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.社会  投稿日:2019/6/12

2040年問題と「自助努力」


八木澤徹(日刊工業新聞 編集委員兼論説委員)

【まとめ】

・2040年代に高齢化率36.8%・格差拡大・相互扶助崩壊も。

・政府は就職氷河期世代支援、70歳まで就労支援、年金改革を提言。

・「老後2000万円不足」に非難殺到。「自助努力」を要求する政府。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=46241でお読みください。】

 

現役の1.5人が高齢者1人を支える時代が2040年にやってくる。政府はこれまで、「団塊の世代」が75歳となる25年を念頭に社会保障と税の一体改革を進めてきた。当面の難所であった25年問題は今年10月に予定されている消費増税で「一定の区切りがついた」(政府関係者)としているが、気がつくとさらに高い峠が見えてきたのである。 

2040年にはどのような社会になるのだろうか。それは歴代の政権が先送りにしてきた世代間と地域の格差問題が極限まで拡大し、相互扶助を基本としてきた日本の社会構造が根幹から崩れることを意味する。 

総務省の推計では、40年には我が国の人口は1億人程度に落ち込み、「団塊ジュニア世代」(1971~74年生まれ)が高齢者(65歳以上)となる。その時点で高齢化率は実に36.8%に達し、85歳以上人口も高齢人口の3割近くになるのだ。 

それだけではない。就職氷河期に正社員になれなかった世代(現在・35~44歳)の高齢化も進む。これらの世代は安定的な職を得られなかったため結婚や子育てができなかったケースが多く、単独所帯の割合が高い。このため、政府は年金・医療・介護など社会保障費は18年度の対国内総生産(GDP)比21.5%から40年度で最大で同24%に増加すると試算している。 

▲写真 「年金ポータル」サイト開設を紹介する根本匠厚労相(2019年4月16日 厚労省) 出典:厚生労働省ホームページ

さすがに政府も危機感を強める。厚生労働省の「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」(本部長・根本匠厚労相)は5月29日、団塊ジュニア世代が高齢者となる40年を展望した社会保障・働き方に関するあり方を取りまとめた。 

根本厚労相を本部長に、職業安定局や年金局、老健局など全局長が参加する同本部は、「40年代を展望すると高齢者の人口の伸びは落ち着くが現役世代が急減する」とし、新たに就職氷河期世代の就労支援を盛り込んだ。これらの方針を政府の「骨太の方針」や予算などに反映させたい考えだ。 

政府は「人手不足の中での絶好の機会」として今夏までに就職氷河期世代の活躍促進に向けた3年間の集中プログラムを取りまとめる。厚労省の改革本部は都道府県労働局や地方自治体、民間事業者などと連携して都道府県レベルのプラットフォームを構築。また就職氷河期世代に特化した求人の開拓や助成金の活用を提言した。 

しかし、40歳を超えている無職の人材をスキルアップさせるのは相当難しいだろう。なにより社会経験がないと社会構造や複雑な人間関係になじむのは高いハードルがある。最近急増している中高年の引きこもりや、それに伴う事件をみれば容易にわかる。 

その中で70歳までの就労機会の確保や就職氷河期世代への支援を求めたほか、「人生100年時代」に向けた年金制度改革の必要性を強調。5年ぶりとなる今年の年金制度改革に向け、短時間労働者への社会保険の適用拡大、確定拠出年金(DC)の加入年齢の引き下げ。それに加えて、私的年金や民間金融商品の活用など「自助努力」を求める文言が入った。 

▲写真 年金手帳 出典:厚生労働省ホームページ

ここに政府の思惑が透けて見える。つまり、「70歳までの就労機会の確保」は働いて一定の収入がある場合に年金額を減らす、在職老齢年金制度の廃止・縮小だ。社会保障制度の支え手を増やし、かつ年金支出を減らす狙いがある。 

一方、金融庁が示した「公的年金だけでは2000万円足りない」とした報告書に非難が殺到している。最終報告ではこの文面は削除されたが、この報告書を作成した審議会に厚労省の年金局の課長が出席し、私的年金などの金融商品の活用の必要性を発言していたとの一部報道があった。事実ならば「確信犯」であり、公的年金を当てにせず自分で資産運用しろ、ということである。 

トップ写真:高齢化社会イメージ 出典:Pixabay; Truthseeker08


この記事を書いた人
八木澤徹日刊工業新聞編集委員兼論説委員

1960年1月、栃木県生まれ。日刊工業新聞社に入社後、記者として鉄鋼、通信、自動車、都庁、商社、総務省、厚生労働省など各分野を担当。編集委員を経て2005年4月から論説委員を兼務。経営学士。厚生労働省「技能検定の職種等の見直しに関する専門調査会」専門委員。


・主な著書


「ジャパンポスト郵政民営化40万組織の攻防」(B&Tブックス)、「ひと目でわかるNTTデータ」(同)、「技能伝承技能五輪への挑戦」(JAVADA選書)、「にっぽん株式会社 戦後50年」(共著、日刊工業新聞社)、「だまされるな郵政民営化」(共著、新風舎)などがある。

八木澤徹

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