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.国際  投稿日:2018/8/31

マケイン氏死去 大いなる損失


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2018#35」 
2018年8月27日-9月2日

【まとめ】

・マケイン氏死去で米議会のリーダーシップ空白が続く。

・米国の安保議論の迷走、政治倫理の劣化に懸念。一方で希望も。

マケイン氏を嗤ったトランプ氏。評価は未来の歴史家が下す。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全部が掲載されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=41751でお読みください。】

 

 先週末、末期の脳腫瘍で療養中だった米上院のマケイン議員が亡くなった。いずれこの日が来ることは判っていたが、筆者個人的には大きなショックだった。実は同議員が2013年に訪日した際、赤坂のレストランで事実上一対一で昼食を共にしながら懇談したことがあるからだ。詳細については今週の産経新聞をお読み頂きたい。

 

 ここでは産経コラムに書けなかったマケイン逝去が米国にとって意味することについて考えたい。ポイントは3つある。

 

 第一は米議会で指導的役割を果たす人々がいなくなること。現在の米議会は両極化が進み、決めるべきことが決まらないことも日常茶飯事だ。このリーダーシップの空白はそう簡単には埋まりそうもない

 

 第二は国家安全保障問題に関する議論が迷走することだ。確かにマケインは一匹オオカミの異端児だったが、その主張は至極正論だった。この正論を政策とするためにはマケインのような戦士が必要である。このままだと、トランプ氏の外交安保政策に真正面から異を唱える頑固者がいなくなるのではないか。

 

 最後は米国政治倫理の劣化が進むことだ。マケイン議員は高潔な人だった。私事は個人的に楽しんだろうが、彼は常に私的利益より国益を優先した。言うは易しいが、それを何十年も実践することは決して容易ではない。ジョン・マケインというベトナム戦争が生んだ稀代の政治家を失ったアメリカはこれから一体どこへ行くのだろう。

 

 Three Amigos!という言葉がある。元々は1986年に公開されたコメディ映画の題名で、スティーヴ・マーティン、チェビー・チェイス、マーティン・ショートが主演だった。米国のコメディ好きなら、ニヤッと笑うだろう。日本では「サボテン・ブラダース」として公開されたが、実はこの「三人の友人」という表現、米議会上院にもあったという。

 

  

写真)「The three amigos together again!」(2017年8月20日)
(※編集部注:写真左からグラハム氏、マケイン氏、リーバーマン氏)
出典)マケイン氏Twitter

 

 リンゼイ・グラハム上院議員、 ジョー・リーバーマン元上院議員とマケインの三人は仲が良く、Three Amigos!と呼ばれていた。グラハムとマケインは共和党員だが、リーバーマンは無所属。それでも彼らは重要問題で頻繁に協力し合った。この三人を支えていた若くて優秀な外交安保担当スタッフ、今や彼らの世代が米国の希望である。改めてジョン・マケイン上院議員逝去に対し心から哀悼の意を表したい。

写真) ジョン・マケイン上院議員 
出典)マケイン氏Facebook

 

欧州・ロシア

 西欧は漸く夏休みが終わったようで、30日にはEUの外相や国防相が非公式会合を行う。しかし、本格的な活動再開は来週になるのではないか。

 

中東・アフリカ

 

 30日に国際司法裁判所が米国の対イラン経済制裁措置に関するイラン側の言い分を聞くそうだ。こんなことでトランプ政権が反省するとは思わないが、法的措置を積み重ねることで、米国以外のイラン核合意署名国を繋ぎ留める戦略だろう。流石はイラン、意外に賢いスタッフもいるのだなと感心する。ここが北朝鮮と違う点だ。

 

東アジア・大洋州

 

 30~31日にシンガポールで東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の第6回閣僚会合が開催される。日本からは経産大臣などが出席する。RCEPを同時並行的に進めるのは正しいが、RCEPTPPほど内容がある訳ではないので、あまり大きな成果を期待することは無理だろう。

 

南北アメリカ

 マケイン逝去について、あのおしゃべりのトランプ氏が沈黙を守っている。最近のツイートでは、「マケイン上院議員のご家族に対し、我々の心情と祈りとともに、心からの哀悼の意を表します。」と述べただけ。以前トランプ氏は「捕虜になるような男は英雄ではない」と述べてマケイン氏を嘲ったことがある。何と器の小さい男だろうか。

 

 これに比べれば、マティス国防長官の声明は流石だ。「一貫して米国の最善の理想を代表した男を我々は失った。彼は常に自分よりも国家への奉仕を優先した」。同じ軍人としてマケインに対する愛情と尊敬が滲み出ているではないか。トランプ氏とマケイン氏の評価はいずれ未来の歴史家が下すだろう。

写真)ドナルド・トランプ大統領とマティス国防長官(2017年)
出典)U.S. Air Force Staff

 

インド亜大陸

 特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

▲トップ写真 ジョン・マケイン上院議員(2017年11月14日)出典:マケイン氏Facebook


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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