なりふり構わぬ文在寅政権の「情報操作」
朴斗鎮(コリア国際研究所所長)
【まとめ】
・教皇庁公報室の報道資料には北朝鮮訪問関連の内容は全く無いにもかかわらず、韓国大統領府はさもあるかのような情報を流した。
・韓国の国家情報院は、故金日成主席、故金正日総書記父子の写真を撤去したと伝えたがこれもフェイク情報。
・文政権は金正恩との首脳会談の実現のためにとんでもない情報操作を行っているため、注意が必要である。
韓国での左派従北政権継続のため、来年3月の大統領選挙前になんとしてでも「南北首脳会談」にこぎつけたい文在寅大統領は、北朝鮮との「終戦宣言」で米国との協議が順調に進んでいるかの如き情報を流す一方、「ローマ教皇訪朝約束」や「金正恩格上げ情報」などを流す露骨な情報操作を行っている。
1、「ローマ教皇訪朝約束」の偽情報流す韓国大統領府
主要20カ国・地域(G20)首脳会議出席のためにイタリア・ローマを訪問した韓国の文在寅大統領は10月29日、ローマ教皇庁を訪問し、フランシスコ教皇にまたもや北朝鮮訪問を提案した。提案に対して法王は「招待さえしてくれれば、平和のために喜んで行く」と答えたと11月1日に韓国大統領府のパク・ギョンミ報道官が明らかにした。しかし教皇庁公報室の報道資料には北朝鮮訪問関連の内容は全く無かった。
また韓国大統領府は10月30日にジョー・バイデン大統領に会い、「ローマ教皇が招待されれば北朝鮮を訪問すると述べた」と伝えた所、バイデン大統領が「うれしい便り」としながら「(韓半島問題の解決に向けて)進展を成し遂げていると答えた」と書面ブリーフィングした。だがこれもフェイクだった。文大統領とバイデン大統領は2~3分間「遭遇」したにすぎず、立ったまま軽く挨拶しただけだ。当然ホワイトハウスはこの「遭遇」に対して報道資料を出していない。
韓国メディアがこうした事実を追求すると、韓国大統領府は火消しに乗り出した。パク・ギョンミ報道官は11月2日に「教皇は暖かい国の出身、冬に動くのは難しい」と無知な発言(アルゼンチン南部には零下20度以下の地域がある)で逃げをうち、11月3日には、KBSラジオとのインタビューで「教皇の訪朝時期は来年2月の北京冬季五輪前後になるか」との質問に、「時期については予断を許さない。教皇の訪朝は作られるイベントではなく、それ自体が崇高な行いなので、これまでの宣言のようなものとは結びつかず、それ自体で見てほしい」とし、事実上訪朝の約束がなかったことを認めた。
文大統領のローマ教皇利用はこれで2度目だ。2018年10月にもローマ教皇が「北朝鮮から公式の招待状がくれば無条件に返答するし、行くことができると話した」とするフェイクニュースを流した。
この時もバチカン国務長官ピエトロ・パロリン枢機卿は、10月19日のバチカンニュースで、「自身の見解では、こうした訪問には、周到な準備と考察が必要」と語り、韓国大統領府の発表を遠回しに否定した。
文大統領は自身がカトリック信者(洗礼名テモテオ)であることを利用して、度々ローマ教皇を政治利用しているが、いい加減にしないとカトリック教徒を敵に回すことになりかねない。
2、北朝鮮内部動向で「誤情報」流す韓国国家情報院
▲写真 北朝鮮・平壌で、金日成広場のパレード審査台から展示された金日成と金正日の巨大な写真(2018年8月23日) 出典:Carl Court/Getty Images
一方韓国の国家情報院(国情院)は10月28日、国会情報委員会による国政監査で、朝鮮労働党第8回大会以降、故金日成主席、故金正日総書記父子の写真を撤去し、「金正恩主義」という用語を内部で使用するなど、独自の思想体系の確立を始めたと伝えた。これもフェイク情報だ。
党中央の主要会議から故金日成主席、故金正日総書記父子の写真が撤去されたのは党第8回大会以降ではない。すでにそれ以前からなされている。このことは北朝鮮の報道写真を確認すればすぐに分かる事実だ。
またすべての写真が撤去されたかの如く報告しているが、党庁舎会議室によっては撤去されないままの場所もある。例えば2021年6月8日に開かれた「党中央委員会と道党委員会責任幹部たちの協議会」では、金日成、金正日の写真が飾った会議室で会議が行われた。
そればかりか北朝鮮内部で「金正恩主義」という用語も公式には使っていない。「~主義」とされているのは「金日成・金正日主義」だけだ。そして金日成に対しては「偉大な首領」、金正日に対しては「偉大な領導者」「偉大な将軍様」と呼称している。この二人をまとめて呼称する時は「首領たち」としている。
もしも北朝鮮で「金正恩主義」との用語が使われているならば、金正恩に対する敬称も先代たちと同じレベルの呼称とならなければならない。だが、金正恩に対する呼称は依然として「敬愛する金正恩同志」「敬愛する金正恩総書記」となっている。
文政権はいま金正恩との首脳会談を実現するために、ローマ教皇を利用したり、「金正恩格上げ情報」を流したりして、とんでもない情報操作を行っている。日本の読者はすでに文政権の「ウソ情報流布」には慣れっこになっているが、そうでない国も多い。今後とも韓国政府が流す情報には細心の注意もって対処する必要がある。
トップ写真:COP26での韓国・文在寅大統領の演説(2021年11月1日) 出典:Yves Herman – WPA Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長
1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統