無料会員募集中
.国際  投稿日:2019/4/2

露疑惑報告書一体いつ開示?


大原ケイ(英語版権エージェント)

「アメリカ本音通信」

【まとめ】

・バー司法長官の報告書に関する発言は、大統領をかばう2点のみ。

・米下院諜報委員会委員長はマラー報告書の内容開示を要求。

・マラー特別捜査官召喚の可能性も。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=45004でお読みください。】

 

ようやくロバート・マラー特別捜査官による米大統領選挙へのロシア政権の介入に関する調査が3月24に提出された。だが、300ページを超えるとされるその報告書を読んだのは、ウィリアム・バー司法長官と、ロッド・ローゼンスタイン副司法長官の2だけだ。

▲写真 ロッド・ローゼンスタイン副司法長官 出典:Flickr; Internet Education Foundation

そのバー司法長官には、報告書の内容をアメリカ連邦議会に伝える義務があるのだが、これが週末の間に二転三転する短い走り書きされたような手紙だけで、さすがはドナルド・トランプ大統領の息がかかった人物が一生懸命に自分を雇ってくれた人を庇うような内容に終始している。

大統領自身は「すべての容疑は晴れた」と盛んにアピールしているが、もちろんこの報告書を読んだわけでもなく、バー司法長官に都合の良い部分だけを聞いて、これを過大解釈したウソをがなり立てているだけである。

バー司法長官の発言から察っせられるマラー報告書についての事実は2点だけだ。それは、1)ロシア政権による大統領選挙介入について、司法の場で証明できる「共謀(conspiracy)の証拠」は得られなかった。(もちろん、ロシア側の人間から証言は得られないし、調査委員会での諮問を大統領は拒否し、書面による回答しかしていない)。トランプはNo collusionと繰り返しているが、collusionという罪状の法律用語はそもそも存在しない。

2点目の問題は、トランプ政権や周りの人物による司法妨害(obstruction of justice、この場合はつまり隠蔽行為)があったかどうかだが、マラー報告書では、その証拠となる資料を集めはしたものの、最終的には特別捜査官からは「告訴しない」ということのようだ。おそらく、特別捜査委員会は「大統領は告訴しない」という慣習に則って、その役割は自分たちにはないと判断しただけのようだが、これをバー司法長官は「隠蔽についてもシロ」という勝手な判断を下し、議会に報告したようだ。

「〜ようだ」としか書けないのも、報告書そのものがなんら開示されていないからで、かつてのビル・クリントン大統領の「スター報告書」の例を思えば、このまま公開されずに済むとは到底思われない。ただ、スター報告書の主な内容であったホワイトハウスのインターンとの不倫だのといった下半身スキャンダルと違い、マラー報告書には外交機密に関わる部分が記されている。全文を一般に公開できないという理屈はわかる。

▲写真 ビル・クリントン元大統領 出典:Flickr; Gage Skidmore

トランプに煽られて共和党員たちが、「責任を取れ」と米下院の諜報委員会の委員長を務めるアダム・シフ議員の辞職を求めたが、まったく根拠のない要求に屈することなく、シフ議長は42日までにマラー報告書の全文を議会に公開せよと迫っている

これは諜報委員会だけでなく、ジェリー・ナドラー議員が率いる司法委員会も同じ姿勢をとっており、民主党が委員長を務める各委員会はそれぞれの担当分野において大統領による不正がなかったかをチェックするために、それぞれマラー報告書の公開を求め、それをバー司法長官が阻止するのであれば、マラー特別捜査官を召喚することになるであろう。

バー司法長官は今のところ、さまざまな作業が必要なのですぐにはマラー報告書を公開できない、としているが、その言い訳もコロコロ変わっている。外交機密情報に関する部分や、地方裁判所などでの他の調査の大陪審に関連する部分を編集(要するに黒塗り)しなければならない、などと言ったが、そんなことはもちろんマラー特別捜査官の指示により、編集されたバージョンが用意されていないわけはない。

▲写真 アダム・シフ議員 出典:アダム・シフ オフィシャルサイト

もう一つ面白い言い訳は「この報告書で起訴されていない人物の尊厳や評判にかかわる部分を除外しなければ公開できない」というものだが、要するに「トランプが恥を書かないように書き換えてからじゃないとお見せできません」と言っているのだ。

 

トップ写真:トランプ大統領とウィリアム・バー司法長官 出典:アメリカ合衆国司法省


この記事を書いた人
大原ケイ英語版権エージェント

日本の著書を欧米に売り込むべく孤軍奮闘する英語版権エージェント。ニューヨーク大学の学生だった時はタブロイド新聞の見出しを書くコピーライターを目指していた。

大原ケイ

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."