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.国際  投稿日:2019/4/24

露疑惑報告書、結論はグレー


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2019 #17」

2019年4月22-28日

【まとめ】

・ロシアゲート、モラー特別検察官の報告書公開。

・トランプ大統領の関与は「グレー」。

・大統領弾劾の是非は民主党内で割れている。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=45363でお読みください。】

 

今週は25日に露朝首脳会談、26日に日米首脳会談がある。3カ月に3回も首脳会談をやって何するのかとも言われるが、トランプ氏にはできるだけ多く会って、日本の考え方を伝えることだけでも意味があるだろう。露朝首脳会談は恐らく同床異夢だろうが、お互いに利用価値は高いのだから、失敗だけはないだろう。

▲写真 トランプ大統領との会談 出典:首相官邸

それよりも、筆者今週の最大の関心事はロシアゲートを巡るモラー特別検察官の報告書が一部黒塗りながら400ページ以上公開されたことだ。これほど突っ込み所満載の文書はないが、如何せん、分量が多過ぎて筆者も未だ全容を把握するには至っていない。というわけで、ここではさわりだけを各種報道に基づきご紹介しよう。

▲写真 モラー特別検察官(左) 出典:Flickr; Obama White House

①報告書は「トランプ陣営関係者がロシア政府と大統領選干渉活動について共謀・連携したとは認めない 

“did not establish that members of the Trump campaign conspired or 

coordinated with the Russian government in the election interference activities.”」

が、「トランプ陣営もロシア政府も相手側が利益を得ると信じていた 

both the Russian government and the Trump campaign believed the 

other would be beneficial.」と判断した。

 

②トランプ候補はヒラリー・クリントンのEメールを探すよう側近に求めた Trump asked campaign aides to find Hillary Clinton’s emails。

 

③報告書は司法妨害について大統領による犯罪を認めなかったが、同時に無罪放免もしなかった 

“While this report does not conclude that the President committed 

a crime, it also does not exonerate him”。

 

④大統領の捜査に対する干渉努力は主として部下により拒否されたため成功しなかった

“The President’s efforts to influence the investigation were mostly 

unsuccessful, but that is largely because the persons who surrounded 

the President declined to carry out orders or accede to his requests.”。

 

⑤司法妨害については議会による調査が可能である 

“Congress may apply the obstruction laws to the President’s corrupt 

exercise of the powers of office accords with our constitutional system 

of checks and balances and the principle that no person is above the law.”

 ・・・・・まだ続くが、もうこの位で良いだろう。

 

要するに結論は「グレー」ということだ。例によってCNNは報告書の結論を「限りなく黒」に、FOXやトランプ陣営は「限りなく白」に仕立て上げようとしている。これからは下院民主党が報告書の一言一句を取り上げ、公聴会を開き、トランプ一族を含め召喚状を発し宣誓証言を求めギリギリ締め上げていくはず。これが来年まで続くのだ。

一方、大統領弾劾の是非では民主党内が割れている。ここは一気に弾劾裁判を進めるべきとする強硬派に対し、下院議長などは「弾劾は逆効果」と冷ややかだ。今も民主党の大統領候補者数は2桁に上り、バイデン元副大統領も近く出馬を表明するというから、当面民主党内は星雲状態のまま。このままならトランプ氏再選もあり得る。

▲写真 バイデン元副大統領 出典:Flickr; Obama White House

〇アジア

先週北朝鮮の第1外務次官は「ボルトンは17日、第3回首脳会談に先立って核兵器を放棄するための戦略的決定をしたという真の表しがあるべきだの、トランプ大統領が言った『大きな取り引き(ビッグディール)』に対して論議する準備ができているべきだの、などと生意気なことを言った」などと述べたそうだ。凄いことを言うもんだ。

彼女はハノイ首脳会談が「決裂」した後、深夜の記者会見で世界のメディアに「放心状態」を曝した女性外交官だが、あのボルトンに喧嘩を売るとは良い度胸だ。単なるブラフなのか、それともトランプ氏の足元を見ているのか。少なくとも彼女が失脚していないことだけは確かなようだが、こんなやり方で外交ができるのか、疑問である。

 

〇欧州・ロシア

先週のウクライナ大統領選決選投票の結果、コメディー俳優候補が7割超を得票し、圧勝する見通しとなったそうだ。コメディアンは頭が良くなければ務まらないが、新大統領の政治力は未知数としか言いようがない。ウクライナを巡る情勢はさらに混乱する可能性の方が高いのではないか。ロシアにとっては絶好のチャンスである。

▲写真 大統領に当選したウォロディミル・ゼレンスキー氏(2009年) 出典:Wikimedia Commons

〇中東

今週最大のショックはスリランカでの同時多発大規模連続テロ事件の発生だ。日本人を含む多くの外国人も犠牲になった。現時点で犯行声明等はないが、イスラム系である可能性が高いだろう。それにしても卑劣な奴らだ、彼らのテロは最も脆弱なターゲットに対し最も無慈悲な攻撃を平然と行うのが特徴。やはり中東発のテロなのか。

 

〇南北アメリカ

米国はイースター休みで大きなニュースなし。米国発ニュースで興味深いのは、米国が対イラン原油禁輸制裁の猶予措置を打ち切ると決めたことだ。日中韓、台湾、インドを含む8か国・地域が対象だが、マーケットの予想を裏切る決定だけに、イラン側の強い反発が予想される。イランの強硬派が台頭するかが気になるところだ。

 

〇インド亜大陸

インドは下院総選挙の真っ最中。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

トップ写真:プーチン大統領とトランプ大統領 出典:ロシア大統領府


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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