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.国際  投稿日:2022/10/28

尹錫悦政権、反憲法・腐敗勢力を一掃へ その1 


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

 

【まとめ】

・文前大統領の不正疑惑で、検察が重要視しているのは北朝鮮との内通疑惑。

・一つは、2018年4月、金正恩総書記に渡したUSBの中身に関する疑惑。

・「海洋水産庁職員見殺し」では、文前政権の高官である徐旭と金洪熙が逮捕された。

 

尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は10月19日昼12時から1時間30分間、国防コンベンションセンターで、就任後初の院外党協委員長招請午餐懇談会を開いたが、この席で、ある出席者が北朝鮮の挑発に言及し、「従北主思派勢力に押されてはならない」との発言を行うと、尹大統領は「国内外で経済が厳しく、安保状況も容易ではない。このような時こそ最も重要なのは、自由民主主義体制に対する確固たる信頼と確信を持つことだ」と述べ、「自由民主主義に共感すれば、進歩であれ左派であれ、協力して妥協できるが、北朝鮮に従う主思派(主体思想派)は進歩でも左派でもない。敵対的な反国家勢力とは協力が不可能だ」と述べた。

ここでは、その勢力が具体的に誰を指すかは言明しなかったが、現在進めている腐敗捜査の方向から見て、文在寅前大統領勢力と共に民主党代表李在明勢力を指していることは十分に推察できる。

 

1、「与敵罪」適用?に怯える文在寅

 文前大統領の不正疑惑では、蔚山市長選挙介入疑惑、私邸用地の農地から宅地への転用し疑惑、夫人金正淑(キム・ギョンスク)のインド訪問など公私混同疑惑などがあるが、検察が最も重要視しているのは、原発関連疑惑や北朝鮮漁民強制送還及び海洋水産庁職員「見殺し問題」など北朝鮮との内通疑惑だ。

対北内通疑惑でまず指摘されているのは、2018年4月の金正恩総書記との会談(板門店)で、金正恩に渡したUSBの中身に関する疑惑だ。

 この内、原発関連疑惑では文政権下の産業通商資源部長官白雲(ペク・ウンギュ)氏が、「月城原発1号機経済性データ捏造」や「ブラックリスト疑惑」と絡めて今年6月すでに取り調べを受けており、8月には検察(大田地検刑事4部)が大統領記録物を管理する大統領記録館(世宗市)を強制捜査した。ところがこのUSB疑惑で最近新たに浮上しているのが仮想通貨による金正恩支援疑惑だ。

 

1)金正恩に渡したUSBの新たな疑惑浮上

 洪準杓(ホン・ジュンピョ)大邱市長はこの件に関して10月24日のフェイスブックで「板門店での南北首脳会談の際、当時は注目されなかったが、文前大統領は金正恩氏に何が込められたUSBメモリーを渡したのだろうか」と投稿した。

 洪市長は「彼らは当時、北朝鮮の経済発展計画だと軽くやり過ごしたが、私はUSBの内容によっては『与敵罪』(外患罪の一種で、敵に加勢して韓国と対抗する罪)になりかねないと警告したことがある」と述べた。

 その上で、「経済制裁によって封じ込められた北朝鮮の苦境を打開するため、巨額のビットコインを渡したという話も広まっており、朴元淳(パク・ウォンスン)元ソウル市長らが北朝鮮と取引したという仮想通貨のうわさがあるが、それとどう関係があるのか、明らかにすべき時ではないかと思う」と主張した(朝鮮日報)。

 故朴元淳元ソウル市長を巡る仮想通貨のうわさは、国会での国政監査で、共に民主党の金宜謙(キム・ウィギョム)議員が、韓東勲(ハン・ドンフン)法務長官の訪米目的を追求する過程で、うっかり暴露して話題になった内容だ。

 金議員は北朝鮮への制裁を回避し、仮想通貨を海外送金する技術を開発した開発者と韓国側の連絡担当者が送受信した電子メールに、当時の李在明城南市長、朴元淳元ソウル市長らが登場するが、その調査のために米国を訪問しただろうと問い質したのである。

 

2)「海洋水産庁職員見殺し」で文前政権の高官・徐旭と金洪熙を逮捕

このUSB疑惑と共に、現在文前政権の対北朝鮮内通疑惑では、2019年11月に北朝鮮漁船員2人を北朝鮮側に強制送還した事件、2020年9月22日に西海(ソヘ、黄海)で北朝鮮軍に射殺され遺体を燃やされた海洋水産庁職員「故イ・デジュン氏事件」などに焦点が当てられているが、韓国検察はまず、「故イ・デジュン氏事件」への本格捜査から切り込んだ。

10月22日、検察は文在寅前政権の徐旭(ソ・ウク)元国防部長官と金洪熙(キム・ホンヒ)元海洋警察庁長の両名を逮捕した。容疑は故李デジュン氏を「自主的な越北者」とするために虚偽公文書捏造したことと関連諜報を削除した職権乱用である。文前政権での対北朝鮮関連事件で前高位公職者の身柄が確保されたのは今回が初めてだ。

この事件に対しては、韓国監査院は今年6月から文前政権の国家安保室、韓国国防部、国家情報院、海洋警察庁など九つの政府機関への監査を行ってきた。その監査で、2020年9月22日の時点までは、韓国軍が特殊情報(SI)を通じて、北朝鮮海域での李さんの生存を確認していたとの事実をつきとめた。監査院は、李さんの生存時点から国防部が24日に「殺害された李さんは越北を試みたと推定される」と発表した時点までを集中的に監査したという。

この集中監査によって、監査院の監査チームは「当時韓国軍や海洋警察などは、李さんが越北したと判断できる徴候よりも、李さんが船から落下し北朝鮮海域に流されたと考えられる有力な徴候をはるかに多く確保していた」との結論を下した。監査チームは文前大統領が受けた最初の報告にも「落下と推定」という趣旨の文言はあったが「越北」という言葉はなかったことを確認したという(朝鮮日報)。

ところが文前政権は、李さんの落下・漂流に関する証拠や陳述を無視し、根拠のない状態で「李さんは越北(北朝鮮に脱出)」との情報を捏造した。監査院はこの事件の背後に前政権の大統領府があると睨み、徐薫(ソ・フン)元青瓦台国家安保室長と朴智元(パク・チウォン)元国家情報院長に出頭を要求(徐薫と朴智元の両人はかつて院長を務めていた国家情報院からも告発されている)し、文前大統領には書面調査を求めた。検察は監査院の監査に基づき元国防部長官徐旭と元海洋警察庁長金洪熙を逮捕したのである。

 

3)金文洙経済社会労働委員長、文在寅を「金日成主義者」と断定

 労働改革を巡る議論を主導する大統領直属の経済社会労働委員会(長官級)の委員長で元国会議員・京畿道知事の金文洙(キム・ムンス)氏は10月12日、国会環境労働委員会の国政監査で、野党議員からの質問に答え、「文在寅前大統領は自ら『最も尊敬する韓国の思想家は申栄福(シン・ヨンボク)先生だ』と言った。申栄福を最も尊敬する思想家だというなら、確実に金日成主義者だ」と述べた。

 過去韓国労働運動の大家の一人と言われた金文洙氏が、文在寅を金日成主義者と断定したのは非常に重い指摘である。彼は申栄福を熟知していた人物だからだ。申栄福は金文洙氏の11年先輩(ソウル大学)で年は離れているが、学生運動、労働運動で密接な関係を持った間柄だった。

では金文洙氏が「文在寅前大統領は金日成主義者」と断定する根拠となった故申栄福氏とはいかなる人物だったのか?

 聖公会大学教授だった申栄福氏は1968年の統一革命党事件で、金鐘泰(キム・ジョンテ)、金質洛(キム・ジンラク)、李文奎(イ・ムンギュ)らと共に逮捕され、共に死刑宣告を受けた人物だ。他の3人は死刑を執行されたが、申栄福だけは「転向書」を提出し無期懲役に減刑され20年間服役した。転向書を出して1988年に出所したが、「私は思想を変えたり、同志を裏切ってはいない」と矛盾した主張を行っている。この発言を信じる従北左派陣営は同教授を「真の人文学者、思想家」などと今も偶像化している。

金文洙氏の発言に対し、民主党の多くの議員は強く反発し、激しい言葉を浴びせかけただけでなく、同党所属の全海チョル(チョン・へチョル)国会環境労働委員長は金文洙氏を退場措置とした。この措置も前代未聞だが、金文洙氏の発言がいかに衝撃的だったかが伺える。

(その2につづく)

写真)国会で政府の補正予算について話す尹淑烈大統領(2022年10月25日、韓国・ソウル)

出典)Photo by Jeon Heon-Kyun – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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