無料会員募集中
.国際  投稿日:2019/12/27

日中首脳会談の失敗


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・日中関係は両首脳の発言ほどの実質的な進展はない。

・日中首脳会談で安倍首相は中国の不当、不正な行動に言及。

・習主席は年来の敵性のある一連の政策に変更の予定はなし。

 

今回の日中首脳会談はその目的が日中両国の友好や融和をうたうことだったとすれば、失敗に終わったといえそうだ。安倍晋三首相の当初の意図とは反対に、日中間にいかに深刻な対立案件が存在するかを印象づけてしまったからだ。

しかも習近平主席からはその対立案件を緩和するような言質はなにも出てこなかった。中国が実質としては年来の敵性含みの対日政策を変えていないことが証されたともいえる。

安倍晋三首相と習近平国家主席による日中首脳会談は12月23日、北京で開かれた。両国政府の発表によると、この会談では習主席が「新時代にふさわしい中日関係を構築し、新しい未来を切り開いていく」と語った。安倍首相も「日中関係を新たな段階に次なる高みに引き上げる」と述べたという。

この両首脳の発言で顕著なのは日中関係がいまや「新しい」時代や段階にあるという表現だった。その表現には日中関係をこれから新しい段階に引き上げていくという希望だけではなく、その関係がいまでもすでに新時代に入ったとする現状認識がにじんでいた。

ところが現実には日中関係が従来と変わった点は政策面ではなにもないといえる。両国の首脳が顔を合わせ、いかにも関係の実質が変わったかのように語りあうだけだったのだ。両首脳は「新しい時代」とか「新しい段階」という言葉を使うが、この時点で新しい要素はなにもない。であるのに、そんな要素があたかも実在するかのように語る。「新時代ごっこ」なのである。

中国側の日本に対する態度は表面だけでは豹変した。だが日本に対する政策はなにも変わっていない。だから日中関係は決して新時代ではないのである。

安倍首相は今回の首脳会談で習近平主席に尖閣諸島への中国艦艇の侵入や、中国領内での日本人の逮捕について提起したという。東シナ海での中国の一方的なガス田開発についても抗議に近い言及をしたともいう。さらに安倍首相は香港やウイグルでの中国当局の人権弾圧についても批判的に提起したとされる。

中国側の不当、不正な行動に批判的な言及をしておかないと、日本国民の多くが習近平主席の国賓としての来日に反対を強めるだろう、という安倍首相の配慮からの問題提起だったのだろう。だがこの提起はいまの日中関係にはこれだけの断層や対立の案件が存在することの証明となってしまった。日本側からみて、さらには国際的にみても、いまの中国には人権弾圧や領土奪取の糾弾されるべき行動が絶えないということである。

日本側が中国当局のこうした不当、不正な動きを首脳レベルで提起することには意味があるだろう。なにしろ首脳同士では初めてのこの種の批判的な提起だからだ。

▲写真 会談の様子 出典:首相官邸HP

 

だがその一方、この一連の案件は中国側の不当な言動として、すでに長い期間、国際的にも、日本の国内でも、よく知られてきた事実である。いくら首脳レベルでの表明とはいえ、「なにをいまさら」とか「遅きに失する」という感じが否めない。要するにその諸問題自体も、その問題への言及も、なんの新しい要素はないのである。

さらに重要なのは今回の安倍首相の問題提起に対して習主席からはなんの前向きな反応もなかったことである。日本側が抗議しても、その抗議に応じて、現状を変えるというような態度は皆無なのだ。日本に対する年来の敵性のある一連の政策はなにも変えてはいないのである。

その政策を改めて具体的にあげてみると、まず尖閣諸島への軍事的な侵入、そして軍事手段を使ってでも尖閣諸島を奪取するという意図の表明、東シナ海の日本側の排他的経済水域での一方的なガス田開発作業、日本人の学者やビジネスマンの不透明な逮捕、拘束、さらには日本企業への差別的な扱い、年来の中国国民への反日教育などである。

中国が日本の安全保障政策に反対し、日米同盟自体にもその根幹で反発していることも年来、変わりはない。日本の首相が戦争で犠牲になった同胞の霊を悼むために靖国神社に参拝することにも露骨な抗議をぶつける中国の反日姿勢にも変化はない。

ではなにがいまのような日中首脳の顔合わせを実現させたかといえば、その理由はきわめて明白である。アメリカに全面攻勢を受け、日本をいくらかでも自陣営に引きつけて、対米闘争を有利にしようという計算である。日米を離反させようという企図でもある。だから中国のいまの対日姿勢は表面だけの微笑外交、みせかけの友好攻勢なのだ。

そんな現実のなかでの習主席の国賓としての来日が日本にとってどんなプラスの効果があるのだろうか。

トップ写真:日中韓サミットでの安倍主張と習近平国家主席の会談 出典:首相官邸HP


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."