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.国際  投稿日:2019/2/2

ゴーン問題で仏経済格差浮彫り


Ulala(ライター・ブロガー)

フランス Ulala の視点」

【まとめ】

・ゴーン問題は仏国民の政府への不信感を増幅させた。

・「富裕層のタックスヘイブンへの税金逃れ」違法でないことが一番の問題点。

・日本では「武富士事件」を受け、租税回避防止のため厳格な法整備が行われた。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て見ることができません。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=43875でお読み下さい。】

 

フランスのルメール経済財務相は1月27日、仏自動車大手ルノーの会長兼最高経営責任者(CEO)を辞任したカルロス・ゴーン被告について、退任に伴う高額な手当や報酬は認められないとの考えを示しました。また「法外な額になれば、誰の理解も得られないだろう」とも述べています。この発言は、現在活発な活動が行われている黄色いベスト運動に表される、格差に不満を持つ国民感情に配慮するためであることは間違いありません

ゴーン氏がオランダに税拠点を置いていたことについて、フランスの国民の多くが不信感を抱きました。しかも、ルメール氏がゴーン氏の逮捕当初、「納税状況に不正な点は見当たらない」と言ったこともあり、国民をだましていたのではないかと政府非難にもつながっています。さらに、昨年の12月10日に、「フランスの会社のリーダーはフランスで税金を払わなければならない」とエマニュエル・マクロン大統領が発言してるのに、なぜ実現されていないのかと非難は高まるばかり。

▲写真 デモに参加する黄色いベスト着用者。胸には「Révolte(革命)」のシール 出典:Frickr; Christophe LEUNG

「個人の資産をどうしようと勝手ではないか」

「裕福であることが罪なのか」

と言う声ももちろんあります。しかしながら、この過去30年間で、最も裕福なフランス人の10%の収入が6%増加し、最も貧しい50%の収入が8%減少したと言う報告もあり格差問題は、深刻化しています。

収入も少なく、生活にも困窮する状態なのに、さらに燃料税を上げて搾り取ろうとしていた。そんな中、富裕税を払ったとしても生活に困窮しない十分な金額が手に入る富裕層、しかも国民の人口の1%しか得られない高収入を得ている国の大企業のトップが最終的には社会にも還元される税金を逃れようとする行為は、フランス革命を経て、市民が国家のオーナーとなったフランスで受け入れられるはずがありません。

ベルギー人で欧州議会の議員でもあるフィリップ・ランベール氏が、フランスのメディアFranceInfoにて、オランダはタックスヘイブンであることが知られていることを語り、さらにゴーン氏に対してもこうコメントしていました。

「すべてが合法的なのかもしれませんが、しかしどうでしょうか、今多くの市民たちがますますレモンのように絞りられているこの時期に、路上でデモしている男性や女性が聞くに堪えられる内容でしょうか。

▲写真 フィリップ・ランベール議員(2014)出典:Frickr; stanjourdan

ランベール氏もこいった行為は合法であると触れていますが、実は、海外飛び回る富裕層がいくら税拠点を海外に移しても、現時点では違法ではないことが一番の問題点なのです。

ここで思い出されるのは、日本で起きた「武富士事件」。この事件は、贈与税を回避するために、生活の本拠(住んでいる場所)を日本から香港に移したうえで、消費者金融の会社の元会長が、そのご子息に対して所有していたオランダ法人の株式を生前贈与した結果、日本での約1300億円の贈与税を免れた事件です。

この件でもオランダに作られたペーパカンパニーは重要な役割を発揮し、裁判長としてはやりきれない気持ちがありながらも、納税者の租税回避を容認せざるを得なかった事件となりました。

「一般的な法感情の観点から結論だけをみる限りでは,違和感も生じないではない。しかし,そうであるからといって,個別否認規定がないにもかかわらず,この租税回避スキームを否認することには,やはり大きな困難を覚えざるを得ない

裁判所としては,立法の領域にまで踏み込むことはできない。後年の新たな立法を遡及して適用して不利な義務を課すことも許されない。結局,租税法律主義という憲法上の要請の下,法廷意見の結論は,一般的な法感情の観点からは少なからざる違和感も生じないではないけれども,やむを得ないところである。」(引用:我が国における租税回避否認の議論

この時代の法律では、違法とすることはできなかったのです。これを受け日本ではその後、法整備が行われてます。平成12年4月1日以降、日本国籍を有する者同士の間で国外財産を贈与した場合に、贈与税が課税されないようにするには贈与者、受贈者ともに5年超国外に住所を移している必要となりました。そして、さらに平成29年度税制改正では、5年超から10年超へと厳格化されました。

まさに、フランスにおいても、ルメール氏が最初の時点でゴーン氏の税務状況に対し「問題は見つからなかった」と言うしかなかったのも、それを罪とする法律もフランスになかったからではないでしょうか。

そういった事情のもと、27日の同インタビューではルメール氏は「フランスに本社を置く大企業経営者が、フランスに納税するよう義務づける」発表しました。今後どのように実現するかなどの詳細は語られていませんが、租税に関しては各国との協定などもありますので、義務化が実現するまでには多少の時間もかかるとも予想されています。

ゴーン氏を取り巻く今回の事件は、富裕層と労働層の格差問題、グローバル化に対する法規制の不十分さなど、現在まさに問題視されている多様な要素が含まれています。事件が解明されていくと共に今まで想像もしていなかった事実も白昼にさらされ、時代の変化に対する即急な対応の必要性が浮き彫りになったと言えるかもしれません。

▲写真 プーチン大統領と面会をしているゴーン氏(2010)出典:ロシア大統領府

ルメール氏の発言でひと段落をつくことができたフランス政府。ようやくルノーの利益を守りながらも日産との関係を維持する最良の方法の模索に注力できると言うところでしょう。ルノーもジャンドミニク・スナール氏を会長とする新体制を決定し、ゴーン氏に対してもマクロン大統領が勾留状況に懸念示すと言う言葉を持って敬意をしめした形でルノーからの退場を締めくくりました。ルノーと日産の体制再確立もここからが本番です。

トップ画像:インタビューを受けるブリュノ・ル・メール経済財務相(2017)出典:Frickr; APCMA France


この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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