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.国際  投稿日:2019/4/1

日米柔道交流に新たな風吹く


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

【まとめ】

2010年から「柔道教育ソリダリティー」が米での柔道指導開始。

・川上氏の技術と指導は柔道ファンにさらなる刺激を与えた。

・日本柔道を通じて、多種多彩な交流が広がる。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全部表示されないことがあります。その場合、Japan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=44980でお読みください。】

 

桜が開花する春のアメリカの首都ワシントンに日本の柔道使節が訪れ、国際的な肉体言語とも呼べる実技を通じて両国間の多様なレベルでの交流を深めた。もうここ10年ほども恒例となっていた日本の国際柔道普及組織柔道教育ソリダリティー」(山下泰裕理事長)派遣の指導者がワシントン地区を訪れ、海軍士官学校柔道部などで連日の練習を続けたのだ。

今回の指導者は81㌔級の強豪として全日本や国際大会で数々のメダルを獲得した国学院大学柔道部コーチ、川上智弘四段だった。川上コーチは3月中旬から3週間ほどワシントン地区に滞在した。

▲写真 ジョージタウン大学ワシントン柔道クラブでの川上智弘コーチの指導、練習の光景 出典:筆者

川上コーチはまずワシントン郊外のメリーランド州アナポリスにあるアメリカ海軍士官学校の柔道クラブを訪れた。最初に20人ほどの米人男女学生らに基本の構えや動きを示し、多彩な足技を解説していった。同校は日本の防衛大学にも似た4年制で、卒業生はみな海軍か海兵隊の将校となる。全米各地から学業成績のよい若者が集まり、全校で4500人ほどが在籍している。

日本からは世界制覇の井上康生氏が2010年11月に海軍士官学校を訪れ、柔道クラブの指導をしたことを契機に、「柔道教育ソリダリティー」からほぼ毎年、一線級の柔道家たちが3週間ほど送りこまれるようになった。2011年春以降は日本の東日本大震災の復興に尽力したアメリカ海軍のトモダチ作戦」に感謝するという意味をこめての柔道の指導と交流になった。

▲写真 井上康生氏(青)2008年 出典:Flickr; vasse nicolas,antoine

これまで海軍士官学校で指導にあたったのは日本でも世界でも立派な戦績を残した塚田真希、田知本愛、大川康隆、片渕一真、熊代佑輔、藤井岳、奥村達郎という男女各選手だった。今回の川上氏も国際大会優勝経験のあるまだ現役の選手だが、派遣元の「柔道教育ソリダリティー」が今年3月いっぱいで発展解消となったため、同組織からのアメリカ派遣としては最後となる。

川上コーチは初日の練習では学生たちとの練習試合「5人掛け」もした。5人を順番に相手として戦うわけだが、全員を鮮やかに投げると、「もう一度、チャレンジしたい」という学生も出て、結局、7人との試合となった。これ以後、学生たちの川上コーチへの敬意が一段と高まったようで、熱心な研究や練習が展開された。

▲写真 海軍士官学校柔道部での川上智弘コーチの指導の光景 出典:筆者

同柔道部のリチャード・タピア主将は「やはり高度の技はすばらしく、それをわかりやすく説明してくれるので柔道がますます好きになった学生がほとんどです」と語り、川上コーチの技量を賞賛していた。同校教授で柔道部長のアンガー海軍中佐は「日本の一流選手の技術と気構えは部員たちには新鮮で強烈な刺激となります」と喜んでいた。

川上コーチは首都中心部にある「ジョージタウン大学ワシントン柔道クラブ」でも連日、多数の学生や社会人のアメリカ側選手を指導した。最初は40人ほどだった米側は評判を聞いた近隣の柔道クラブからの指導者や選手も加わり、70人、80人と参加人数が増えていった。

▲トップ写真 ジョージタウン大学ワシントン柔道クラブでの川上智弘コーチの指導、練習の光景 出典:筆者

このクラブは大学の柔道部に一般の町道場が合わさった形のクラブで、アメリカ東海岸でも最も古く、最も強い選手が多い。ここでも川上氏のキメ細かく理論的な投げ技の説明や動きの速い乱取り稽古は大好評だった。同クラブの会員には医師や弁護士、軍人、ビジネスマンなど多様な職業人が多いのが特色で、川上氏は期せずしてアメリカ社会の幅広い分野の人たちとの親交を果たすこととなった

川上氏は同クラブの会員を通じてホワイトハウスの見学にも招かれたほか、最高裁判所への特別な招待をも受け、柔道を越えての日米友好となった。「柔道教育ソリダリティー」の指導者アメリカ派遣の最後としては多種多彩な交流ともなった。

川上コーチは「日本柔道によってアメリカ側の人たちとこれほど広範で密接な交流ができることに感激しました」と話していた。

トップ写真:ジョージタウン大学ワシントン柔道クラブでの川上智弘コーチの指導、練習の光景 出典:筆者

 

【訂正】2019年4月1日

本記事(初掲載日2019年4月1日)の写真末尾から2枚目のキャプションに誤りがありました。お詫びして訂正いたします。本文では既に訂正してあります。

誤:▲トップ写真 ジョージタウン大学ワシントン柔道クラブでの川上智弘コーチの指導、練習の光景 出典:筆者

正:▲写真 海軍士官学校柔道部での川上智弘コーチの指導の光景 出典:筆者


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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