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.国際  投稿日:2020/11/16

フィリピン、迫るテロの危機


大塚智彦(フリージャーナリスト)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・比、治安部隊とテロ組織の銃撃戦が発生、テロリスト6人殺害。

・テロ組織「アブ・サヤフ」も海上での追撃作戦で7名が死亡。

・ドゥテルテ政権、疲弊する地方住民への支援も求められている。

フィリピン治安当局は国内のテロ組織に対する掃討・殲滅作戦を現在も継続中で、テロリストの拠点や隠れ家の摘発と同時にテロリストとの銃撃戦で殺害、逮捕を鋭意続けている。

フィリピンでは最近相次ぐ台風の影響で洪水や土砂崩れで多数の死傷者が出ているが、特にフィリピン南部ではイスラム教テロ組織が複数存在して現在もなお活発な活動を続けており、治安部隊との銃撃戦がこのところ頻発し、フィリピン国民にとっては台風やコロナ禍に加えて「テロ」がまさに日常生活の中で「今ここにある危機」として厳然と存在している。

フィリピン中央軍統合任務部隊などが地元メディアに明らかにしたところによると11月13日、南部ミンダナオ島南コタバト州のポロモロックで治安部隊とテロ組織のメンバーによる銃撃戦が発生、テロリスト6人が殺害された。

■イスラム国関連のテロリスト射殺

発表によると殺害されたのは中東のテロ組織「イスラム国(IS)」のフィリピン組織である「ダウラ・イスラミア」のメンバーで、殺害者の中には同組織幹部のアラファト・ブラカン(別名マウラ)容疑者が含まれていたという。

ブラカン容疑者は2018年に同じミンダナオ島南コタバト州最南部のジェネラル・サントス市で起きたテロ事件(8人負傷)に関与したとして手配されていたほか、同地域の主に農民を対象にしたテロ組織への勧誘、軍事訓練強制参加などにも関与した疑いがもたれ、治安当局がその行方を執拗に追いかけていた重要容疑者だったという。

13日の銃撃戦で6人が殺害された現場の家屋からは改良型爆弾のほかにM4ライフル銃、ショットガン、38口径リボルバー、AR5拳銃、ISの旗などが押収されており、メンバーらがなんらかのテロを近く計画していた可能性もあるとして地元警察なども加わってさらなる捜査が進められている。

治安当局は11月初めにブラカン容疑者の側近を銃撃戦で殺害していることなどから、同容疑者を周辺から徐々に追い詰めていたものとみられている。

フィリピン中央軍統合任務部隊のジェジマックス・ウイ少将は地元メディアに対して「今回の掃討作戦は地域のコミュニティーの協力で実現した。この地方にもはやテロリストの居場所はない」として摘発に関して民間の住民らによる情報提供もあったことを示唆、テロリストが住民からも敵視されていることを強調した。

■「アブ・サヤフ」メンバーも殺害、逮捕

また地元メディアによると同じ13日午前5時半ごろにはミンダナオ島西部あるバシラン島でフィリピンのテロ組織「アブ・サヤフ」のメンバー、ハシド・サリジム容疑者の潜伏先が軍の急襲を受けて同容疑者が銃撃で死亡する事件も起きた。

「アブ・サヤフ」はドゥテルテ政権下で最も過激なテロ組織として爆弾テロ、自爆テロを繰り返しており、ドゥテルテ大統領が治安当局に対して「手段は問わないので掃討作戦で組織の壊滅を目指すように」と直接指示を出している「ナンバーワン標的」とされるテロ組織だ。

今年8月24日には南部スールー州のホロ島ホロ市中心部で連続自爆テロが発生し、15人が死亡、70人以上が負傷するテロ事件が起きた。その計画、自爆用爆弾の製造に深く関与したとされる「アブ・サヤフ」の幹部はドゥテルテ大統領から最重要指名手配容疑者とされているものの、依然として逃走中で行方はつかめていないといわれている。

同組織にはインドネシア人テロリストも参加しており、インドネシアのテロ組織とのネットワークが存在することも確認され、インドネシア当局とも綿密な情報交換で組織壊滅作戦が続けられている。

11月3日には海上での追撃作戦で「アブ・サヤフ」のメンバー7人が殺害されており、12日にはスールー島南部のパティクルでアブ・サヤフの地域指導者の1人、アマ・ウラ容疑者が銃撃戦で負傷の末逮捕されている。

ウラ容疑者はインドネシア人漁民などの人質事件への関与が疑われ、指名手配中だった。銃撃戦で負傷したウラ容疑者はその場での射殺を希望したが、さらなる捜査のため治安当局が逮捕して現在軍の病院で監視を受けながら治療中という。

■ドゥテルテ大統領の難しい舵取り

このように最近も大きな成果を挙げているドゥテルテ大統領による対テロ強気の作戦は特にテロに日常生活を脅かされている南部ミンダナオ島やスールー諸島の国民からは高い評価を受けている。

その一方で折からのコロナ禍による経済低迷で生活難や不況に苦しむ地方の農民などはテロ組織による経済的支援と引き換えの組織メンバーへの勧誘や情報提供などの協力要請に正面切って「ノー」と言いづらい状況も生まれつつあるとの指摘もある。

このためトゥテルテ政権はテロ組織の掃討・壊滅作戦のさらなる徹底と同時に、疲弊する地方住民への手厚い支援も求められるという難しい局面に立たされていることも事実であり、今後の手腕が注目されている。

トップ写真:ダバオ国際空港ターミナルの前の爆破現場でろうそくを灯すドゥテルテ大統領 出典:Flickr; Keith Bacongco




この記事を書いた人
大塚智彦Pan Asia News 記者

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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