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.国際  投稿日:2019/3/2

仏、スポーツ「ヒジャブ」論争過熱


Ulala(ライター・ブロガー)

フランス Ulala の視点」

【まとめ】

・仏で、スポーツ用「ヒジャブ」販売に一部議員ら反対表明。

・仏では「ヒジャブ」=女性差別等の理由で反対意見が多い。

・ヒジャブの禁止ではなく、政府が守るべきは「信教と個人の自由」。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て見ることができません。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=44437でお読み下さい。】

 

フランスのスポーツ用品販売大手デカトロンが、スポーツをするイスラム教徒の女性向けに髪を覆うスポーツ用ヒジャブ(スカーフ)の販売を計画したところ大きな波紋を呼びました。議員が製品のボイコットを呼び掛け、デカトロンに500件を超える抗議の電話やメールなどが殺到した結果、消費者のニーズに合わせた商品であると主張しながらも、従業員に危険が及ぶ可能性があることを懸念し、1月まではフランスでは販売しないと発表したのです。

▲写真 デカトロンの店舗 出典:Wikimedia Commons; Henryk Borawski

現在、イスラム教徒は世界の人口の約4分の1を占めると言われており、その数はさらに増加しつつあります。そんな中、イスラム教徒の女性向けの商品は、H&M、ユニクロ、およびデカトロンの大きな競争相手でもあるナイキが販売を始め、追随したデカトロンもモロッコで既に販売を始めたところ、好調だったためフランスおよびその他の国にも販売を始める予定としていました。

しかし、今回フランスでは大きな反発が起き、複数の政治家からの批判と、暴力的な反応に押され販売を断念せざる負えなくなったのです。

アグネス・ブジン社会問題・保健相はこう述べています。

「法律で禁じられていませんが、私が共有することはない女性像です。 私たちの国の価値観と一致しません。フランスのメーカーがビジャブを販売して欲しくない。」(参考記事:RTL

▲写真 アグネス・ブジン氏(中央)出典:AgnesBuzynTwitter

確かに、ナイキがスポーツ用ビジャブを販売したときも、賛否両論はありましたが、販売を見合わせるまで追い込まれはしませんでした。特に近年はファッション界でもビジャブへのイメージは変わってきており、Instagramでは、#hijabinspiration、#hijabstyle、#hijabfashion、#hijaboftheday、#hijabmodernなどのビジャブに関連したハッシュタグが咲き誇っています。また、カナダ、イギリス、スウェーデン、オーストラリア、オランダ、インド、トルコ、レバノンでは、ビジャブをかぶった現代の若い現代女性向けの出版物があります。しかしながらフランスはそれらの情報誌はほとんどありません。こういうことから見てもフランスは、世界で特に、イスラム教徒の女性の服装に反対をしている国とも言えるのではないでしょうか。

 

■ 仏政府のビジャブに対する3つの主張

なぜフランスはこれほどイスラム女性の服装にかたくななのか?方針を曲げるなくてビジャブに反対する理由は主に3つあります。

 

1. ビジャブ=女性差別

フランスの主流派の価値観では女性の体を隠す、ヒジャブなどの衣類は女性の自由を制限するものであり、公共の場に出る時に、男性が強制的に身に付けさせているものと言う認識が強いのです。外で女性の顔を隠すのは自由愛でなく、男性への服従の印であり差別的である証。その価値観はフランスでは受け入れられないとする人が多く存在します。

デカトロンの意見に賛同し「イスラム教やベールに執念することは、無意識に共和主義を愚弄している」と言った議員に対し、パリ10区の議員、アン-クリスティン・ラン氏twitterでこう述べています。

「それが服従のしるしと言っているのは私たちではありませんよ。 ビジャブの着用をやめるために世界中の何千人もの女性が戦い、亡くなっています。 啓蒙の国から悪い兆候を発信しています。」

▲写真 アン-クリスティン・ラン氏(左から2番目)出典:Anne-Christine Lang Twitter

また、マルレーヌ・シアパ男女平等担当副大臣も同様な発言をしています。

フランスの声は、世界中の女性に待望されているのです。フランスは、世界中の多くの国々で、自分たちの生活の危険にさらされながらベールをかぶっている勇敢な女性たちにどんなメッセージを送りますか?フランスで、家を出る前にスカーフをして身を隠す以外に選択肢がない少女には、どのようなメッセージを伝えられますか。

▲写真 マルレーヌ・シアパ氏(右)出典:Wikimedia Commons; Nattes à chat

このように自由の国では、女性が服従の印として身体を隠すことは受け入れられない事実であり、またスカーフやベールで身体を隠すこと否定してくれる声を待ち望んでいいる女性たちのために、フランスが行動することを使命ととらえ反対を続けているのです。

 

2. ビジャブ=イスラムの法

イスラム教では女子の服装に関してシャリーア(イスラム法)で規定されています。しかしそれだけではなく、信仰上の自由を超え、いくつかの国ではビジャブなどの髪や身体を隠す衣類の着用が国の法律として決められている国もあります。そういった国から来た人達が、フランスの法を無視してビジャブと言うイスラムの法を守ることは許しがたい行為であり、そのことを許せば、いずれ他の法にまでイスラムの影響が浸食し国家を支配することになります。これはフランスと限らず近代国家にはきわめて許し難いこと。そのため、国の規則であるライシテを優先して厳守することを求め、イスラム化を防ごうとしているのです。(編集部注、ライシテ:: laïcitéとは、フランスにおける教会と国家の分離の原則=政教分離原則)

▲写真 World Hijab Day2019 インドネシア 2019年2月28日 出典:twitter World Hijab Day

3. ビジャブ=宗教的標章

フランスには、ライシテと言う基本原則の一つがあり、これは同じ信条を共有していない諸個人を共存させるルールとも言えるものです。

共存するために、「公共空間における,自由な霊的・宗教的な表明と,公共空間の支配とを区別する」と言う項目があり、学校において、宗教を誇示する装飾の一つであると考えられていビジャブの着用を禁じています。そのため、ビジャブとライシテは切り離せない話題のようにも思えますが、今回のデカトロンの場合は個人の生活において着用する種類の話であり、ライシテの総責任者であるニコラス・カデーネ氏によれば、市民の信仰の自由な表現を許しているライシテには抵触しないという見解を示しています。

 

■ ビジャブ=個人の自由意思で着ている衣類

このようにフランスではビジャブを含む女性の体を隠すイスラム教の女性の服装について議論は、主に上記の3つの観点で話が進んいくのです。しかしながら、こういったフランス観点に基づいた議論を聞いていると何か違和感を感じことがあります。それは、攻撃したい国はイスラム信仰者がいる全ての国ではなく一部の話であることに不自然さを感じるからでもありますが、それと同時に、ビジャブを生活習慣の一つとしてや、自分の意志で着ていると言う個人の自由については無視されているからのように思えます。

だいたいビジャブの着用が問題となり、2004年3月に公立学校での宗教的標章の着用を法律で禁止した時ですら、626名のビジャブが違反者とされ、その中の143名はビジャブを取るのを拒否して退学させられました。その状況を受け、彼女たちの教育を受ける権利のはく奪は不当であり、ただの差別ではないのかと国連が批判したぐらいです。海外から見ると、違和感を感じる内容であることには間違いありません。

そして、2016年、複数のフランスの地方自治体が、イスラム教徒の女性が全身を覆う水着「ブルキニ」を禁止に白熱し問題となりました。この時もフランスは、国外から大きな批判の的となりましたが、結果的には、この禁止措置は、行政裁判の最高裁にあたる国務院が「信教と個人の自由という基本的自由を、深刻かつ違法に侵害する」と判断し、凍結を命じられました。

この時期のフランス国内は、あまりにも「女性差別」と「イスラムの法」と「宗教的標章」にこだわり過ぎていたと意見であふれていたことに不安を感じるものがありましたが、論争を通して国務院がきちんと判断したことにより、個人の基本的自由は、フランスでも守られていることを再確認できたとも言えるでしょう。

▲写真 ブルキニを着た女性(イメージ図)出典:Pexels; Engin Akyurt

今回のデカトロンの論争では、多くの政治家が女性差別を掲げ販売の反対をしていますが、世代も交代しつつある現在、「フランスのイスラムとスカーフに対する態度はヒステリック症」だと述べる共和国前進の議員、個人の基本的自由をかかげ主張する人も出てきました。

政治学者のクレメン・ヴィクトロヴィッチ氏はブジン社会問題・保健相の発言はライシテを含むフランス共和国の価値観に対応していないと、主張しています。

「私たちはフランスの共和国であり、市民の基本的権利が保障されている国にいます。これらの基本的権利の1つは、彼が望むように服を着ること、そして彼が望むなら宗教的なシンボルを身につけることのすべての権利です。世俗主義とは何ですか?それは宗教問題における国家の中立性であり、そして市民が彼らが望むように彼らが望むように彼らの良心を表現することの自由である、外部の宗教の徴候によるものである。よって、フランスでのスカーフは合法的であり、キッパの着用も同様に非常に目に見える十字架の着用もそうである」

また、28日付電子版ルプワンにも、「政府はライシテを間違って認識している」「誰もデカトロンがあのような商品を売ることに文句を言う人はいない」 といった意見も出てきており、まだまだ論争は続いていきそうです。

これらの論争を受け、デカトロンは今後、どういった決断をするのか。フランスの方向性にも関わる話であり今後もぜひ注目していきたいところだ。

トップ写真:World Hijab Day 2019のプレスリリース 出典:World Hijab Day


この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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