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.国際  投稿日:2018/5/3

北朝鮮の軍事脅威 在韓米軍司令官報告 その1


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

【まとめ】

在韓米軍司令官ビンセント・ブルックス大将が連邦議会で報告。

北朝鮮は北東アジアとインド太平洋地域の安全保障に対する顕著な脅威となっている。

・北朝鮮はアメリカ側のアジア地域の主要な同盟相諸国間の連帯を崩すことを狙っている

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=39760でお読み下さい。】

 

朝鮮半島情勢の変動が全世界の注視を集めるようになった。核兵器や長距離弾道ミサイルの開発でアメリカや韓国に好戦的な態度を長年とってきた北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が急に平和や共存を唱えるようになった。

だが北朝鮮がなお核戦力と通常戦力の両方で米韓両国から日本にまで重大な軍事脅威を与えている現実はまだ少しも変っていない。

では北朝鮮は軍事面でどのような能力を保持しているのか。その現実をアメリカ側の最前線の軍人である在韓米軍司令官ビンセント・ブルックス大将が連邦議会での証言として報告した。

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▲写真 ビンセント・ブルックス大将 出典 パブリックドメイン

この議会証言は3月15日だった。上院軍事委員会が開いたアジア・太平洋の軍事情勢についての公聴会である。まず米軍太平洋統合軍のハリー・ハリス司令官が登場して、証言した。その後に在韓米軍のブルックス司令官の証言が報告書の提出という形でなされた。ブルックス司令官は韓国での軍務が重要局面を迎えているため任地を離れられないことによる書類提出での証言だとされていた。

ちなみにこの3月15日という時点は朝鮮半島情勢を大きく変えたとされる南北首脳会談の1ヵ月以上前だが、北朝鮮側の米韓両国に対する融和の姿勢は2月の平昌オリンピック開催のころから表面的にはすでに始まっていた。その時点、そしてさらにそれ以降の時期での在韓米軍司令官の証言なのである。

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▲写真 金正恩委員長と文在寅大統領(2018年4月27日) 出典 韓国大統領府

ブルックス司令官の証言の中心は北朝鮮の軍事態勢を米韓両国、さらには日本をも含む東アジア全体にとっても、なお深刻な脅威だとみなすという部分だった。その脅威自体は南北首脳会談で平和や友好が強調された後でも、変わってはいないのである。

ではブルックス司令官の証言の内容を以下に伝えよう。いまこそ北朝鮮の軍事能力はどうなのかを知るべきときだろう。金正恩委員長の平和を語る微笑とは対照的な現実が朝鮮半島にはなお存在するという厳粛な事実だともいえよう。

 

【世界全体への多様な脅威】

北朝鮮はなお北東アジア、さらにはそれ以上の地域の安全保障と安定に対する顕著な脅威となっている。2017年は朝鮮半島だけでなく世界全体の緊張を高めた北朝鮮の継続的な挑発、威嚇、そして行動が目立った。金正恩政権は通常戦力と大量破壊兵器のさらなる開発、そのうえにアメリカ本土への直接の脅威を構成する非対称の軍事能力によってインド太平洋地域の安全保障と安定とを危険にさらしてきた。

北朝鮮の戦略は挑発的な行動とメッセージの発信のタイミングと方法とを巧妙に組み合わせることによってアメリカ側のアジア地域の主要な同盟相手諸国の間の連帯を崩すことを狙っている

 

【弾道ミサイルの危険】

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▲画像 北朝鮮の弾道ミサイル 火星15号 出典  Missile Threat CSIS

2017年だけでも、北朝鮮はICBM(大陸間弾道ミサイル)を3回、発射し、6回目の核兵器実験を実行した。そのほかに合計16回のミサイル発射を断行した。しかもそのうちの2回はミサイルが日本の上空を通過した。北朝鮮のミサイルは韓国だけでなく、ますます多数のアメリカの同盟諸国を脅かすようになった。いまや北朝鮮はオーストラリア、日本、イギリス、アメリカという諸国の国民を脅かし、とくにグアム島と韓国に対する脅威は露骨となった。

そのうえに金正恩は自分の兄の金正男を暗殺するため、マレーシアに化学兵器を配備した。この行動は他国の主権下の領土への侵害でもあった。この種の無法な活動や展開は北朝鮮の脅威の範囲を拡大したことにもなるが、その一方、国際社会はここ数ヶ月、金正恩政権に対して前例のない外交圧力や経済制裁により対決を厳しくしてきた。

その2に続く。全3回)

トップ画像:ビンセント・ブルックス在韓米軍司令官 出典 USNI NEWS


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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