尹錫悦政権、反憲法・腐敗勢力を一掃へ その2
朴斗鎮(コリア国際研究所所長)
【まとめ】
・韓国検察は、対北朝鮮内通・腐敗勢力と見られる「共に民主党」代表の李在明グループへの追求強める。
・李在明氏の対北朝鮮内通疑惑で表面化しているのは、下着会社グループ「サンバンウル」を通じての違法行為。
・文在寅、李在明両氏が逮捕に追い込まれれば、韓国の政治情勢が一変するだけでなく、金正恩の対韓国戦略にも決定的打撃を与えることになるだろう。
韓国検察はいま、文前大統領勢力と共にもう一つの対北朝鮮内通・腐敗勢力と見られる「共に民主党」代表の李在明(イ・ジェミョン)グループへの追求も強めている。
2、野党第1党代表李在明にも対北内通疑惑
李在明氏への追求では、現在柏峴(ペクヒョン)洞特恵疑惑で最側近金湧(キム・ヨン)氏が逮捕され大きな話題を提供しているが、この勢力には仮想通貨による対北支援疑惑も浮上している。こうした李在明氏の対北朝鮮内通疑惑で現在表面化しているのは、「サンバンウル」という下着会社グループを通じての違法行為である。
1)下着会社サンバンウルを通じた北朝鮮送金疑惑
下着会社「サンバンウル」に対する捜査は、李在明ラインが、国連制裁を無視して北朝鮮と連携した内容が焦点となっており、国家保安法で処罰すべき事態に拡大する可能性が大きい。この疑惑で核心人物である「サンバンウル」の前会長でオーナーの金ソンテ氏は現在国外逃亡中だ。
サンバンウルグループが数十億ウォン分の米ドルなどを不正に海外に持ち出した状況を確認した検察は、10月17日、ソウルのサンバンウルグループ事務室などを家宅捜索した。検察はサンバンウルの対北朝鮮事業とサンバンウルのドル不正持ち出しの時期が重なる点などに注目し、この外貨が北朝鮮側に渡ったかどうかを調べている。
水原(スウォン)地検がこの日に行った家宅捜索の対象には、サンバンウルグループとサンバンウル本社、サンバンウル系列会社のグァンリムやナノス(現SBW生命科学)などが含まれた。検察は捜索差押許可状に外国為替取引法違反および特定経済犯罪加重処罰法上の財産国外逃避の疑いを明記したという。
検察は、キム・ソンテ氏らが2019年1月と11月に中国瀋陽で北朝鮮側の人物と会う直前にサンバンウルグループの外貨持ち出しが集中したと把握している。キム氏が北側の朝鮮アジア太平洋平和委員会と経済協力合意書を作成した1月の行事には、サンバンウルグループから計3億2000万ウォンの賄賂と不法政治資金を受けた容疑で逮捕、起訴された元京畿道(キョンギド)平和副知事の李華泳(イ・ファヨン)も出席していた。
検察によると、外貨持ち出しにはサンバンウルグループ数十人の役職員が動員されたという。1人あたり数千万ウォンから数億ウォンをドルなどに両替し、個人の持ち物の中に隠して申告せずに出国したようだ。このように出国したサンバンウル役職員は中国現地空港でサンバンウルグループのバン副会長(逮捕、起訴)に外貨を渡した後、すぐに帰国の飛行機に乗ったという。検察はこの外貨が北朝鮮の人物に渡ったとみている。
サンバンウルが北側の人物に会う席にはアジア太平洋平和交流協会会長のアン氏も同席したという。アン氏は2019年1月、サンバンウル系列会社ナノスの取締役として招聘された。ナノスはアン氏を招聘した後、事業目的に鉱山開発業と海外資源開発業を追加した。
当時、北朝鮮との経済協力合意でナノスがレアアース(希土類)を含む北朝鮮の鉱物に対する事業権などを受けたと伝えられ、コスダック上場企業ナノスの株価は急騰した。
アジア太平洋平和交流協会は2018年11月と2019年7月、それぞれ京畿道(キョンギド)とフィリピン・マニラで「アジア太平洋の平和・繁栄のための国際大会」を京畿道と共同主催している。
サンバンウルはこの行事に数億ウォンを支援した。アジア太平洋平和交流協会に対しては、統一部の承認を受けずに北朝鮮万寿台創作社の数十点の絵画を不正保有したり、タイで「APP427」というコインを発行・上場する事業を進めたりするなど、各種疑惑が提起されている。
検察は不正に持ち出した外貨が、サンバンウルの北朝鮮鉱物事業権獲得、北朝鮮高官のアジア太平洋平和交流協会行事出席の見返り、または密輸した絵画の対価などとして北朝鮮側に渡った可能性(南北交流協力法違反)を念頭に置いて資金の流れを分析している。
検察は10月14日、アジア太平洋平和交流協会事務室とサンバンウルグループ元幹部、アジア太平洋平和交流協会元会長アン氏の自宅などを家宅捜索し、近くアン氏ら協会関係者と共謀で外貨を持ち出した役職員を調べる予定だ。北朝鮮絵画密輸疑惑に対しては関税庁の調査も進められている。
サンバンウルの「仮想通貨」を通じた北朝鮮支援疑惑には米国当局も注目している。イーサリアム開発者のバージル・グリフィスを捜査した米国当局(ニューヨーク南部連邦検察)が、文在寅や李在明の北朝鮮コネクションを明らかにしているが、その中にサンバンウルも含まれているようだ。北朝鮮が全世界から盗んで洗浄した疑いのあるドル資金は、現在17兆ウォンを超え、20兆ウォン以上と推定されている。
2)不正選挙資金疑惑でも側近を拘束・出国禁止に
李代表にはこの疑惑だけでなく、京畿道城南市の柏峴(ペクヒョン)洞特恵疑惑、弁護士費用代納疑惑(サンバンウル)、城南FC不法後援金疑惑、自宅の隣家を京畿道住宅公社名義で借りて大統領選挙時に使用した容疑、慰礼(ウィレ)開発疑惑などがあり、夫人金恵景(キム・ヘギョン)氏の公務用クレジットカード不正使用疑惑も捜査が進行中だが、現在検察が焦点を当てているのは選挙違反と不正選挙資金疑惑だ。
選挙中の虚偽発言疑惑についてはすでに起訴され裁判が始まっているが、不正資金問題はこれからだ。李在明氏の最側近とされる民主研究院副院長の金湧(キム・ヨン)氏が、収賄容疑や政治資金法違反の疑いで10月21日に逮捕されたことで一躍脚光を浴びている。
金容疑者は李代表が京畿道知事に就任後、同道の報道官に起用され、李氏が「共に民主党」大統領候補に選出された今年3月には選挙対策本部副本部長を務めていた。
金氏が逮捕された容疑は昨年4~8月、元城南都市開発公社企画本部長のユ・ドンギュ氏らと共謀し、ソウル郊外城南市の大庄洞都市開発事業に関わった民間業者から4回にわたり約8億7000万ウォンの違法な政治資金を受け取ったというものだ。
検察が逮捕に踏み切ったのは、周辺調査で多くの証拠を固めたことと、李在明氏の「ユ・ドンギュは側近ではない」発言に「背信」を覚えた「ユ・ドンギュ元企画本部長」が、怒りを抑えきれずに検察側に多くの証言したためだ。昨年10月に大庄洞事件で逮捕され、1年にわたり拘束され捜査を受けてきたユ氏は、勾留期間満了で10月20日未明に釈放されているが、検察はユ氏から「金湧副院長に7億4000万ウォン(約7720万円)余りを渡した」との供述を得たという。
現在検察は、大統領選の違法な政治資金8億4700万ウォン(約8820万円)が、大庄洞開発の事業者である南旭(ナム・ウク)弁護士をはじめ、南弁護士の側近で「天火同人」4号の理事であるL氏、鄭民鎔(チョン・ミンヨン)弁護士を経て、ユ·ドンギュ元城南都市開発公社企画本部長に渡り、金湧(キム・ヨン)民主研究院副院長に流れたとみている。
L氏は南旭弁護士が調達した現金の一部を鄭民鎔弁護士に渡す「中継役」の役割を果たしたとされる。L氏は検察の聴取に対し、8億4700万ウォンをいつ、どこで、どうやって鄭民鎔(チョン・ミンヨン)弁護士に渡したかをメモに残していたが、最近捜査チームに他の資料と共にメモを自発的に提出したとされる。
検察は10月18日、このメモとユ元企画本部長、南弁護士の供述に基づき、金副院長の拘束を裁判所に申請し20日に逮捕した。検察は金副院長が昨年4月から8月にかけ、ユ元企画本部長に民主党の大統領選予備選資金として約20億ウォンを要求し、大庄洞開発関係者から8億4700万ウォンを受け取ったと見ている。
韓国検察はまた、L氏が元城南都市開発公社戦略事業室長だった鄭民鎔弁護士に大統領選の違法な政治資金を渡したと説明した場所の車両出入庫記録なども確保したという。場所は鄭弁護士が昨年まで住んでいた京畿道城南市板橋地区のマンションの地下駐車場だ。検察はユ元企画本部長の供述も分析し、L氏がマンションを訪れた記録を確保したのだ。チャンネルAは10月23日、マンション地下駐車場の監視カメラ映像も存在すると報じた。映像に金銭を授受する場面が映っているかどうかは不明だ。
文在寅、李在明両氏の対北朝鮮内通と一連の容疑の外堀が埋められた状態だが、この二人が逮捕に追い込まれれば、韓国の政治情勢が一変するだけでなく、金正恩の対韓国戦略にも決定的打撃を与えることのなるだろう。
(その1。全2回)
トップ写真:記者会見する李在明氏 韓国・京畿道 2022年1月4日
出典:Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images
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この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長
1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統