女性政治家ならではの国際的役割
島田洋一(福井県立大学教授)
「島田洋一の国際政治力」
【まとめ】
・男か女かトランスジェンダーか等々を問わず、政治的見識および能力が高い人が立候補し、議員になるべき。
・人権は単に人道上の問題ではなく、安全保障問題でもある。
・男女問わず、国際社会においても堂々と人権問題を持ち出すことができる議員が増えていくことを強く望む。
与野党問わず、女性議員を増やすべきだという声をよく聞く。クオータ制導入(女性候補の割合を一定以上とする)との主張すらある。
基本的な答えは簡単で、男か女かトランスジェンダーか等々を問わず、政治的見識および能力が高い人が立候補し、議員になるべきである。
とは言え、女性ならでは、あるいは女性が訴えたほうがよりインパクトが強いといった問題はあるだろう。
例えば慰安婦問題をめぐる虚偽への反論、すなわち日本軍が若い女性を強制連行して性奴隷にしたという、いまだ国際社会に流布している誤った認識への反論は、男が行うと無反省な自己弁護と受け取られやすい。女性のほうが、少なくとも周りは、ひとまず聞こうという姿勢を取るだろう。
また女性に対する人権蹂躙も、やはり女性が立って批判したほうが、より切実かつ実感を持って響きを持つ。
その点、女性のみの議員外交において、反面教師とすべき残念な事例があった。
2017年7月12日、長く獄に囚われてきた中国の民主活動家でノーベル平和賞受賞者としても知られる劉暁波の危篤が伝えられる中、日本の女性国会議員団9人(野田聖子団長、他に自民、公明から8人)が中国政府の招きで訪中した(劉はその翌日に死去)。
一行に応対した、習近平国家主席の忠実な部下であるがゆえに出世したに過ぎない女性副首相の「女性政治家は、同じことをするにも男性より多くの努力が必要だ」といった、型通りの訓戒に「議員団全員が深く頷いていた」という。
当時、米欧の議会では、劉暁波を海外に移送しての治療および軟禁状態に置かれている劉霞夫人の出国を求める声が高まっていた。多くの女性議員も声を上げていた。ところが野田訪中団は、劉暁波についてはもちろん、同じ女性である夫人の解放にも一切言及していない。
この時期の、女性だけの議員団の訪中に特別の意味があるとすれば、迫害されている女性の問題を最優先で取り上げることだろう。逆に抑圧側の幹部とただ談笑して帰ってくれば、迫害を公然と黙認したことになる。
当時私は、こんな女性議員たちをいくら増やしても、国際社会から侮蔑されるだけ、恥ずべき姿を世界に示したと怒りを禁じえなかった。
▲写真 故劉暁波氏の死去から1周年に行われた抗議デモ(2018年7月13日 香港)出典:Photo by Anthony Kwan/Getty Images
ベトナム全土が共産化され、多くの難民(ボート・ピープル)が出ていた時期、ソ連のコスイギン首相と対峙したマーガレット・サッチャー英首相は、「ベトナムの状況は、共産主義全体にとって恥ずべきことだ」と強く批判し、ソ連指導部が影響力を行使して事態の改善を図るよう求めた。
「彼らはみな、麻薬患者か犯罪者だ」ぶっきらぼうに応えたコスイギンに対し、サッチャーは、「共産主義があまりに悪いため、100万もの人々が麻薬に走り、盗みで生計を立てざるを得ないということか」とさらに追及している。男女を問わず、政治家なら即座にこのぐらいの応答はすべきだろう。
人権については、ソ連の反体制物理学者アンドレイ・サハロフの至言がある。「人権は単に人道上の問題ではなく、安全保障問題でもある。自国民の権利を尊重しない国が、他国の権利を尊重するはずがないからだ」。
その通りだろう。
上記女性議員団は、安全保障に関しても何ら見識がなかったことになる。
誤解のないよう付け加えておくが、もちろん立派な女性議員もいる。中国共産党の幹部を前に、堂々と人権問題を持ち出す議員が、男女を問わず増えて欲しいと強く思う。
トップ写真:2019年8月 中国の王毅外相と会談する野田聖子団長率いる日中友好女性国会議員団(記事内の2017年の訪中時とは異なる)出典:Photo by HOW HWEE YOUNG – Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
島田洋一福井県立大学教授
福井県立大学教授、国家基本問題研究所(櫻井よしこ理事長)評議員・企画委員、拉致被害者を救う会全国協議会副会長。1957年大阪府生まれ。京都大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。著書に『アメリカ・北朝鮮抗争史』など多数。月刊正論に「アメリカの深層」、月刊WILLに「天下の大道」連載中。産経新聞「正論」執筆メンバー。