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.国際  投稿日:2019/3/30

「黄色いベスト運動」の人々(上)


Ulala(ライター・ブロガー)

フランス Ulala の視点」

【まとめ】

・収束に向かうかと思われたベスト運動は過激さ増して再炎上。

・デモに便乗する「ブラック・ブロック」なる超過激破壊集団出現。

・黄色いベスト運動のリーダーの1人ドルーエ氏は冷静かつ誠実。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全部表示されないことがあります。その場合、Japan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=44933でお読みください。】

 

フランスの黄色いベスト運動は、2018年11月17日に始まってから活動は4カ月を超えた。しかし未だに終息する様子がない。

黄色いベスト運動がカオス化した12月は、パリではシャンゼリゼ通りを中心に破壊行為が行われるなど大きな被害が起き、マクロン大統領は国民がどんなことを不満に思っているのかを知るためにフランス国中を巻き込んで「国民討論会」を行うと決めた。各地で集会が開かれ、意見を集める投票箱が置かれ、大統領自身も各地で行われた討論会に10回出席して市民と直接意見を交わしてきた。大統領が出席した討論会の中には8時間10分に及んだものもあったという。なんと終わったのは翌日の午前2時半だったそうだ。大統領のこういった積極的な活動はある程度の支持を受け、支持率は昨年12月から8ポイント上昇し、有権者の31%が肯定的な見方を示したのだ。

また、同時に毎週土曜日に集まる黄色いベスト運動に参加する人数も徐々に減り始めた。酷い被害も出すこともなく、この大討論会が、黄色いベスト運動でもたらされた最悪の危機を切り抜ける一助となったように見えたのは間違いないだろう。しかしながら、それは考えが甘かったようだ。

黄色いベスト運動のデモ第18回目に当たる2019年3月16日、街の中心シャンゼリゼ通りに火が放たれた。高級品を扱う資本主義のシンボルが狙い撃ちされ、ファッション、ハンドバッグ店、ニューススタンド、シャンゼリゼ大通りの老舗カフェとして知られる「フーケッツ」が破壊・略奪され、銀行も火に包まれた。火の付けられた建物に住む母親は子供と共に閉じ込められ煙と炎にまかれ助けを求め、凱旋門近くではデモ鎮圧部隊とデモ隊とが衝突した。

▲写真 火をつけられる前のフーケッツ 出典:Wikimedia Commons; Erwmat

「フーケッツ」は、名画「凱旋門」の舞台になったことで知られ、凱旋門や地下鉄の駅にも近く、週末は観光客に交じってパリジャンらが立ち寄る人気カフェ兼レストランだ。建物の一部は超高級ホテルでもある。このフランスを代表とするカフェが暴徒に荒らされたことで、多くのフランス国民をはじめとし、海外でも多くのフランスファンを悲しませた。しかも、この日はまったく富を感じさせることはない街角のニューススタンドまでが燃やされ、フランス人の黄色いベストデモに対する怒りと憤りを膨らませたのだ。

ニューススタンドの店主はそれでもラッキーだったと言う。なぜならその時間は通常ならば売り上げの清算をしている時間帯なのだ。デモ隊などの集団が来たことを受け一時避難したため、中に人が居るかも確認しないで火を放たれたスタンド内にはおらず、命だけは救われた。店主は次の日は、乗用車にその日の新聞を積んで焼け落ちたスタンドの横で新聞を売り続けた。「これを売っても今日は10ユーロぐらいにしかならないだろう。それでも収入がまったくないよりはましだから…」と。

フランス内務省はこの日、フランス全土でおよそ32,300人が集まり、首都パリではおよそ10,000人が参加したと発表。しかしながらその中には1,500人の「超過激破壊者」が居たという。この超過激破壊者は、「ブラック・ブロック」と呼ばれている。高級店やフーケッツの破壊や、ニューススタンドに火を放っている動画を見れば、そこには、上から下まで黒装束で、黒い覆面で身を固めた集団が先頭を切って行っていることが見て取れるだろう。この集団こそがまさしく「ブラック・ブロック」なのだ。

▲写真 ブラック・ブロック(2009年ワシントンDCにて)出典:Wikimedia Commons; Ben Schumin

黄色いベストを来てカモフラージュをしているが、その下は黒い服であり顔には黒いマスクをし、手には金づちを持っている人までいる。そして躊躇せず、目の間にある物を手当たり次第に破壊していく。黄色いベストが訴える内容に同調していると言うよりも、完全なる破壊専門者としか言いようがない。反政府集団者とも言われている「ブラック・ブロック」だか、実は何者なの、何が目的なのかよくわかっていない。身元を特定しようにも、顔を覆っているため顔認証もできない。特定のグループが入り込み意図的に行っている可能性もあるが、個人が各人別々に行っているとも言われている。

マクロン大統領は、デモ直後のTwitterで、「今日シャンゼリゼで起こったことはデモではない。共和国を破壊し殺そうとしている者たちだ。そこに居た全員が共犯者と言える」と、黄色いベスト運動で人が集まればこういうことになることがわかっているのにデモを続ける黄色いベストの活動者たちにも責任の一旦があるとした。

▲写真 マクロン大統領 出典:ロシア大統領府

この日の破壊されたパリの惨状を重く見たフランス政府は、シャンゼリゼ大通りなどでのデモを禁止し、各地点で厳重に参加者の持ち物検査を行い、さらに、「非許可」のデモに参加した場合の罰金を、38ユーロ(1ユーロ=約125円)から約4倍の135ユーロに引き上げると発表することとなった。

23日のデモには、デモ活動者は厳しくチェックされ、高級店は軍隊が出動され警備されることとなり、遠くからテレビを見ながら見守る視聴者たちは、黄色いベストたちのせいで町が破壊されることがないよう守る勇ましい精鋭たちにエールを送ったのだ。

しかしながら、黄色いベスト運動のデモ隊は、こういった暴力行為を非難している側であると主張する。それどころか現在でも人気が続いている黄色いベスト運動の何人かのリーダーたちは、黄色いベスト運動は、政府をくつがえそうとしているデモという報道内容すら否定しており、真実を報道しない大手のメディアは見ないでくれとまで言っているリーダーも居る。

確かに完全なる反マクロン派の黄色いベストのリーダーも居ないわけではない。Facebookで動画などを流し、2018年12月上旬に気に174,000人以上の購読者を集めマキシム・ニコルはその一人だ。しかし、彼が伝える情報には、誤った認識や情報、未確認の噂などが多く、疑問視する人も多くなってきているせいか、最近では動画の視聴者数はそこまで急激には伸びないようだ。

このように黄色いベストには勢いで急激に名前を有名にした複数のリーダーが存在はしているが、全員が多くの支持を得られているわけでもないのも事実である。反対に、活動が始まって4カ月が経っても、多くの視聴者を集め続けているリーダーも、もちろん存在する。黄色いベスト運動で一番有名なリーダー、エリック・ドルーエ(Éric Drouet)氏もその一人だ。

 

■ 黄色いベスト運動の原点を作ったエリック・ドルーエ

トラックの運転手だったドルーエ氏は、2018年10月に友人と燃料税の増加に抗議するためにパリの環状線に運転手が集まり訴えることを決めた。実はこの呼びかけが黄色いベスト運動の始まりになったのである。純粋にフルタイムのトラック運転手として、燃料税高騰に反対する気持ちから始まったのだ。

▲写真 エリック・ドルーエ(右)出典:@drouet eric

その時作ったFacebookグループ「la france en colere !!! la france en colere !!!」への登録者数は、31万人であり、現在もグループの一人として活動している。

個人名が入ってるFacebookグループ「Gilets jaunes officiel d’Éric drouet」にも6万5千人以上がメンバーに登録されている。

毎回、黄色いベストデモが終わると、本業のトラック運送の仕事をしながら結果を動画で報告する。その口調は常に落ち着きを払っており、言っている言葉は誠実だ。

ドルーエ氏自体は、デモ時に暴徒が起こす暴力には反対している。それは兼ねてから言っていることでもあり、現在でも言い続けている。しかし、大手のメディアの報道を見て、黄色いベストたちに対してよいイメージを持っていない人々は、ドルーエ氏に容赦なく、中傷の手紙どころか自宅にまで襲いかかる。3月16日に起きたパリ市内の破壊に対して不満を持ったフランス人は確かに多かった。そのため、責任が彼にあるとばかりに19日には夜中の3時にドエール氏の自宅にまで行き、車に黄色いペンキをぶちまけた者もいる。

しかし、そんな時でもドルーエ氏は冷静だ。逃げ走る加害者に対して

「そんなことするよりも、他にすることがあるだろう。」と、声をかけたと、インタビューにも怒りの感情も見せることなく状況を語る。

3月23日は、許可されていない場所でデモを行ったリーダーとして値上げされた135ユーロの罰金を早速言い渡されたが、それを不服としてサインはしなかったそうだ。時折鋭い視線を走らせながら、そのようなデモの報告をしつつ、純粋に人々の生活の状況がよくなることを願っている姿に心を動かされる者も多い。

ドルーエ氏の姿勢を特に絶賛しているのは、国民議会議員ジャン=リュック・メランション氏だ。

▲写真 ジャン=リュック・メランション氏 出典:Flickr; Cancillería del Ecuador

「労働活動に精通している私には、ドルーエ氏が本当に素晴らしいことがわかります。重いプレッシャーがかかる中でも、彼は完全なる冷静さを見せている。あらゆる点で慎重にポリシーを貫き、やらなければいけないときにはやり抜く男であり、とてもフランス人らしいと感じています。」

しかしながら、彼がFacebookに書くメッセージ、多数の綴りの間違いがあり、それらが批判されたり嘲笑の的にされることも多い。実は、これこそが労働階級が政治の世界から排除されてきた理由であり、労働階級の意見が無きものにされてきた現実そのものであるとも言われている。崇高な精神や働きをしていても、エリートの基準にあわなければ無視され、排除され、不平等で不幸な状況に陥っている状況を伝える術もない。そのまま置き去りにされているのだ。

ドル―エ氏は言う。「デモを18回やっても、政府からは回答は0件だ。要求はシンプルなのだ。別に政権をくつがえしたいわけではない。今フランスに起こっている現実に、政府を巻き込みたい。多くの決定が一般のフランス人の意思に関係なく決定されている。そういった重要な決定に対して発言権が必要だと思っている。メディアが言っていることを信じないで欲しい。黄色いベストは決して政権をくつがえしたいわけではないのだ。」

に続く。全2回)

トップ写真:黄色いベスト運動(2019年)出典:Flickr; Christophe LEUNG


この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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