地元の不安解消を「イージスアショア」
宮家邦彦の外交・安保カレンダー(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
2018年1月29日-2月4日
【まとめ】
・山口、秋田がイージスアショア配備の候補に上がり、地元は不安に。
・英国でも30日から上院でEU離脱法案の審議が本格化。
・30日トランプ大統領、就任後初の一般教書演説。
【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はhttp://japan-indepth.jp/?p=38291のサイトでお読み下さい。】
今週は海外ニュースに見るべきものがないので、日本国内の話をしよう。今年も幸い全国各地で講演する機会を頂いているが、日本海側の地方自治体では東アジア情勢、特に北朝鮮の動きに対する関心が極めて高い。中でも地上型ミサイル迎撃システムであるイージスアショアについては山口と秋田で関心が高まっている。
配備が噂されているのだから当然だろうが、具体的には、どんな施設か不安だ、強力な電磁波が怖い、北朝鮮ミサイルの標的になる、米国人が運用するのではないか、同システムは迎撃だけでなく攻撃もできるのではないか、秋田市の候補地は人口密集地にあまりに近い、といった不安や懸念があるようだ。
これらはいずれも情報不足や誤解に基づくものと思われるが、万一放置すれば問題は一層拡大するだろう。詳しくは今週の産経新聞のコラムをご一読願いたい。地元への事前の説明はその内容とタイミングをよく考えないと逆効果だが、中国ではこんなことあり得ない。民主主義のコストは実に高いのだ。
欧州では29日から英国のEU離脱交渉が本格化しつつある。離脱時期は2019年の3月29日で、移行期間は2020年末に終了するそうだ。おいおい、英国は本当に離脱するらしいぞ。これがEUの終わりの始まりなのか、それともEUは英国なしでも生きていけるのか。歴史的な実験が始まったというべきか。
写真)David Davis 英国EU離脱相
flickr:English PEN
〇欧州・ロシア
英国でも30日から上院でEU離脱法案の審議が本格化する。つい数年前まで、EUは拡大し、多少ユーロ圏諸国の混乱があっても、EU自体は結束を維持できると漠然と思っていた。これが、今やブラッセルで大の大人が本気で離脱の時期や対応を議論している様は、正直なところ、今でも信じられない光景だ。
〇東アジア・大洋州
中国の中銀総裁の去就が噂になっている。しかし、周小川氏が引退しても、中国中銀の役割は変わらないだろう。その中国を31日から英国首相が公式訪問する。中国の対欧州外交は着々と進んでいるようだ。一方、朝鮮半島の南北対話は一進一退なのだ、考えてみれば当然だろう。これこそ北朝鮮の常套手段に他ならない。
写真)中国人民銀行総裁 周小川(しゅうしょうせん)氏
出典)パブリックドメイン Photo by Photo by U.S. Department of the Treasury
〇中東・アフリカ
29日にイスラエル首相が訪露し、モスクワで首脳会談を行う。その後、29-30日にロシア主催でシリア和平会合がソチで開かれる。IS(イスラム国)は放逐されたが、このところシリア情勢はロシアが主導権を握っている。トランプ政権は何をしているのか、さっぱり分からない。大統領に関心がないか、ロシアの動きがあまりに巧みなのか。
写真)モスクワのユダヤ博物館で国際ホロコースト記念日のイベントに参加したイスラエルベンヤミン・ネタニヤフ首相(左)とロシアプーチン大統領(右)ー2018年1月29日(国際ホロコースト記念日は1月27日)
出典)イスラエル政府HP :photo by Kobi Gideon、GPO
〇南北アメリカ
30日にトランプ氏が大統領就任後初のState of the Union演説を行う。なぜこれを一般教書と呼ぶのかはよく分からない。憲法上、大統領は議会に出席する権利を持たないが、文書の形でmessageを議会に送付することが認められており、これが日本では一般教書、年頭教書と呼ばれるようになったようだ。
写真)トランプ大統領 2017年4月19日
このところ、トランプ氏への評価が少し上向きになりつつあるような気がする。別に起死回生の一打はないのだが、これだけ目茶苦茶をやり続けると、たまに真面目なことをやるだけで、「結構やるじゃないか」という評価が出てくるのかもしれない。慣れとは実に恐ろしいものだと痛感する。
〇インド亜大陸
29日から2月3日までインドとベトナムの両陸軍がインド中部で共同訓練を行うという。一方、パキスタンは29-30日に中国とグワダル港フリーゾーンの第一期竣工式を共同で祝うらしい。印パキ関係は今年も相変わらずのようである。
今週はこのくらいにしておこう。今年も、いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真)ルーマニアの地上配備型弾道ミサイル迎撃システム「イージスアショア」
出典)United States Naval Institute News
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。