.国際  投稿日:2018/8/4

仏、逆ギレセクハラ男 女性殴る

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Ulala(ライター・ブロガー)

フランス Ulala の視点」

【まとめ】

・路上ハラスメントを受けたパリの女子大生が殴られた動画を配信。

・仏で審議中の「路上ハラスメントに対する法案」が可決された。

・1962年には東京都で「迷惑防止条例」が制定され全国に拡大。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全部が掲載されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=41382でお読みください。】

 

道を歩いていただけなのに、卑わいな言葉を投げつけられる。最悪の場合は暴力も振るわれる。これがいわゆる路上でのハラスメントの一つだが、今回、フランスの勇気ある女性がこの一連の路上ハラスメントの様子をSNSに動画を投稿し、世界中に大きな衝撃を与えた。

動画を投稿したのは、フランス・パリに住む22歳の建築学を学ぶ大学生のマリ・ラゲルさん。彼女がパリ19区の大通りのカフェを通り過ぎて家に向かっている時、男が口笛を吹いて性的冗談を言って通り過ぎたため、ラゲルさんは「うるせえ」と振り返りもせず言い返してそのまま歩き続けたところ、その言葉を聞いた男は逆上し、カフェのテーブルの上にあった灰皿をラゲルさんに投げつけた。運よく灰皿は当たらなかったものの、男はそのままラゲルさんを追いかけていき、顔を殴りつけたのだ。その衝撃が強かったことは、殴られてふらつくラゲルさんの様子からも伝わってくる。目撃したカフェテラスの客は立ち上がり、椅子を持ってこの男と言い争いになったが男性は行ってしまう。そして、ショックを受け動揺したラゲルさんもそのまま立ち去ったのだ。

ラゲルさんがFacebookにあげた動画

しかし、家に戻り正気に戻ったラゲルさん。このままで居てはいけないと、20分後に再びカフェに戻り、証拠のビデオを手にいれ警察に被害届を出した。そして、SNSを通して動画をネットに配信した。動画はフランス国内だけはなく、世界中にツイッターなどで拡散され、320万回以上再生され、フランスの新聞パリジャンをはじめとするメディアも、「映像に残された証拠」との見出しで1面で事件は報道されたのだ。

Facebook上でも語っているが、ラゲルさんも路上ハラスメントも初めてのことではなかったし、その日は疲れていたこともあり男が言う言葉に反応して言い返してしまったが、まさか男に聞こえていたとは思っていなかったと言う。しかし、その後、男が自分に向かって歩いて来た時、逃げずにむしろ近付いた。「殴られると思った。あの雰囲気では明白だった。しかし、その状態では家に帰ったり、逃げたりする選択肢はなかった。立ち向かわなければばいけないと思った。」とパリジャンのインタヴューに答えている。

動画公開後は、100人以上からメッセージをもらい「私も同じ目にあった」「私もあの時同じことをすればよかった」と同様の被害にあった女性からの告白や、励ましのコメントを受け取った。ラゲルさんは、この動画を手に入れることができたことは幸運に恵まれていたと言う。通常はこういう事態が起こっても映像として残っていることなどほとんどなく、今回、事実を映し出した動画を公開することで、全ての女性に、多くの人に、「事の重大さ」を伝えることができたのだ。

確かに、男の言葉に対して言い返したことを非難する人も居る。男性が女性を人として扱っていないかのような言葉を先にかけたことには触れず、「なぜ彼女は汚い言葉で言い返したのか」と責める人もいる。しかし、メディアを含め大多数は、ラゲルさんの取った行動を称賛する声の方が大きかった。

「何も答えなければいいと言うものでもない。」42歳の女性はこう語る。ある日男性が「僕のかわいい蝶々」と言ってきたので無視したが、私が何も答えないので、さらに男性が侮辱の言葉放ちはじめた。そこで、躊躇(ちゅうちょ)はしたが引き返しその男性に説明を求めたところ、恥を感じる人物は、私から男性側になったのだ。

「その日から私は口を閉じません。」

そういった多くのメッセージを受け、ラゲルさんは、「道端や職場、プライベート」での被害の報告を集めることを目的としたサイト、「Nous Toutes Harcelement(われわれは皆嫌がらせを受けている)」を立ち上げることにしたと言う。匿名で、受けた被害を自由に語れる場を提供する。

また、この出来事を受け、フランスで審議中だった「路上ハラスメントに対する法案」が迅速に可決された。今回の衝撃的な動画を受け、政府関係者の中にも「緊急性」があり、「強固に対応しなくてはならない」と感じた者も少なくなかったと言う。この結果、ようやく、フランスにも公的空間における女性の監視、誘拐、屈辱、脅迫を明確に禁止する法律ができたのだ。

路上ハラスメントに対する法案をまとめたマルレーヌ・シアパ男女平等担当大臣は路上ハラスメントに対してテレビのインタヴューでこう語る。

「長く苦しんでいた女性が多かったが、われわれの世代ではもう苦しみたくないと言う女性が増えているという印象を受けました。」

▲写真 マルレーヌ・シアパ男女平等担当大臣 出典:フランス大使館

1970年代にフランスで女性運動が始まったころには、路上で声をかけられるのは、「女性として美しいと認められていることであり喜びと感じるべき」という雰囲気があった。というのも、当時は女性が男性と同じ権利を得るために「女性は弱くはなく、男性同様に強い」ことを見せるために、女は男の戦利品で性の享楽を楽しむ存在という関係から、一転して「愛」を享受しあう関係とすることで女性の価値を向上させようとした流れがあったからだ。

しかも、当時のフランス女性の多数はそのロジックを受け入れており、フランスの初の女性首相であるエディット・クレッソンも、フランスでいつも声をかけられることを喜びと感じていたのにもかかわらず、イギリスではそういった習慣がなかったことに不満をもらしていたぐらいだ。

▲写真 エディット・クレッソン元首相 出典:Jef-Infojef

しかしながら、現在の女性は違う。「声をかけられた時に返す態度で女性の強さを見せる」のではなく、それ以前に「女性であると言う理由で卑わいな言葉をかけられること自体」を不当と思っている。女性が男性と対等になろうとしていた時代はすでに過去の話し。現在は対等な関係なのは当たり前であり、対等な関係であるからこそ、「一人の人間として尊重される」ことを求めているのだ。

「一人の人間として尊重されてない状況」とはどういった状況だろうか。それは2012年、ベルギーで映像を学ぶ学生ソフィー・ピーターズさんの手によって隠しカメラで取られた「路上ハラスメント」のドキュメンタリー「Femme de la rue」で見ることができる。このドキュメンタリーは、ベルギーで路上ハラスメントに対する法案ができるきっかけにもなった。映像では町を歩いているだけで、「家に来ないか」と誘われたり、通りすがりに「くそ女」「小さい尻」と言う言葉が投げかけられている。しかも、男性の口からは「女性は物」という発言まで飛び出しているのだ。

このドキュメンタリーを撮ったピーターズさんは、首都のブリュッセルに来て、田舎では経験したことがなかった路上ハラスメントに直面して、「なぜこんなにも声をかけられるのか。私がなにかいけないことをしているのか。何か誘惑するような洋服を着ているのか。」と自分が悪いのではないかと最初は思ったと言う。しかし、卒業制作として映像を取っていくにつれ、それは自分だけの問題ではないことに気が付いた。

ソフィー・ピーターズさんのニュースでは道を歩いていると頻繁に男性が声をかけてくる様子を見ることができる。このニュースの中でピーターズさんはこう言われたとも語っている。「声をかけられたくなかったら、男性と一緒に歩けばいいのさ。」あまりにもバカげた話すぎる。女性だと言う理由で一人で自由に町を歩くことができないなんて。

しかしながら、路上ハラスメントは、その場だけで終わりであればまだいいが、追いかけられて住んでいる家が知られその後も継続するかもしれない、こういった恐怖を味わうことで女性一人での行動も制限される原因にもなるのだ。

ところで、路上のハラスメントにおいて、日本の状況はどうであるかと言うと、実は日本はフランスやベルギーよりもかなり先駆けて、1962年にはすでに東京都で「迷惑防止条例」が制定されたのを皮切りに全国に拡大し、現在では全都道府県において男女問わず公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすることに合った場合に適応されるとなっている。

この早期の施行は、日本は、集団生活に重きを置いていることから公衆の場で行われる迷惑行為に対しては厳しい傾向にあることも要因の一つではあるだろうが、そうだとしても、声をかけられることを肯定し不快を感じる女性の声を否定していたフランスとは違い、女性が不快だとすることに敏感に反応し規制が迅速に作られていたことは称賛したいところだ。

もちろん、路上ハラスメントに罰金を課すことだけでは十分ではない。しかし、今まではこういったことが起こってもフランスでは人々が介入しなかったことが多かったが、法律を作ることにより社会全体の意識を変えていくきっかけになっていくことを期待したい。

トップ画像:マリ・ラゲルさんがカフェで男性に殴られた瞬間の映像(左の赤い洋服)出典 Marie Lagueera facebook

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この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、ライターとして活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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