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.国際  投稿日:2018/3/7

習近平氏、絶対権力集中の二律背反


    宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2018#010 
2018年3月5-11日

 

【まとめ】

・習近平終身国家主席の「中国の夢」は構造改革次第。

・歴史は韻を踏む。右派台頭のイタリア総選挙後に大注目。

・関税問題ー最も暗いダークサイドを発揮し始めたトランプ政権。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合は、Japan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=38797で記事をお読みください。】

 

 3月5日、中国の全人代は国家主席の三選を禁止する中国憲法の改正案を上程し、同憲法第79条第3項の「2期を超えて連続して就任することはできない」とする規定を削除して任期上限を廃止するための審議を始めた。習近平氏は「文革時代の毛沢東」を目指しているとの分析も一部で散見されるが、これは必ずしも正確ではない。

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写真)建国宣言をする毛沢東
出典)パブリックドメイン

 

 文革前に権力基盤が弱体化していた毛沢東は、紅衛兵などを使いながら権力の再奪取を目指し文化大革命を始めた、というのが通説だ。これに対し、習氏は毛沢東の如く政治的に追い詰められていた訳ではない。彼は権力集中を国家経済改革を断行するための必要条件と考えたのだろう。問題はそれが十分条件ではないことだ。

 

 今回の憲法改正で習近平氏の権力基盤は一時的に強化されるが、そのような絶対的権力は何時まで続くのか。権力を集中しても、それに繋がる特定産業や国有企業で構造改革が実現しなければ、習氏が描いた「中国の夢」も絵に描いた餅となる。絶対的な権力集中中国式「中所得国の罠」からの脱却、この二つをどう両立させるのか。

 

 今週筆者が最も関心を持つのは4日のイタリア総選挙の結果だ。ベルルスコーニ元首相率いる中道右派連合が下院で248-268議席、右派ポピュリズム政党「五つ星運動」が216-236議席、レンツィ前首相率いる中道左派連合が107-127議席を獲得する見込みとされ、3陣営のいずれもが過半数に届かない状況となった。

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写真)ベルルスコーニ元首相 (EPP Summit 18 June 2009)
出典)Flickr  European People’s Party

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写真)「五つ星運動」のルイジ・ディ・マイオ新党首
出典)クリエイティブコモンズ Camera dei deputati

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写真)レンツィ前首相
出典)Flickr European Parliament

 

 さすがはイタリアだ。翌日になっても最終結果は出ない。それはともかく、要するに結果は、レンツィの中道左派が後退し、ベルルスコーニらの中道右派と反EUの右派が主導権を握るということか。それにしても、「五つ星運動」の伸びは注目に値する。一部には英国のEU離脱やトランプ現象に匹敵する事件とする報道もある。

 

 イタリアは過去70年で70近い内閣を生んできた。今回の結果を如何に分析すべきか。イタリアで歴史が完全に繰り返されることはないだろうが、それでも歴史は押韻する。再びムソリーニが出てくるとは言わないが、イタリア総選挙後の連立議論は大いに要注意だ

 

 トランプ氏が実施を公言した鉄鋼・アルミ輸入品に対する関税問題も深刻だ。通商製造業政策局長から大統領補佐官への昇格が噂されるP・ナバロ氏「対象国に例外を設けないことを大統領は決断した」と述べた。元来の対象は中国であったはずだが、国内政治上の理由でトランプ氏は強硬策を選択したのだろう。驚くべきことだ。

 

 WTO協定を読めば一目瞭然だが、同協定上の「安全保障条項」は一種の禁じ手だ。拡大通商法232条を使うとは、実に姑息である。これが通るなら、何でも有りだ。当然各国はWTO紛争解決手続きに則り、パネルに訴えるだろう。ここで米国が勝てるとは到底思えない。遂にトランプ政権はその最も暗いダークサイドを発揮し始めたようだ。

 

〇 欧州・ロシア

 

 欧州では重要政治イベントが続く。イタリア総選挙については冒頭述べた通りだが、ドイツではSDP党員投票でCDUとの大連立案が承認された。これでメルケル首相は一応求心力を回復した形だが、一体いつまで続くのか。イタリアで「五つ星運動」が躍進すれば、EU内でのメルケル首相やドイツ政府の立場は増々難しくなるだろう。

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写真)メルケル首相(右)
出典)ドイツ政府

 

 

〇 東アジア・大洋州

 

 5日からは13期全人代第1回会議が始まるが、国家主席任期上限廃止問題については既に述べた通り。韓国ではオリンピックが終わり、朝鮮半島の緊張緩和と米朝対話準備の一環として、5-6日に国家安全保障室長と国家情報院長ら特使10人を北朝鮮に派遣した。壮大な時間の無駄が始まるが、誰にも止めようがない。

 

 5日から米空母がベトナムに寄港する。1960-70年代を知る者にとっては隔世の感がある。8日にはTPP11の署名式もある。こうした動きを見ていると、冷戦終了後に米国が唯一の超大国として圧倒的影響力を行使していた時代が不思議に思えてくる。米国のエリートが堕落したのか、それとも、米国のダークサイドが覚醒したのか。

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写真)ベトナムに寄港した米空母
出典)AMERICA’S NAVY

 

〇 中東・アフリカ

 

 5日にイスラエル首相が訪米する。今週の中東も静かだ。最近気になるのはシリア等でのイラン革命防衛隊部隊の駐留が、シリアに介入するための一時的なものから、イスラエルに対抗するための恒久的なものに変わりつつあることだ。イスラエルにとっては由々しき事態である。

 

〇 南北アメリカ

 

 トランプ政権のごたごたは相変わらずだ。鉄鋼・アルミに対する関税発動問題だけでなく、トランプ氏の娘婿が最高機密の取り扱い権限を剥奪されたり、トランプ氏の銃規制に関する発言が二転三転したり、冗談とはいえ、習近平終身国家主席を賞賛したり、もう滅茶苦茶だ。やはり彼はTVのトークショーホスト程度がお似合いである

 

 

〇 インド亜大陸

 

 9日から仏大統領が訪印する。

 

 今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

トップ写真)習近平国家主席(3月5日)

出典)中華人民共和国人民中央政府


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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