無料会員募集中
.国際  投稿日:2023/6/13

アメリカはいま――内政と外交・ワシントン最新報告 その16 米中対立は文明の衝突なのか


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・米、国内で中国警察活動摘発。ウイグルで作られた品物も輸入禁止。

・保守派のマルコ・ルビオ上院議員は、米中対立を「文明の対立」と指摘。

・米の対中強硬政策が突然ソフトになることはない。

 

中国研究の大御所のマイケル・ピルズベリー氏が強調したのは、中国を脅威として認識するのならば、その脅威に対しては具体的な措置を取らなければいけないという点でした。

例えば、中国は自分の国の国家安全保障の法律で外国にも警察を置いていいのだという。最近(4月18日)、ニューヨークでその中国警察関連の2人か3人が捕まったというニュースが流れていました。中国の警察がアメリカで活動しているという。当然アメリカとしての対応が必要です。

アメリカでは孔子学院も全面禁止です。ウイグルの強制労働でつくられたような品物は輸入してはいけない。これも日本とかかわりの深い問題です。アメリカでは具体的な対抗策では、そういうところまでいっているのです。

ピルズベリー氏が意見を述べた際、上院議員のマルコ・ルビオという、わりあい知性派の保守派の人物も、中国の問題について論じました。そのルビオ議員の指摘でも、なるほどなと思った点がありました。

▲写真:共和党・マルコ・ルビオ上院議員(2022年3月)出典:Photo by Drew Angerer/Getty Images

なにかというと、アメリカの中国との戦いというのは、いままでは共産主義の一党独裁が相手だから、それに対して闘うのはイデオロギー上の闘争だと思ってきたけれども、ひょっとすると文明の戦いではないか、と彼は指摘したのです。

ルビオ上院議員はCivilizationという言葉を使ったのです。この場合の文明とは何かというと、そこには人種という要素も入ってくるのです。文化が入ってくる。歴史が入ってくる。伝統が入ってくる。社会的な意識というものも、全部入ってくる。

ルビオ議員の言によれば、ソ連との東西冷戦は確かにイデオロギー上の対立であったけれども、向こうも同じ、白人という言葉はあまりよくないが、英語でいうコケイジョンという、同じ人種でした。歴史も文化も政治以外は共通項が多かった。どこかで共通の文明同士の戦いだったいうのです。

ところが中国とは1対1の超大国同士の戦いで、文明の戦いになっているのではないかという。そこまで明確に述べていました。米中対立は政治の対立に留まらず、文明の対立だというのです。

共和党側はバイデン政権の対中政策は生ぬるいといっています。バイデン政権もかなり強固になってきていますが、例えば軍事面での対中抑止は十分ではないような部分もある。

しかし話はややそれますが、日本側ではアメリカのこの中国に対する厳しい姿勢がもしかして変わるのではないかということを述べる人たちが一部にいます。突然、対中融和みたいになって、日本がアメリカの強硬路線にくっついていくと、ある日突然、朝起きたら取り残されたみたいになっている。こういうことを言う人が元駐米大使でもいました。

しかし、そうした突然の変化はちょっと考えられません。いまのアメリカの対中強硬政策がソフトになってしまうというのは、なかなか起きないでしょう。

その理由の1つは、中国側の言動です。自由民主主義とか、法の統治とかとアメリカが掲げている普遍的価値なんていうのは中国をやっつけようとするプロパガンダにすぎない、ということを習近平主席自身がはっきり述べています。アメリカとの対決の覚悟です。

そして中国は現実に軍事力をどんどん強めている。台湾でも、いざというときには攻めるぞというオプションを持ち、誇示さえしている。アメリカとして中国に融和の政策をとることはできません。

それから、もう1つは、アメリカ側の一般世論が中国に対して非常に厳しいことです。コロナウイルスも結局は中国からきたんだ、と中国を非難します。これは日本側の受け止め方とはまったく違うのです。アメリカ一般でも、武漢で発生したウイルスを習近平政権が50日間隠していた。そのために世界中に拡がって、アメリカが一番被害を受けたのだという認識がいまもあるのです。

この点が中国の他の言動で、アメリカ側から見て、けしからんという数々の事例と結びついて、感情的な意味合いもこめてアメリカ社会一般に反中という傾向が広まっているのです。だからアメリカの国政での中国へのいまの厳しい姿勢が突然、ソフトになってしまうという可能性はきわめて低いように思えるのです。

(その17につづく。その1その2その3その4その5その6その7その8その9その10その11その12その13その14その15

**この記事は鉄鋼関連企業の関係者の集い「アイアン・クラブ」(日本橋・茅場町の鉄鋼会館内所在)の総会でこの4月中旬に古森義久氏が「アメリカの内政、対中政策――ワシントン最新報告」というタイトルで講演した内容の紹介です。

トップ写真:人々が行きかう夕方に、米中首脳によるオンライン会談のニュースを伝えるショッピングモールのディスプレイ。両首脳は3時間以上にわたり、貿易、気候変動、台湾などの問題を話し合い、バイデン氏が前年に当選して以来、最長の会談となった(2021年11月16日 中国・北京)出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."