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.国際  投稿日:2019/3/30

「黄色いベスト運動」の人々(下)


Ulala(ライター・ブロガー)

フランス Ulala の視点」

【まとめ】

・長期化するデモは暴力行為を発生させている。

・ベスト運動参加が求めるのは、格差をなくす社会システムの再構築。

・困窮している人々の思いや希望は立法者たちに届かない。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全部表示されないことがあります。その場合、Japan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=44944でお読みください。】

 

■ 片目負傷し黄色いベスト運動のシンボルになったジェローム・ロドリゲス

黄色いベスト運動には、Facebookは大きな役割を占めており、ジェローム・ロドリゲス(Jérôme Rodrigues)氏(39歳)も、次々と黄色いベスト運動のデモの様子をアップして頭角を現したリーダーの一人だ。

特別にグループには属しておらず、黄色のベストを「家族」と呼び、全員が仲間だとしている。ロドリゲス氏は、頻繁にデモ活動中にFacebookに投稿し、ライブ映像も多く、視聴者も多い。例えば怪我する直前にパリで撮られた彼のビデオの1つは、248万回以上見られている。

▲写真 ジェローム・ロドリゲス氏(左)出典: Jérôme Rodrigues Facebook

ロドリゲス氏をさらに有名にしたのは、LBD(防御用ボール発射装置)で発射されたゴム弾により負傷したことだ。1月26日のデモ時に暴力行為など行っていない状況でLBDが使用され、その球を受け倒れ、右目の視力を無くした。LBDの使用は、以前から危険性が訴えられており、今回のデモでも使用禁止の声があがっている装置でもある。LBDでの負傷後はシンボルだった帽子とひげに、さらに透明なゴーグルもプラスされ、現在は黄色いベストの顔とも言われる存在となった。

今回の黄色いベストのデモでは、ロドリゲス氏のように警察との衝突で目を失ったケースが13件、手を失ったケースが4件起きており、こういった市民への暴力は許しがたく、まったく敬意に欠ける行為だとロドリゲス氏は訴える。黄色いベストが暴力を呼び寄せてるのではなく、なんの回答もしないでデモを長期化させている政府が暴力行為を起こさせているのだと主張する。

▲写真 黄色いベスト運動(2019年)出典:Flickr; Christophe LEUNG

ロドリゲス氏は、大きなおもちゃ屋さんのマネージャー職を退職後、一時期ホームレスにもなっており、フランスの光と影を経験した人物だとも言える。「フランス系フランス人」の母親とポルトガル人の父親として、彼は二重政治文化で育ち、「私はいつも互いを尊重して育ってきた」と言う。人種を超えて尊重しあい団結することを説き、小さな会社の社長も含め労働者たちや全ての人が貧困に困らない社会を望んでいると説き、大きい会社の社員だけが国鉄SNCFのチケットの割引などの特典を得られるのは平等ではない、全ての人々が平等に恩恵を得れるようになるべきであると説く。

前記のドルーエ氏とは友人であり、よく同じイベントに顔をだす。もちろん黄色いベスト運動での暴力行為に対して非難しており、ブラック・ブロックから襲撃を受けてたこともあると言う。マクロン大統領が同じ年であり生まれた時はみんな同じだったはずなのに、現在では全く違う生活をしていることを強調し、マクロン大統領が裕福な人々以外に敬意を欠くような政策をしないようにプレッシャーをかけることが必要だとデモを呼びかける。

ロドリゲス氏は言う。「我々が必要なのは尊重だ。我々は一致団結し政府に訴えるべきことは、この40年ほど忘れられている言葉“友愛Fraternité”なのだ。」

 

■ 黄色いベストに一番人気がある弁護士フランソワ・ブーロ

黄色いベスト運動の中で、その頭脳明晰さが他の人とは一線を画しているのが、弁護士のフランソワ・ブーロ(François Boulo)氏(32歳)だ。

現在、ルーアンの黄色いベストの窓口になっている。弁護士生活7年の実績があり、収入クラスとしても上階層に位置しているが、11月17日にロータリーで集まっている黄色いベストたちと話して、世界が変わった。ロータリーに集まる人たちが語る彼らの貧困に打ちひしがれている生活は、悲惨そのものだ。仕事がない。仕事があっても月の真ん中には冷蔵庫が空になる。そしてその生活から脱出する術もなく、いつも孤独の中で耐えて来た。そんな中、重い税金が彼らの肩にのしかかる。公共サービスは崩壊している。職安に行こうと思っても小さな村には存在しない。隣町にまでいってようやく職安や郵便局がある程度。その唯一の移動手段である車に、さらに税金の負担が増やすという不公平さ

▲写真 フランソワ・ブーロ氏 出典:François Boulo Facebook

最初はルーアンの弁護士会との橋渡しをするために力になれればぐらいに思っていたが、いつしか共に活動を行うようになったのだ。その頭脳明晰さで語る内容もかなり理路整然としており、早口でまくたてる話はその詰め込まれている内容の量も多く、聞いているだけでも圧倒される。

ブーロ氏は言う。「税金のかけられ方が不平等なのです。かけるべき人には税金が十分にかけられおらず、公共サービスの恩恵も十分に受けられない人たちに、公共サービスが十分に受けられる人たちと同様な税金がかけられている。富裕税は富を持つ人がいなくなるという問題点を張らんていることについてもいろいろ知識を集めているところですが、そういった問題があることも踏まえ、もっと平等に税率をかけることが大切なのです。」

「確かに、現在の黄色いベストへの支持率は55%だが、始まった当初は75%が黄色いベストを支持していた。暴徒が現れ破壊行為がなかったら、この数字は下がることはなかったはずだ。そして暴力行為に対しては私自身も反対だし、反対する人は支持をしなくなったが、暴力行為が収まればまた支持率があがるはずです。」

「いったい誰が国民討論会なんかして欲しいといったのですか。5人に一人が参加したって?そんなものは、マクロンに投票するような社会的に地位が高い人だけが参加しただけだ。黄色いベストに参加している人々の意見は収集されていない。我々の要求はとてもシンプルなんだ。格差を無くせ。人々が貧困にあえぐことのない社会システムに再構築しろ。そのためにも、国が法律を決める時に意見を言う道筋を作れ。4カ月続いた運動だが、そのことに回答が得られていない以上、これから4カ月後ももっと続くでしょう。第一あまり天候のいい時期に始めなかったがあれだけ人が集まったのです。これからもっと天気がよくなればもっと人は外に出てくるでしょう。」とブーロ氏は主張する。

ブーロ氏がこれからも黄色いベスト運動が続くと言うのは、あながち希望的観測ではないかもしれない。なぜなら黄色いベスト運動に参加する人たちの思いは、ブラックブロックのように便乗している破壊者や、その他の活動家、そしてメディアの思惑などのいろいろな雑音に消されてしまい、まだ何も届いていないように見えるからだ。

困窮している人々がいるにもかかわらず手を貸すこともなく、困窮しているからなんとかして欲しいと立ち上がってもなぜそんなに怒っているのかわからないと言う人々に、黄色いベストたちは憤りを感じている。今まで苦しい生活を送っているにもかかわらず、誰にも相手にされず、救いの手もない状況で孤独に耐えてきた。しかし、現在はみんなで励まし合う環境もでき、変えるべき状況を訴えていく活動を協力してできるようになった。理解してもらい、何らかの解決策が生まれない限り辞める理由が見つからない。

すでに、3月30日はボルドー、4月13日はトゥルーズ、4月20日はパリで集まることが決まっているという。黄色いベスト運動は、彼らが納得いく回答が得られるまで続いていく。そして現状では終息されることはなさそうだ。

の続き。全2回)

トップ写真:黄色いベスト運動(2019年)出典:Wikimedia Commons; Norbu Gyachung


この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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