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.国際  投稿日:2018/9/10

朝韓中が画策「米朝終戦宣言」(中)


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・「終戦宣言」めぐり、北朝鮮は焦り、韓国は急ぎ、米国は慎重。

・朝韓中は「終戦宣言象徴論」で米国や国際社会を欺こうとしている。

・米国の「非核化先行」論批判する文正仁氏の目論見は南北連邦制。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=41916でお読み下さい。】

 

■ 南北が共に主張する「米朝終戦宣言」の罠

北朝鮮が文在寅政権の協力の下で当面総力を挙げているのが「米朝終戦宣言」の実現である。「非核化ショー」で米国と国際社会を欺瞞しながら経済制裁を無力化させ、その裏で引き続き核保有を行う「新たな核と経済の並進路線」を成功させるためには、終戦宣言の獲得が前提となる。この路線が成功すれば韓国からの米軍の撤退と韓米同盟はおのずと流れができ上がるからだ。

北朝鮮は7月30日の労働新聞で終戦宣言に反対する韓国保守勢力を批判し、その後もさまざまな対韓国宣伝媒体で、一貫して終戦宣言の早期実現を要求している。韓国の文在寅大統領も7月12日、シンガポールのストレーツタイムズのインタビューで「年内の終戦宣言が目標」と述べた。

しかし朝鮮半島における終戦宣言の持つ意味の重大性を知る米国の関係部署は、非核化措置が行われない限り終戦宣言は行わないと主張し続けている。ハリー・ハリス駐韓米国大使は8月13日、「終戦宣言の議論は時期尚早だ。非核化措置が先になければいけない」とその方針を明確にした。

▲写真 2018年6月12日に開催された米朝首脳会談 出典:The White house facebook

終戦宣言をめぐっていま米国と北朝鮮は対立している。北朝鮮は焦り、韓国は急ぎ、米国は時期尚早だとしているのだ。米朝交渉も「終戦宣言が先か北朝鮮の非核化行動が先か」で争われ、これが「ポンペオ長官の訪朝中止」につながった。米朝のこう着状態を前進させるとして5日に北朝鮮に向かった韓国特使団に対しても金正恩委員長はかたくなに「非核化措置前の終戦宣言」を譲らなかった。

▲写真 南北朝鮮半島の国境線 出典:US ARMY

文在寅政権は、今トランプ政権に「終戦宣言」を急がせているが、それを受け入れ安くするための欺瞞的手法が「終戦宣言象徴論」である。終戦宣言が象徴的なものであり、米韓同盟や、在韓米軍の撤退とは何らの関係がないもので、もちろん平和協定とは根本的に異なるなどと宣伝している。

 

■ 南北で合唱する「終戦宣言象徴論」

文政権の「終戦宣言象徴論」と全く同じ主張を今回金正恩と面談した特使団は持ち帰った。記者会見で鄭義溶(チョン・ウィヨン)特使は「終戦宣言は、政治的宣言であり、関係国との信頼構築のための必要な最初のステップと考えており、北朝鮮も共感している。金委員長は、米国と韓国の一部で提起されている、終戦宣言を行うと韓米同盟が弱体化され駐韓米軍が撤収しなければならなくなるという主張は、終戦宣言と全く関係のないことではないかという立場を表明した」と語った。

▲写真 鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長と金正恩総書記(2018年3月5日)出典:Blue House(Republic of Korea)

終戦宣言実現では、南北が全く同じ見解を示しており、もちろん中国の習近平政権も同じ考えである。「終戦宣言象徴論」で金・文・習はトランプ大統領を欺瞞しようとしている。

▲写真 2018年9月5日に親書を持って訪朝し、金正恩氏と面会した 韓国の特使団 出典:韓国政府のFacebook ページ

 

■ 終戦宣言の伝道師文正仁

この欺瞞論理を広めている伝道師は、韓国大統領特別外交安保補佐官文正仁(ムン・ジョンイン)である。詭弁家として有名な文正仁氏は少し前、米国で「終戦宣言」早期実現に引き込む「詭弁講演」スケジュールをこなし、現在は韓国内で精力的に「終戦宣言象徴論」を説き歩いている。

▲写真 文正仁氏 出典:Crawfords Forum

そればかりか、文政権の「終戦宣言ロードマップ」通り、年内に終戦宣言を実現させるために、慎重姿勢を崩さない米国の対北朝鮮政策をいまや公然と批判し始めている。

文正仁氏は9月5日ソウル上岩洞MBC公開ホールで「北東アジアの中心から未来を見る」をテーマに開かれた未来カンファレンス2018の基調講演で、「(北朝鮮の核にすべてをかけると)、北朝鮮の改革開放を引き出すのが困難になるばかりでなく、北東アジア多国間安保システムの構築も難しい。さまざまなことを同時多発的にしなければならない」と語り、「南北関係が朝米関係の付属物になってはいけない」と主張した。

また「朝米関係がうまくいかない場合は、南北関係を先に進展させ、朝米関係もよくなるようにする革新的な姿勢が必要だ」と強調し、「米朝、南北が歩調を合わせなければならない」とする米国の主張を真っ向から否定した。

彼はまた「北朝鮮に対し、米国のように否定面を大騒ぎする「否定的強化(negative reinforcement」を適用するよりは、賞賛する「正の強化(positive reinforcement」をする姿勢が必要だ」とし、「賞賛を先にして北朝鮮が非核化で具体的な進展を見せれば制裁緩和に入り北朝鮮を変えればよい。米国の「否定的強化」方式のアプローチでは間違っている」と主張した。

金正恩政権の本質を普通の子供のように描写するこの詭弁にこそ、北朝鮮と共に連邦制に進もうとする彼の反憲法的本性が集中的に示されていると言えるだろう。

に続く)

トップ画像:2018年5月23日の米韓サミットの様子 出典 韓国大統領府

 


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