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スポーツ  投稿日:2018/7/22

“真実への執着心”が必要なわけ


為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)

【まとめ】

・人間は認識バイアスに囚われ、自分の解釈を入れ物事を理解してしまう。

・自分の目で見て体感できる一次情報には限りがある。

・本当に知的な人は、真実への執着心がある。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=41170でお読み下さい。】

 

以前、講演会に面白いお客さんが来たことがある。講演を終えて、来場者と話す機会があったのだけれど列の後ろの方に並んでいた若者が自分の順番になり話し始めると急にこんなことを言い出した。

“あなたがメディアに出るようになって友達が面白いと言うんだけど、本当にこの人はそんなに面白いのか疑問に思ったので講演会に確認しに来ました”

それでどうでしたと聞くと、あなたが柔軟な考え方をするのでそれで評価されていると納得しました、と言った。褒められたのですっかり気分良くなって忘れていたが、よく考えるとこれはとても面白いなと思った。

人間はいつも認識バイアスに囚われている。できればあるがままを捉えたいが、人間にはどうしても編集の癖というのがあり自分なりに解釈を入れて物事を理解してしまう。が、それでも何かを介して得た情報よりは自分の目で見た方がよほどリアリティがあるから、なるべく自分で体験した方がいい。

しかしながら我々の1日は24時間しかなく、急にぽんぽん違う場所に行けるわけでもない。本当に自分の目で見て体感できる一次情報には限りがある。それに比べメディアが流してくれる情報は自分の目で見てないにしてもかなり効率よく情報を得られる。だからメディアはとても大切なのだけれど、何かを介して情報を得るということは必ず何らかの編集が入るという前提に立たなければ現実を間違えて認識する。

▲写真 イメージ図 出典:Pixabay photo by rawpixel

何かがそう伝えている。自分がそうではないかと考えている。そうだと確信している。この三層はずいぶん違う。真実への執着心がない人間は、いとも簡単にメディアがそう伝えているが、自分がそうだと確信しているに変わってしまう。結論にいとも簡単に到達する人も似ている。彼はこうだ、この会社はこうだ、と決めつけてしまう。結論に容易に到達する人間の一番の弊害は、つねに誤りのある前提で物事を判断しているということだ。自分の願望が反映された前提で物事を判断するので、精度が低い。

私の友人でトランプさんを一目見たいという人がいる。ものすごくトランプさんが嫌いだそうで、だから会ってみないと本当のところがわからないので、一目遠くからみるだけでいいから会ってみたいのだそうだ。その話を聞いて、私もそうありたいと思った。本当に知的な人は確信を我慢できる。

(この記事は2017年12月27日に為末大HPに掲載されたものです)

▲トップ写真 イメージ図 出典:Pixabay photo by StockSnap


この記事を書いた人
為末大スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役

1978年5月3日、広島県生まれ。『侍ハードラー』の異名で知られ、未だに破られていない男子400mハードルの日本 記録保持者2005年ヘルシンキ世界選手権で初めて日本人が世界大会トラック種目 で2度メダルを獲得するという快挙を達成。オリンピックはシドニー、アテネ、北京の3 大会に出場。2010年、アスリートの社会的自立を支援する「一般社団法人アスリート・ソサエティ」 を設立。現在、代表理事を務めている。さらに、2011年、地元広島で自身のランニン グクラブ「CHASKI(チャスキ)」を立ち上げ、子どもたちに運動と学習能力をアップす る陸上教室も開催している。また、東日本大震災発生直後、自身の公式サイトを通じ て「TEAM JAPAN」を立ち上げ、競技の枠を超えた多くのアスリートに参加を呼びか けるなど、幅広く活動している。 今後は「スポーツを通じて社会に貢献したい」と次なる目標に向かってスタートを切る。

為末大

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