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.国際  投稿日:2018/8/13

米vs朝韓中「終戦宣言」巡り、つばぜり合い


久保田るり子(産経新聞編集局編集委員)

【まとめ】

・韓国文政権前のめり、米を説得試みるもあえなく却下

・米ハリス駐韓大使「終戦宣言、出してしまえば取返しつかぬ」

・中国王毅外相「終戦宣言は非核化に役立つ」と積極的な関与開始

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て見ることができません。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=41513でお読みください。】

 

韓国文在寅大統領の前のめりが躓いている。北朝鮮からは「米国の顔色ばかりうかがい、実効性のある措置を講じていない」と揺さぶりさぶりをかけられ、米国からは北朝鮮産石炭の韓国国内違法搬入で制裁違反の疑惑が向けられている。一時は80%を超えた驚異の支持率もいまは50%台に下降した。

「韓国は北朝鮮から『首脳会談をしたかったら、はやく、宣言の了解を米国から取ってこい』と迫られているようだ」(外交筋)とも観測されている。環境作りに懸命で、康京和(カン・ギョンファ)外相は国会で「できるだけ早期に終戦宣言できるよう関連国といま、協議している。終戦宣言は非核化交渉をけん引する」(国会外交統一委員会)と強調し、文大統領は徐薫院長を7月26日から訪米させて米国説得をこころみた。徐氏は米高官に、北朝鮮・開城に開設予定の南北共同連絡事務所について対北制裁の免除の容認を求め、朝鮮戦争の終戦宣言についても米の早期宣言が非核化への早道と理解を求めたようだ。だが、「米側はもちろん両件とも一蹴した」(同筋)という。

写真)韓国 康京和(カン・ギョンファ)外交部長官による表敬 安倍首相 2018年7月8日

出典)首相官邸

 

さきの東南アジア諸国連合(ASEAN)の一連の会議で北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相は思わせぶりな行動を取った。李外相は11か国とEU、合わせて12外相と2国間外相会談を行ったが、米国のポンペオ国務長官との会談は「時間がない」と断った。誰もが予想外の展開で、ポンペオ氏はASEAN地域フォーラム(ARF)の写真撮影の折にようやく李外相を捕まえ、とりあえず握手だけした。韓国の康京和外相も何度か会談を持ち掛けたが、「南北関係は国際関係ではない」とにべもなく断られ、韓国は何とも手持ち無沙汰な様子だったらしい。

写真)北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相に挨拶するポンペオ米国務長官 2018年8月4日

出典)twitter : @SecretaryPompeo

 

そんななかで中国だけが北朝鮮との蜜月を際立たせた。王毅外相は李外相と会談して「終戦宣言は政治宣言であり、非核化を前に進めるうえで役立つ。我々は終戦宣言を発表できる」と強い関与の意思表明をした。中国は7月、外交トップの政治局員、楊潔篪(ヨウケッチ)が韓国を非公式訪問し、韓国側に終戦宣言について中国の参加を要求し、早々とパワーゲームのプレーヤーとして名乗りを上げている。

写真)韓国文在寅大統領とソウルで会談する楊潔篪(ヨウケッチ)中国国務委員 2018年3月30日

出典)中華人民共和国外務省

 

米国は北朝鮮に再三にわたり「核施設申告リスト」提出を求めている。情報集積のある米側は、北朝鮮がどの程度のリストを出して来るのかで彼らの非核化の真意を見極める必要がある。しかし北朝鮮は中国、韓国と連帯して信頼醸成を建前に終戦宣言を譲らない。終戦宣言さえ発すれば、米韓による軍事行動を封じ込めることができ、さらに制裁解除につながると踏んでいる。

 

彼らはシンガポール米朝首脳会談での共同宣言で明文化した4項目ー

1  新たな米朝関係

2  朝鮮半島での恒久的で安定的な平和体制構築

3    板門店宣言の再確認と朝鮮半島の完全な非核化

4         戦争捕虜、戦時行方不明者遺骨の回収

 

を盾に取っている。②の「平和体制構築」が、③の非核化の前に言及されていることを理由にして、「合意に従って、非核化より前にまず終戦宣言で米国の敵対政策が終わったことを示すべきである」と主張しているのである。

 

米国は終戦に固執する北朝鮮に警戒感を高めている。さきに駐韓大使として韓国ソウルに赴任したばかりの「ハリー・B・ハリス大使(前太平洋軍司令官)は、今月はじめ主要韓国メディアとの会見で「終戦宣言を急ぎすぎると後に交渉を失敗したときに北朝鮮の金正恩委員長が得をする」と述べ、「終戦宣言は一度、出してしまうと新たな戦争を起こさない限り取返しがつかない。非常に慎重であるべきだ」と明確に語った。

写真)ハリス駐韓米国大使と会談する韓国李洛淵(イ・ナギョン)首相

出典)駐韓米国大使館

 

米朝どちらが主導権を握るのか。最後に決めるのはトランプ大統領だが、中間選挙をにらんでどう出るのか、それとも膠着継続にするのか、攻防戦の正念場だ。米国がここで譲れば金正恩氏の思うつぼ。

 

TOP写真)インターネットバンキング・コンベンションを視察する文在寅韓国大統領 2018年8月7日

出典)韓国大統領府

 

 

 


この記事を書いた人
久保田るり子産経新聞編集局編集委員 國學院大學客員教授

東京都出身、成蹊大学経済学部卒、産経新聞入社後、1987年韓国・延世大学留学。1995年防衛省防衛研究所一般課程修了。外信部次長、ソウル支局特派員、外信部編集委員、政治部編集委員を経て現職。2017年から國學院客員教授。著書に「金日成の秘密教示」(扶桑社)「金正日を告発する―黄長燁の語る朝鮮半島の実相」(産経新聞社)など。

久保田るり子

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