美氏ぐらいのものだろう。
▲写真 若狭勝主義院議員 出典:若狭勝HP
▲写真 細野豪志衆議院議員 flickr : IAEA Imagebank Photo by Giovanni Verlini
▲写真 長島昭久衆議院議員 出典:長島フォーラム21
▲写真 渡辺喜美参議院議員 出典:渡辺喜美 facebook
ここにきて、小池百合子都知事の新党への関与の度合いがクローズアップされてきている。各メディアも、やれ共同代表だの顧問だの、肩書予想に喧しい。小池氏が煙に巻いているから当然そうなるのだが、これこそ彼女得意のメディア操縦術といえよう。
ぎりぎりまで引っ張ればその間メディアは延々と報道し続けねばならない。ワイドショーに格好のネタを提供してくれているわけで、各テレビ局は扱わない訳に行かないのだ。というか、感謝しこそすれ、文句を言う筋合いのものではない。
しかし、先に述べた通り、どうにもこの新党、知名度もさることながら何が売りなのか今一つ国民に浸透していないのだ。それもそのはずまだ政党そのものが設立していないのだから無理からぬ話だ。
まさに安倍首相・自民党総裁の解散戦略の要諦はそこにある。まず、ぼろぼろの民進党を完膚なきまで叩き潰すこと。そして、「小池新党」が台頭して厄介な存在になる前に出鼻をくじくことである。
今回の解散総選挙に「大義」がない、とか書いている新聞があるが、何をか言わんや、だ。政治は「タマの取り合い」だ。今この時期に相手を殲滅できると思ったから解散する。それ以外に「大義」などないと言っていい。
ところで正直、若狭氏も10月の選挙は想定していなかった。したがって今慌てて候補者選びに奔走しているだろうが、おいそれといいタマが何十名も集まる訳がない。若狭氏の政治塾「輝照塾」の応募が600人程度、そのうち200人ほどが選抜されたというが、そもそも供託金300万円(小選挙区)・600万円(比例代表)を自腹でポンと払える人はそう多くはないだろう。
塾員も声がかかるかどうか首を洗って待っている状態だが、今時点で声がかからないなら、準備が間に合わないしもう立候補は諦めざるを得ない、との声も聞こえてくる。
そこで、話は戻るがやはりなんだかんだいってもこの党は「小池新党」なのだ。東京都議選を思い出せばよい。あの時も小池旋風が吹き、政治経験のない無名の候補者がその選挙区でトップ当選したではないか。小池氏の名前はそれほどインパクトがある。
新党の代表、100歩譲って共同代表に小池氏がならない限り、まず風は吹かないだろう。良くも悪くも小池氏の知名度を借りなければこの党の躍進はない。
若狭氏にかつて「新党の代表は誰がふさわしいか?」と聞いたところ、フランスのマクロン大統領の例を挙げた。39歳の無名の若者だってあれだけの風を起こして大統領になったのだから必ずしも代表は知名度がある必要はない、ということだった。
しかし、マクロン氏は若くてハンサムなだけでなく、エリート中のエリートであり、投資銀行から2012年には大統領府入り、2014年からはオランド政権で経済相を務めたつわものである。反既得権益を前面に打ち出し、既存の政治エリートでないところが左派、右派双方の穏健派に支持され、彼らの票をかっさらった。米トランプ氏が大統領になったのも政治エリートではなかったところが国民に受けたからであろう。
▲写真 仏マクロン大統領 2017年9月17日 出典:elysee.fr
これらはあくまでフランスやアメリカで起きた事であり、日本に当てはまるかというとそれはない、と私は思う。社会構造も有権者の意識も日本と米仏とは全く違う。無名の党首の新党を支持するような投票行動を日本の有権者がとるとは到底思えない。
翻って日本の政治状況を考えるにこの「ミサイル解散」の中で、新党がどのような対立軸を打ち出すのかが問題となってくる。正直、これだけ北朝鮮の脅威が迫っている中で、政権を今、交代させようという力が働くとは思えない。
▲写真 日米首脳会談 2017年9月21日 出典:首相官邸
かといって政権の驕りや気の緩みを苦々しく思っている層は厳然としてあるだろう。くしの歯が抜けたように次から次へと離党が相次ぐ民進党はその受け皿にはなりえない。となると自民党への批判票は「小池新党」か「共産党」やその他の小政党に向かうしかないのだ。そう考えると「小池新党」の役割は今後の日本の政治を考えた時、非常に重要なものとなる。
▲写真 民進党前原誠司代表 2017年9月21日 出典:民進党
権力は必ず腐敗する。政権交代の受け皿となる政党が無ければならないのは自明の理だ。そうでなければいつまでも腐敗した政権が続くことになる。誰もそれは望まないはずだ。これまでメディアもそうした2大政党制を望んできたはずだ。そういう意味で左から右までいる民進党が発展的に解党し、「小池新党」に収斂していくことは必然的な流れであろう。
望まれるのはまさしく、「穏健な中道保守」の立ち位置の新党だ。政権が右に振れ過ぎたら、とってかわるべき政党である。今は安全保障が注目されているが、経済政策も同様に重要だ。国民にとって選択肢があることが重要なのだ。安倍首相は消費税増税分の使途変更など細かい争点を持ち出すようだが、有権者は近視眼的に判断してはならない。10年、20年、いや50年先を見据えて判断すべきだ。
もし今回の総選挙で「小池新党」が中途半端な議席しか取れないなら、2大政党制はさらに遠のく。それが国民の選択なら仕方ないが、それは決して日本政治の為にはならない、ということを知るべきだ。
少なくとも今回の選挙で「小池新党」は将来自民党にとって代わって政権を取る政党になるのだ、という気概を見せてもらいたい。さもなくば、またもや「烏合の衆」と受け取られ有権者の広範な支持は得られないだろう。
▲写真 小池百合子都知事 2016年9月6日 日本記者クラブ Photo by Japan In-depth 編集部
だからこそ、小池氏の全面的な関与が必要なのだ。今のままではこの党に風は吹かない。風を吹かせることができるのは小池氏のみである。都知事と政党の代表を務めることは矛盾しない。二元代表制の名の下で批判は当然出るだろうが、問題はもっと先にある。もし、小池氏が将来総理大臣を目指すなら、今回の選挙は非常に重要なものになろう。有権者も日本の政治が今のままでいいのか、将来どんな政治を実現したいのか、熟考して投票に行くべきだ。
トップ画像:東京都知事選で小池百合子候補を応援する若狭勝衆議院議員 2017年7月25日 Photo by Japan In-depth 編集部
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。