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.国際  投稿日:2018/8/11

アジア大会開幕 インドネシア対テロ厳重警戒


大塚智彦(Pan Asia News 記者)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

8月に「アジア大会」がインドネシアで開催される。

・連続爆弾テロに備え警備強化、283人のテロ容疑者身柄拘束。

・自爆テロ首謀者の解放を要求するテロを想定し訓練実施。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合は、Japan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=41484でお読みください。】

 

4年に一度のアジアのオリンピックである「アジア大会」が8月18日から9月2日まで開催されるインドネシアでは、テロ対策が大きな課題で、治安当局は大会期間中に厳戒態勢で大会の成功と選手らの安全確保に全力を尽くす。

警察当局は5月に第2の都市、東ジャワのスラバヤで発生した連続爆弾テロを重視、国会の反テロ法改正などを受けて、新たに国軍の協力の下、テロリスト摘発とテロ組織壊滅に努めてきた。その結果5月以降だけで実に283人のテロ容疑者の身柄を拘束、テロを未然に防止することができたとしている。

▲写真 2018 年5月13日に発生したスラバヤでの自爆テロ事件の現場を視察するジョコ・ウィドド大統領 ©the Government of Republic of Indonesia

しかし、依然としてアジア大会期間中の不測の事態への懸念は強く残っており、インドネシアはアジアのスポーツの祭典を期待と不安の中で迎えようとしている。アジア大会には日本を含む45カ国から15,000人が参加し、首都ジャカルタとスマトラ島パレンバンの2都市を開催地として41競技465種目で熱戦が繰り広げられる予定だ。

開催地であるインドネシアはジョコ・ウィドド大統領が8月8日に大統領官邸にアジア大会に出場するインドネシア選手団を招き「金メダルの数でトップ10に入る努力を、それには金メダル最低16個が必要だ」と激励した。

大会の開会式が近づくにつれジャカルタ市内では道路の整備や清掃、看板の設置など急ピッチで最後の準備が進められる一方で、スカルノハッタ国際空港や市内の要所、選手村や競技会場周辺での警戒警備も次第に強化されている。

 

■ テロ組織JADを非合法化

スラバヤで5月13日午前に市内3カ所のキリスト教会で爆弾テロが発生し、自爆犯を含む13人が死亡、同日夜には市内の別の場所で爆弾テロにより3人が死亡している。翌14日にはスラバヤ市警察本部でもテロがあるなど連続爆弾テロが発生した。

事態を重視した治安当局は以後、インドネシア全土で徹底的なテロ容疑者や協力者の摘発に乗り出し、ティト・カルナフィアン国家警察長官によると5月のスラバヤ事件以降8月6日までに283人の容疑者を逮捕、拘束したという。

6月23日にはスマトラ島リアウ州プカンバルのリアウ国立大学構内で同大卒業生をテロ容疑者として逮捕したが、容疑者はジャカルタの国会議事堂をテロの標的にした計画を練っていたという。

スラバヤの連続テロ事件、リアウ大学の事件ともに容疑者は中東のイスラムテロ組織「イスラム国(IS)」を信奉するインドネシアのテロ組織「ジェマ・アンシャルト・ダウラ(JAD)」のメンバーないし関係者とされている。

このようにJADによるテロが過激化していることを受け、7月31日に南ジャカルタ地裁はJADを「数々のテロへの関与が明白で危険極まりない組織」と認定、活動を禁止する非合法化の判定を下し、即時解散を求めた。

JADの幹部で実質ナンバー2とされる人物は弁護団を通じて「テロは組織として実行したものではないが、裁判所の判定は受け入れ控訴しない」との立場を明らかにしている。

JADの最高指導者のアマン・アブドゥルラマン被告は2016年1月にジャカルタ中心部で起きた爆弾テロ事件など計5件のテロに関与した疑いで逮捕、起訴され公判が続いていたが6月22日に南ジャカルタ裁判所で死刑判決を受けている。アマン被告を巡っては死刑判決が出る前の5月8日にジャカルタ南部デポックにある国家警察機動隊本部で発生したテロ容疑で拘束中の収監者による暴動で、収監者たちはアマン被告との面会を要求していたとされ、テロ容疑で逮捕されたり、潜伏したりしているメンバーからアマン被告は熱狂的な支持を集めているといわれている。

▲写真 JADの最高指導者アマン・アブドゥルラマン被告 2018年4月27日 ©Arie Firdaus/BenarNews

 

■ 死刑判決の指導者奪還テロ想定の訓練

こうした実情に鑑み陸海空軍の兵士520人が参加して8月1日にジャカルタで実施された対テロ訓練では、人質をとったテロ犯がアマン被告の解放を要求するという具体的な想定で行われた。

ジャカルタ中心部にあるアジア大会のメイン会場のひとつブンカルノ競技場内の競泳場、バスケットコート、隣接するスルタンホテルなどで爆弾が爆発するという想定で訓練はスタートした。自動小銃で武装したテロリストが通りがかりの車から人質をとりホテルに立てこもり、アマン被告の身柄と現金を要求。軍の担当者とテロリストが交渉をしている隙にホテル屋上にヘリコプターから兵士が降りて突入、銃撃戦の末に人質を確保するとともにテロリストを逮捕、訓練は無事終了した。

▲写真 Gelora Bung Karno Stadium, Senayan, Jakarta flickr: M. Arisandy Rizky

8月6日にはジャカルタ南部のゴルフ場でバスジャックや暴動などあらゆる形態のテロを想定した総合訓練も実施されるなど、インドネシア政府と治安当局は、アジア大会参加国と国民に対し「大会の安全とテロ対策が十分であること」を強く訴えた。8月18日、ジャヤカルタとパレンバンでアジア大会の幕が開会する。

トップ画像:インドネシア特殊部隊 Photo by AWG97


この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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