「共産党が慰安婦を迫害」中国政府系学者
島田洋一(福井県立大学教授)
「島田洋一の国際政治力」
【まとめ】
・セクハラ・スキャンダル渦中の高銀氏の慰安婦追悼詩、撤去へ。
・中国政府の反日歴史戦は、韓国より一層戦略性を持っている。
・中国人慰安婦を迫害し死に追いやったのは中国共産党、と中国政府系学者。
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産経新聞5月25日付記事によると、韓国系米国人団体「ニューヨーク韓人会」が、ワシントンの連邦議事堂施設内に慰安婦像を運び込んで「特別展示」を行う動きがあり、ニューヨーク州選出の複数の民主党下院議員が関与しているという。由々しき話である。
実は韓国内では、慰安婦像を巡って多少の混乱が起きている。韓国紙『中央日報』3月6日付の「セクハラ・スキャンダル渦中の高銀(コ・ウン)氏の慰安婦追悼詩、撤去へ」と題する記事を要約しておこう。
「韓国の著名な詩人・高銀氏(85)による慰安婦追慕の詩が刻まれた碑が、先月末に撤去された。ある女性詩人が高氏によるセクハラを暴露したのを受け、女性団体を中心に撤去の声が上がっていた。性的スキャンダルの渦中にいる詩人が、旧日本軍性奴隷被害者を追慕するのは不適切だという理由だった」。
▲写真 高銀氏 出典:photo by Mariusz Kubik
高氏の詩は「つぼみのまま/つぼみのまま/踏みにじられてしまった冒涜の命だった君よ」で始まっている。記事によれば、高氏はある大学での講演後、パーティの席で隣の女性の体を触り、ズボンから自らの性器を取り出しまでしたという。この程度なら「花のような乙女」を「つぼみのまま踏みにじる」行為には当たらないというわけだろうか。
元慰安婦の福祉施設「ナヌムの家」の所長が強く高氏を批判し「勇気を振り絞って告白した人々に心から謝罪すべきはもちろん、徹底的に反省しなければならない」と怒りの声を上げたというが、強制連行フィクションで日本を追求する前に、まず自国文化人のモラル確立に力を尽くすべきだろう。
▲写真 ナヌムの家「咲ききれなかった花」ブロンズ像 出典:photo by MKT
いずれにせよ、こうした形で反日運動が自壊し、慰安婦像や慰安婦碑が次々撤去されていくなら結構なことだ。もっとも、韓国内でいくらか混乱を見せようと、冒頭の記事にあるように、国際的場裡での慰安婦反日キャンペーンは今後とも手を変え品を変え続いていこう。そして、今や国際的キャンペーンの中心的担い手は、韓国以上に中国である。
中国政府が展開する反日歴史戦は、韓国より一層戦略性を持っている。その狙いは大きく三つに整理できよう。
①日本の精神的武装解除。すなわち中国のアジアにおける覇権確立に障害となる地域大国日本に贖罪史観を浸透させ、抵抗意思を萎えさせる。
②「反省しない日本」への敵愾心を掻き立て、「団結」を崩してはならないと共産党一党独裁体制を正当化する。
③自由、民主、法の支配、人権などが欠如した中国の「現在」に焦点が当たらぬよう、「過去」に注意を逸らす。
こうした戦略の下、慰安婦の「研究」と対外発信の中心となってきたのが上海師範大学教授の蘇智良(Su Zhiliang)氏である。同氏らによる英語版『中国人慰安婦』(Peipei Qiu, Su Zhiliang, Chen Lifei, Chinese Comfort Women, 2014)は権威あるオックスフォード出版会から出されたこともあり、じわじわと影響を広げつつある。
▲写真 『中国人慰安婦』(Peipei Qiu, Su Zhiliang, Chen Lifei, Chinese Comfort Women, 2014) 出典:Amazon
多くの中国人女性が日本軍に拉致され、集団レイプされ、あげくに大部分が殺害されたと主張する同書は、しかし、無理な辻褄合わせをした結果、巨大ブーメランともなっている。
中国でも韓国同様、日本軍慰安婦は戦後長く社会的関心の外にあった。その存在が突如「問題化」しクローズアップされたのは、朝日新聞などが「強制連行」キャンペーンを始めた1992年以降である。従って、なぜそれほど深刻かつ大規模な「戦争犯罪」が長く知られずにきたかを、研究書である以上、合理的に説明せねばならない。『中国人慰安婦』は大要次のように論じる。
家父長イデオロギーが浸透した中国社会では、女性の純潔は生命より重い。生き残った慰安婦は非道徳な上に敵軍に奉仕した裏切り者と見なされた。共産党政権下では「反革命」の烙印も押された。日本兵と「寝た」かど※で北方の強制労働に送られるなど、ことさら辱められ迫害された。迫害に耐えかね自殺した者もいる。日本軍の性犯罪で最も多くの犠牲を出した国でありながら、中国で慰安婦の問題化が遅れたのはこうした理由による-。
以上が、中国の慰安婦研究第一人者による説明である。日本軍が管理する慰安所ではともかく命を長らえた慰安婦たちを、戦後、理不尽にも迫害し、死にまで追いやったのは、中国共産党だったというわけである。
事実とすれば、韓国のセクハラ詩人の偽善どころではない。慰安婦の不幸に関し、中国共産党の責任こそ最も厳しく追及すべきだろう。
※「寝た」罪、の意味
トップ画像/代表的な慰安婦像 出典:photo by YunHo LEE
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この記事を書いた人
島田洋一福井県立大学教授
福井県立大学教授、国家基本問題研究所(櫻井よしこ理事長)評議員・企画委員、拉致被害者を救う会全国協議会副会長。1957年大阪府生まれ。京都大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。著書に『アメリカ・北朝鮮抗争史』など多数。月刊正論に「アメリカの深層」、月刊WILLに「天下の大道」連載中。産経新聞「正論」執筆メンバー。