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.国際  投稿日:2018/10/23

文在寅大統領は北朝鮮の「特使」?


 

朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・各国歴訪の文在寅大統領の言動はまるで金正恩氏の「代弁者」。

・文大統領の対北制裁緩和工作は失敗。各国首脳はCVIDを主張。

・ローマ教皇の訪朝を促す文大統領。韓国内信者が反発、告発も。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=42563でお読みください。】

 

9月の国連総会に参加した韓国の文在寅大統領は、米シンクタンクの外交問題評議会(CFR)で聴衆に対し、「テレビで見ただろうが、私の経験から言えば、金正恩氏は若く極めて率直で礼儀正しく、年長者には敬意を持って接している」と指摘。「金正恩氏は誠実で、経済発展のために核兵器を放棄すると私は信じている」と述べた。この発言に対して米国のブルームバーグ通信は、「韓国の文在寅大統領、金正恩氏の事実上の代弁者に」(2018年9月26日)と報道した。

こうした厳しい報道にもかかわらず、10月13日から始まった7泊9日のヨーロッパ歴訪では「代弁者」から「特使」?に昇格したような動きを示した。

10月15日のマクロン仏大統領との会談を前にして、文大統領は仏フィガロ紙の取材に応じ(14日)、再び「今年、金委員長と数時間にわたって綿密な協議をした。これらの会談を経て私は、委員長が核兵器の廃棄に向け戦略的な決断をしたことを確信した」と述べ、 金正恩に対して「誠実で冷静、礼儀正しい」と評し、「国際社会が依然として疑念を持っていることに不満を感じている」と主張した。

そして「困難の末に合意にこぎ着けたこれらの努力へ報いるべき時が来た」と述べ、「金委員長に非核化は正しい決断だったと保証する必要がある。永続的かつ確かなペースで、委員長の希望に沿う必要がある」と語った(ロイター2018/10/15)。

 

■ 文大統領の対北制裁緩和工作は失敗

しかし、ヨーロッパでの「北朝鮮特使」的活動はことごとく失敗したようだ。マクロン大統領は10月15日、文大統領との共同記者会見で、「北朝鮮が核廃棄プロセス開始の意思を明確に示す」までは、国連安全保障理事会の制裁を維持すべきだと強調し、文大統領の考えに同意しなかった。マクロン氏は「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」が必要だと訴え、現段階では融和措置をとるべきでないとの立場を示した。(産経新聞2018/10/16)。韓仏首脳会談後の共同宣言の冒頭には「韓半島(朝鮮半島)非核化はCVID(完全かつ検証可能で不可逆的破棄)方式で進めねばならない」との文言が入った。

▲写真 文在寅大統領(左)との会談後の共同記者会見でマクロン仏大統領は対北制裁維持を主張した。(2018年10月15日)出典:韓国大統領府facebook

CVIDは北朝鮮が極度に嫌う表現であるため、最近米国でさえあまりこの言葉は使わない。おそらくマクロン大統領が強く主張したので宣言文に入ったのだろう。そればかりかマクロン大統領は非核化とともに北朝鮮人権問題の解決にも強く言及し、EUでそれを主導すると述べた。

マクロン大統領との会談結果で、文在寅大統領の「金正恩特使」的任務の出端は完全にくじかれた。この会談の2日後に行った安倍総理との会談では、北朝鮮による制裁逃れの防止についても全力をあげることで一致した。

17日(現地時間)には、2番目の訪問国であるイタリアでマッタレッラ大統領と会談したが、そこでも北朝鮮核のCVIDが主張され、制裁緩和要請は拒否された。19日にはブリュッセルでドイツのメルケル首相、イギリスのメイ首相とも会談したが、朝鮮半島の平和定着への支持を確認しただけで、メルケル首相からは「北朝鮮も完全な非核化に向け、もう少し確実な行動を見せる必要がある」と制裁緩和の反対を表明され、メイ首相からは答弁すら得られなかった。

また、10月18日から2日間、ベルギー・ブリュッセルで開かれた第12回「アジア欧州会合(ASEM)首脳会合」(51カ国の首脳が参加)議長声明でも、北朝鮮核問題解決におけるCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)と、国連安保理対北朝鮮制裁決議の完全な履行が強調され、北朝鮮の核拡散防止条約(NPT)と国際原子力機関(IAEA)セーフガード(安全対策)への速やかな復帰とモニタリングシステムに協力することも要求された。

▲写真 ローマ教皇・フランシスコ(右)と文在寅大統領(左)(2018年10月18日於:バチカン市国)出典:韓国大統領府facebook

■ フランシスコ・ローマ教皇の北朝鮮訪問はあるか?

ただ、文大統領の訪問を受けたローマ教皇フランシスコが18日(現地時間)、「北朝鮮から公式の招待状がくれば無条件に返答するし、行くことができる」と話したと、韓国青瓦台(大統領府)が明らかにした。この発表通りだとすれば、金正恩の公式招待を条件にフランシスコ教皇が、カトリック教会も司教も信者もいない国を訪問すると解釈できるのだが、司教も信者もいる中国にさえ訪問していない教皇が、北朝鮮を訪問するなどとはにわかには信じられないことである。

▲写真 ローマ教皇の北朝鮮訪問に反対する韓国の信徒 出典:ザ・自由日報が著者に提供

この件に関してバチカン国務長官ピエトロ・パロリン枢機卿は19日のバチカンニュースで、教皇フランシスコが北朝鮮を訪問することに前向きな姿勢を示したと明らかにした上で、それは韓国大統領がこの件を口頭で伝え、教皇もそれに対し口頭で答えたであろうという意味で、これはまだ最初のアプローチの段階であるとした。

そして、この訪問を真剣に検討する段階になれば、当然、それを実現するための条件が要求されると述べると共に、自身の見解では、こうした訪問には周到な準備と考察が必要と語った。韓国青瓦台の発表とは随分とニュアンスが異なる見解だ。

過去に反共のためにナチスと手を握ってホロコーストを容認する過ちを犯したバチカンが、万に一つでも文在寅氏(カトリック洗礼名はテモテオ)の仲介に乗って、人権を踏みにじり、宗教を弾圧する残忍な独裁者、金正恩と手を握ることになるならば、その歴史に今一つの大きな汚点を刻むことになる。

カトリック信者のためにもそうならないことを心から願うばかりだ。すでにソウルでは純真なカトリック信者の団体である「大韓民国守護カトリック教徒の会」が、文大統領の「フランシスコ法王北朝鮮訪問推進反対」のデモまで起こしている。

何の恥じらいもなく、金正恩の「代弁人」どころか「特使」まがいの行動まで行う文在寅氏を、韓国の市民団体は「与敵罪()」で告発した。

 (※編集部注)韓国の与敵罪・・・敵国と一緒になって国家に敵として対抗する重罪。

トップ画像:欧州歴訪から帰国した文在寅大統領夫妻(2018年10月21日ソウル空軍基地)出典:韓国大統領府facebook

 

【訂正】2018年10月23日

本記事(初掲載日2018年10月23日)の著者名「島田洋一」氏は「朴斗鎮」氏の間違いでした。お詫びして訂正いたします。本文では既に訂正してあります。


この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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