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未分類  投稿日:2018/9/14

コンプレックスをモチベーションとする組織


為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)

【まとめ】

・権力が手に入る組織にはコンプレックスをモチベーションにする人が集まりやすい。

・こういう組織では、組織存続の為にも目標設定せねばならない。

・この組織のメンバーは世の中に影響を与えられていれば充実感はかなりある。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイト  https://japan-indepth.jp/?p=41984 でお読み下さい。】

 

わかりやすい権力や力が手に入る組織ではコンプレックスをモチベーションとする人が集まりやすい。世の中に対して影響を与えられる、自分の力(実際には組織の力ではあるけれど)を使って他者をコントロールできる、そして周囲がそういった認識で自分を重宝してくれるというのは、コンプレックスをわかりやすく癒してくれる。組織の側としても、相当に個々人が努力してくれるからやりやすい。

 

コンプレックスをモチベーションとする組織文化では、余裕のある人がうまくはまらない。余裕のない焦燥感が組織エネルギーのベースだから、余裕を持ってしまったらそれがうまく使えなくなるからだ。だから、どうしてもこの文化の組織はのんびりできないし、のんびりする人を受け入れない。文化が濃いほどそうなっていく。満足は禁物だ。

 

問題は目標を失ってしまう時だ。コンプレックスは諸刃の剣なので、深く考えずひたすらに目標に向かっていれば弊害が少ないが、それらを失うと、コンプレックスが自分かまたは余計なことに向かい、暴走し始める。コンプレックスをベースとする組織は、目標のために組織があるだけではなく、組織存続のためにも目標を設定しなければならない。常にエネルギーの向かい先を設定しなければならない。

▲写真 イメージ図 

出典:Pixabay photo by mohamed_hassan

 

この文化の上では、whyと尋ねるよりも、howと尋ねる方が威力がある。なぜかは考えず、どこにいくかは設定されていて、どうやってそこに到達するのかだけを考える枠組みが機能する。内省はあまりしない方がいい。してもろくな結果にならないし、自分の内側の厄介なものと対面せざるを得なくなると受容に相当時間がかかるからうまくいかずにこじらせる。気がすむまで走り切ってみて、疲れたら振り返ってみて、また走るぐらいがちょうどいい。

 

この文化の組織のメンバーは幸福感はさほど高くないかもしれない。ただ、世の中に影響を与えられていれば充実感はかなりある。ちょっとお互いにツンケンし合うかもしれないが、それは副作用みたいなもので、その攻撃性が目標に向かえば達成の確率が高くなる。外部から見ていると、目標の方が自分よりも重要視して見えるが、当の本人はターゲットしか目に入っていないのでそう思っていない。

 

こういった文化において、組織の存在理由は戦いであり、勝利であり、理解ではない。理想より現実を重んじる。この組織を鼓舞する言葉は、手に入れろそうすれば全ては癒される、だ。

 

(この記事は2017年12月28日に為末大HPに掲載されたものです)

 

トップ画像:イメージ図  出典:Pixabay photo by StockSnap

 

 


この記事を書いた人
為末大スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役

1978年5月3日、広島県生まれ。『侍ハードラー』の異名で知られ、未だに破られていない男子400mハードルの日本 記録保持者2005年ヘルシンキ世界選手権で初めて日本人が世界大会トラック種目 で2度メダルを獲得するという快挙を達成。オリンピックはシドニー、アテネ、北京の3 大会に出場。2010年、アスリートの社会的自立を支援する「一般社団法人アスリート・ソサエティ」 を設立。現在、代表理事を務めている。さらに、2011年、地元広島で自身のランニン グクラブ「CHASKI(チャスキ)」を立ち上げ、子どもたちに運動と学習能力をアップす る陸上教室も開催している。また、東日本大震災発生直後、自身の公式サイトを通じ て「TEAM JAPAN」を立ち上げ、競技の枠を超えた多くのアスリートに参加を呼びか けるなど、幅広く活動している。 今後は「スポーツを通じて社会に貢献したい」と次なる目標に向かってスタートを切る。

為末大

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