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.政治  投稿日:2019/4/25

報道の自由度を妨げるものは


Japan In-depth編集部(高橋十詠)

【まとめ】

・自由報道協会シンポジウムに安倍編集長らが登壇。

・テレビ報道の自由は、テレビ自らがそれを放棄している。

・報道の自由度は巨大プラットフォーマーにより妨げられている。

 

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4月23日、自由報道協会にて第8回自由報道協会賞の授賞式およびシンポジウムが開催された。自由報道協会賞とは、取材、報道、評論活動など通してジャーナリストとして顕著な業績をあげ、ジャーナリストの信用と権威を高めた個人団体および作品を顕彰するものだ。今回の受賞者は、本間龍氏「ブラックボランティア」、田中龍作氏「安倍総理の真備町水害者避難所訪問の裏側」だった。

▲写真 第8回自由報道協会授賞式およびシンポジウム 左から元木 昌彦氏(元「週刊現代」編集長)、田中龍作氏(ジャーナリスト)、本間龍氏(作家)、大貫 康雄氏(協会代表理事)©️Japan In-depth 編集部

授賞式後に行われたシンポジウムでは、「日本の政治報道の自由度を向上させるためには」という議題が討論された。受賞者2名に、安倍宏行氏(Japan In-depth編集長)、加えて山口一臣氏(協会理事)、杉尾秀哉氏(参議院議員)、藤田幸久氏(参議院議員)、福島みずほ氏(参議院議員)がパネリストとして登壇した。

シンポジウムでは、主に下記の4つについての問題が指摘された。

①政権による情報コントロール懸念

②既存メディア側の自主規制の問題

③巨大プラットフォームとニュース提供社との関係性

④情報の受け手側の問題

 

①政権による情報コントロール懸念

以前問題になった森友・加計学園について、田中氏は「安倍政治のごまかしの象徴。それでも(政権は)潰れていない。」と政権が情報をコントロールしていると指摘した。また、元TBSキャスターで現在は立憲民主党議員の杉尾氏も「国会でいくら(政権追求を)やってもダメ。権力側が何としても自分たちを守り抜くと決めた場合は全く歯が立たない。強大な組織、全閣僚がバックについている。一人一人が踏ん張らないと打開できない。私は諦めない。」と述べた。また、「批判する=足を引っ張る=反社会的行為」だと捉えられ、批判できない空気があると述べた。

山口氏も、「政府がやっていることを批判すると『反日』っていうレッテルを貼られる。でもそれは全くの嘘。日本に住んでる人はみんな日本が好き。しかしみんなを幸せにする方法論が違ったり、意見が異なるだけ。好きだから批判してる。」と述べ、レッテル貼りを恐れず政権批判をするべきだとの考えを強調した。

 

②メディア側の自主規制の問題

また、メディア自体が自主規制をかけている現状について議論された。記者側自らが取材したことを、時として記事に書かないという傾向があるという。これはどういうことなのか。

例えば、テレビ報道では番組の視聴率をとることが重要視されるため、数字がとれない内容と判断されれば、そのニュースは報道されない。これが記者側の「どうせ報道されないなら」という心理を働かせ、「めんどくさくなりそう」なことは避けるようになってしまった。この現実に関し、「20年以上前から記者は面倒なことを避けるようになり、番組側と取材部とのせめぎ合いがなくなった。テレビ報道の自由は、テレビ自らがそれを放棄している」と安倍氏は主張した。

▲写真 安倍宏行氏 ©️Japan In-depth編集部

「ブラックボランティア」の著者である本間氏も、この現状を身をもって体感している。「商業イベントの五輪で、莫大な利潤を上げているのが組織委員会であり、4000億円以上のスポンサー収入を仕切る広告代理店がある。公共の福祉も公益もほとんどないものに無償ボランティア、というのは大きな問題がある。」という意見に対し多くの記者が共感したという。しかし、記事になることはほとんどなかった。既存メディアも五輪スポンサーであるため、事なかれ主義に陥っていると指摘した。

また、新聞社、雑誌の世界が長い山口氏は、「権力者が情報をコントロールしたいのは当たり前のことであり、それに対抗する気骨ある記者が減っている。」と述べた。その原因として、雑誌、新聞の売り上げの著しい低下を挙げた。売り上げを上げるために、以前は意識していなかったスポンサーや広告会社のことまでを意識して働くようになり、それが忖度しやすい雰囲気をつくり上げたのではないかと述べた。実際に山口氏も「入社した時は、編集部の人間が、スポンサーがどこでいくら出しているということなんて、知らない世界だった。今では編集長は広告がいくら、ということを頭に入れて働いている。企業批判の記事の場合は何重にも確認されて、ようやく日の目をみるかみないかの世界になった。」と現場の実態を伝えた。

杉尾氏も「数字(視聴率)が取れないことをするのは商売の邪魔と考え、記者が事なかれ主義で面倒なことを避ける風潮ができてしまった。これは、既存メディアの退化だと思う。」と述べた。

さらに本間氏は、「若い世代はネットを使いこなしていると僕らは思ってるいるが、彼らはツイッターに意見なんか書き込みませんと言う。そういうことをすると、履歴が残って就職のときにマイナスの評価を受けるから。と。」と自分の投稿履歴が将来の就職活動に響く可能性を考え、個人の意見を自己規制どころか、発信すらしなくなる若者が増えていることを伝えた。

 

➂巨大プラットフォームとニュース提供社との関係性

Yahoo!やGoogleニュースなどの巨大プラットフォーマーの存在により、小さくても質の良い情報提供をしているメディアは経営が厳しいと安倍氏は指摘した。ニュース制作にはお金がかかるが、読者は記事にお金を払おうとしない。よって、「情報発信は簡単になったが、質の良い記事をどう届けていったらいいのかという問題がある。」と述べた。

また山口氏も、「プラットフォーマーの人たちは、ジャーナリズムに興味がないようだ。読者は(プラットフォームを)メディアだと思って見ているかもしれないが、彼らにとってニュースはPVを集めるための“撒き餌”でしかない。最近グノシーやスマートニュースに、クーポンというコーナーがある。ニュースはクーポンと同じ扱いだ。」と述べた。

▲写真 山口一臣氏 ©️Japan In-depth 編集部

 

④情報の受け手側の問題

次に安倍氏は、受け手側の意識の変化について次のように指摘した。「最近、多くの人がLINEなどのメッセージングアプリが提供するニュース配信でニュースを知ることが多い。プッシュ通知で一日に3~4回配信されるので、速報を知ることが出来るようになった。しかし、ニュースの受け手は見出しを見て満足し、それ以上知ろうとしない。ニュースの伝播速度は上ったが、その背景まで考えようとしない人たちが増えている。」と述べると共に、このような現状を「小見出しに支配されている。」と表現した。

山口氏は、新聞などの部数の著しい低下から分かるように、「人が、情報とかニュースとか、記事に対してお金を払ってくれなくなった。民主主義のコストは誰が払うのか?本当にそれで良いのか、視聴者や読者のみなさんに考えてほしい。」と述べた。Yahoo!は試みのひとつとして、ニュースの一部に課金制度を取り入れ始めている。

また、安倍氏は政党側がインターネットを使いこなせていない部分が、受け手側の関心を低下させていることを指摘した。「有権者も知りたい。どの政党がどういう政策で、どう活動をしているのか。過去どういう発言をしてるのか、HPなどにデータベースがないため、(取材をする時)苦労する。」と述べ、SNSなどのデジタルツールを最大限に利用し、積極的に情報発信すべきだと主張した。

▲写真 杉尾秀哉氏 ©️Japan In-depth 編集部

本間氏も野党の杉尾氏に対し、「広報宣伝の部署が決定的に足りていない。どんなに小さい単位だとしても、広報宣伝を考える係は絶対必要だと思う。」と賛同した。杉尾氏は、「人もいなければ金もない、というところでやるのは確かに大変だが、やらなきゃいけない、精一杯取り組んでいく。」と、地道に諦めずに活動を継続していくことを表明した。

トップ画像: ©️Japan In-depth 編集部


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