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.国際  投稿日:2019/5/1

露朝首脳会談愛なき偽装結婚


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2019 #18」

2019年4月29日-5月5日

【まとめ】

・米国が本命のロシア・北朝鮮の首脳会談は打算的。

・日米の頻繁な交流が今後も続くとは限らない。

・米国の関心事は対中政策にシフトしている。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=45568でお読みください。】

 

普通なら、「今週は平成最後の外交・安保カレンダーとなる」なんて書くべきなのか?されば、「来週は令和初の外交・安保カレンダー」と言うべきなのか?確かに新しい時代の始まりはお目出度いが、日本の元号が変わっても国際情勢は変わらない。今週以降も、これまで通り、時々の重要国際問題について淡々と論評していこう。

先週も国際報道は盛り沢山だったが、筆者が最も関心を持ったニュースはスペイン総選挙とサンディエゴ郊外のシナゴーグでの対ユダヤ教徒銃乱射事件だった。一見無関係の両者は、以下に述べる通り、筆者の頭の中では宗教的理由による人種差別、大量殺人という「同一現象の氷山の一角」にすぎないと思うからだ。

続いての関心事項は、ウラジオストクでの露朝首脳会談、北京での「一帯一路」国際会議とワシントンでの日米首脳会談という一連の首脳会談だ。東アジア関連の首脳会談が続いたのは決して偶然ではない。先週末はこれらの関連でテレビ出演が続いたが、言い尽くせなかったことも少なくなかった。以下改めてコメントしてみよう。

まずは露朝首脳会談だが、ある番組では「愛情のない偽装結婚」、他の番組では「愛情のない打算の初デート」とコメントした。露朝両国とも本命は米国だからだ。自国に対する経済制裁を解除してもらいたいのだが、米国は振り向いてもくれない。だから打算のデートをするのだが、露朝ともお互いの窮状を解決できる実力はない。

▲写真 露朝首脳会談時の金委員長 出典:ロシア大統領府

そんな首脳会談が成功する訳はない。露大統領は北京での一帯一路国際会合に行く途中だし、北朝鮮の委員長も大した成果はなかったらしく日程を切り上げて帰国した。それでもこの初デート、本命米国を含む関係者に対するインパクトはある程度あったから、デートしたこと自体で目的は達成したのではなかろうか。

続いて日米首脳会談だが、3カ月に3回の日米首脳会談、1カ月に2回の米大統領訪日というスケジュールは文字通り史上初ではないか。外務省入省以来、日米首脳会談といえば、すべてに優先する重大外交案件だったが、これがこうも頻繁に開かれるようになるとは誰が予想しただろう。

日米首脳の個人的関係の強固さ、直前に開かれた日米2+2会合で確認された同盟関係の深化ある程度制御可能な貿易交渉など、一昔前の日米関係を知る者にとっては隔世の感がある。しかし、こうした関係が今後も長く続くと思ってはならない。これは様々な要因と偶然が重なった例外的な現象と見た方が良いだろう。

▲写真 日米首脳会談2019年 出典:首相官邸

そうは言っても、やはり冷戦終了後の米国の対外関心事項が、ソ連封じ込めから、中東湾岸紛争・テロとの戦いを経て、現在徐々に対中政策にシフトしていることだけは間違いなかろう。過去20年間、米国が中東で「油を売っている」間に、中国はその勢力圏を大幅に拡大することに成功したが、今後はそうもいかなくなるのか。

 

〇 アジア

先週の北京での「一帯一路」会議後中国国家主席は記者会見で「オープンでクリーンかつグリーンな開発を支持し、保護貿易主義を拒絶する」「一帯一路構想事業は環境に配慮し、持続可能な財政計画の下で行われる」「今年はより多くの友好国やパートナーが一帯一路構想に加わるというメッセージが明確に示された」と述べたそうだ。

今回の新参加国はアフリカの赤道ギニア、リベリア、欧州のルクセンブルク、イタリア、キプロス、中南米のジャマイカ、ペルー、バルバドス、中東のイエメンの9か国だったという。確かにイタリアの存在は大きいが、それ以外は比較的小国だった。中国にはお付合いせざるを得ないということなのだろうか。

▲写真 習近平主席 2014年 出典:Flickr;Republic of Korea

 

〇 欧州・ロシア

4月28日、スペイン総選挙が投開票され、現首相率いる中道左派の与党・社会労働党が350議席中123議席獲得で第1党となったものの、中道右派国民党は半減の66議席で大敗、移民受け入れ反対などを掲げる極右政党VOX24議席を獲得したと伝えられた。このVOXの躍進が曲者なのである。

こうした動きはハンガリーやポーランドなど東欧諸国で政権を握った「ダークサイド」現象がオーストリアやイタリアを経て、遂にスペインにも波及した可能性を示している。筆者は「スペインよ、お前もか」というより、遂に西欧の脆弱な部分にまで極右政党が台頭してきたのかという危機感を抱くのだが、心配し過ぎだろうか。

最近は「欧州におけるナショナリズム、ポピュリズムはピークを過ぎ、今は制御可能だ」といった論調もあるが、筆者は懐疑的。東欧はある程度仕方がないし、西欧の比較的安定した諸国で極右政党が台頭しても制御可能だろう。だがスペイン、イタリア、ギリシャなどでは経済情勢が悪化すれば制御不能になることを筆者は懸念するのだ。

 

〇 中東

今週5月5日からイスラム教のラマダン月が始まる。いわゆる断食月だがずっと飲まず食わずではない。毎日、日の出から日没まで、例えば朝5時半前後から夕方の5時前後までの断食だ。健康に良さそうだが、前後に大量の食事をとることが多く、かえって不健康という指摘もない訳ではない。あまり大きなニュースがないことを祈ろう。

 

〇 南北アメリカ

サンディエゴ近郊に限らず、ユダヤ教のシナゴーグ(礼拝堂)に対する襲撃がこのところ米国で頻発しているのは、単なる反ユダヤ主義ではなく、より一般的、世界的に宗教的差別主義テロが蔓延する前兆かもしれぬ。こうした事件はニュージーランドで起き、スリランカでも起きた。今後も多くの脆弱なターゲットが狙われるだろう。

 

〇 インド亜大陸

インドは今も下院総選挙の真っ最中。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:露朝首脳会談 出典:ロシア大統領府


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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