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.国際  投稿日:2018/12/25

「ゴーン氏逮捕正当性なし」郷原信郎弁護士


Japan In-depth 編集部

 

【まとめ】

・ゴーン氏逮捕に正当性なし。

・将来受け取る報酬について記載義務ない。

・西川社長にも責任あり。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトでお読みください。】

 

日産自動車の前会長カルロス・ゴーン氏が5年度分の役員報酬を50億円ほど少なく有価証券報告書に記載したとして逮捕・起訴された事件で、今月10日、東京地検特捜部はゴーン前会長・ケリー前代表取締役を取引法違反の罪で再逮捕した。12月12日放送のJIDチャンネルでは、郷原総合コンプライアンス法律事務所の郷原信郎代表弁護士をゲストに招き、本件について詳しく話を聞いた。

 

郷原氏は自身のブログやメディアからの取材などを通じて、ゴーン氏やケリー氏を虚偽記載罪で起訴するのは法的には非常に困難だとの見解を述べている。

 

放送の中で郷原氏は「現実に受け取った報酬ではないものを、年度の有価証券報告書に記載すべきだったというのはおかしな話」とし、検察側の主張は法的に成立しないと改めて主張した。

 

さらに、「役員報酬の虚偽記載は、投資判断に大きな影響を及ぼす粉飾決済とは意味が違う。その上、日産の7000億円の売り上げの中では(虚偽の記載がされたと言われている)10億円、20億円というのは微々たる数字」と、仮に検察側が主張するような虚偽記載が行われていたとしてもその影響力は極めて小さく、大々的に報道されている本件に違和感があるとの考えを示した。

 

写真)ノルウェーでLEAF発表会に臨むカルロス・ゴーン前日産会長 2013年4月

出典)flickr : Norsk Elbilforening

 

 

 

支払金額が決定しており、さらに支払いが確定しているものについては有価証券報告書への記載の義務がある。しかし郷原氏は、「本件においてゴーン氏はもらおうとすればもらえた20億円の受け取りを10億円に抑え、その分、将来的にコンサルタント契約の対価を受け取ろうとしていた」のであり、それは「役員報酬ではなくただのコンサルタント料」であるとの考えを示した。

 

さらに検察側が「コンサルタント契約は役員報酬を隠蔽する為の偽装契約」だと主張していることについては、「偽装契約だとしたらその契約は無効」と述べ、ゴーン氏に罪はないと考えるのが妥当だと話した。つまり、「将来的にゴーン氏が金銭を受け取る権利を有する場合、それは役員報酬ではなくコンサルタント料。偽装契約ならゴーン氏は金銭を受け取ることが出来ないので、罪はない」と、検察側の主張には大きな矛盾があると指摘した。

 

また、本件が日本版司法取引の2例目としても注目されていることについては、その司法取引の正当性に疑問を呈した。

 

「秘書室長とゴーン氏の間での退職後報酬の合意は『計画』でしかなく、効力を持たない。取締役会の承認を得ていない書類についても、同様に有効ではない」と述べ、司法取引が威力を発揮したかのように主張する検察側の姿勢が根本的に誤っていることを指摘した。

 

加えて、「もし退職後の報酬の支払いについて、合意と内容の確定があったならば臨時株主総会でゴーン氏を辞任させた後すぐに、会社側は(虚偽記載とされる分の)90億円を支払う義務がある。もし90億円が支払われなければゴーン氏が起訴される理由は自動的になくなることになる」「現時点で会社が90億円ゴーン氏に払うとは到底考えられない」と話し、会社側の姿勢にも矛盾があることを指摘した。

 

さらに西川社長が支払い名目についての書類に署名していた事実にも触れ、「コンサルタント料の名目で支払われる報酬については知ってたが、それが役員報酬の先送りだとは知らなかったというのはあり得ない」と、西川氏が負うべき責任にも言及した。

 

写真)日産自動車 西川廣人代表取締役最高経営責任者

出典)日産自動車

 

加えて、金融商品取引法197条の規定によれば、犯罪行為は「虚偽記載をすること」ではなく「虚偽の記載のある報告書を提出すること」であると指摘し、犯罪の主体となるのは「虚偽の記載のある報告書を提出する義務を負う者」であるので日産の場合は西川社長がそれにあたると指摘。その事実を踏まえても、本件について全く責任を負う姿勢を見せない西川社長の姿勢に疑問を示し、負うべき責任があるはずの西川社長と検察との間では司法取引は成立し得ないとした。

 

ゴーン氏の逮捕については海外メディアからの批判が相次いでいることにも触れ、「刑事事件に仕立て上げたことがそもそも理解出来ない。海外からの意見は真っ当なもの。」と述べた。さらに日本の報道は検察・日産・マスコミが一体化しており、ゴーン氏逮捕の正当性を疑う記事がほとんどないことも指摘した。

 

また、ルノーが優位にある力関係を変えようとしたことが本件の原因だとする見方については、「ルノーは日産の株を43%保持する親会社なのだから、現状の力関係は当然のもの。」「検察を巻き込んで、会社の体制変革を図るのは理にかなっていない」と批判した。郷原氏は、公判の維持が可能だと考えてゴーン氏らの起訴に踏み切ったと見られる検察の姿勢にも違和感を示し、不可解な点が多い本件は「国際問題にも発展しかねない」と疑念を呈した。

(本記事は、Japan In-depthチャンネル 2018年12月12日放送の内容を要約したものです。放送アーカイブはこちら

トップ画像:©Japan In-depth編集部

 


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