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.国際  投稿日:2019/12/30

死語になるか「非正規社員」【2020年を占う・雇用】


八木澤徹(日刊工業新聞 編集委員兼論説委員)

【まとめ】

・働き方改革の一環で「同一労働同一賃金制度」が適用される。

・正規社員と非正規社員の待遇差は認められないとされた。

・経営側には大きなインパクトであると同時に、混乱は必至。

 

同一労働同一賃金制度」が働き方改革関連法の施行に伴い、20年4月から大企業に適用される(中小企業には21年4月から)。厚生労働省の「同一労働同一賃金ガイドライン(指針)」では、通勤手当などの手当や福利厚生では原則として待遇差を認めないことを示したほか、基本給や賞与は経験や能力差に応じて違いを認めている。ただ、「不合理な待遇」の基本的な事例をガイドラインで示しているだけで、個別案件に対する判断は労使交渉に委ねられており、混乱は必至だ。

厚労省の指針では、「労使の合意なしに正規社員の待遇を下げて差を解消するのは望ましくない」と明記。短時間社員や有期雇用労働者など非正規社員については、通勤手当などの手当や福利厚生では原則として「待遇差を認めない」としている。

また、正社員と非正規社員の能力や経験が同じなら同等の基本給や賞与を支給するよう求めたほか、通勤手当などの手当や福利厚生も原則として待遇差を認めないことを示したものの、基本給や賞与については経験や能力差に応じて違いを認めている。

一方、「定年後に再雇用されたことをもって待遇差があるのは不合理ではないとは認められない」と定年後の再雇用を理由にした格差を禁じている

これは18年6月1日に最高裁で言い渡された訴訟の上告判決を受けた解釈を受けたものだ。横浜市の運送会社「長澤運輸」の定年後に再雇用されたトラック運転手3人が起こした訴訟で、定年前と同じ仕事をしているのにかかわらず賃金が2〜3割引き下げられたのは不当と訴えていた。最高裁は精勤手当と超勤手当の格差を「違法」とした上で、審理を東京高裁に差し戻した。

運輸業界などで正社員と非席社員の待遇格差を巡る訴訟が全国で相次いでいる。いずれの裁判の争点は労働条件の不合理な格差を禁じた「労働契約法20条」の解釈で、民主党政権下で改正された「労働契約法20条」(2013年4月施行)に基づくもの。長澤運輸、浜松市「ハマキョウレックス」ともドライバーの正社員と非正規社員の待遇格差を巡る訴訟だ。

日本郵政グループの手当格差については、18年大阪地裁での判決で非正規社員での手当不支給は「不合理な労働条件の相違に当たる」と日本郵便に賠償を命じた。夏期冬期休暇、有給の病欠休暇を与えないことについても違法と判断した一方、賞与などについては「仕事内容にも異なる点がある」として格差を容認した。

東京や愛知など3都県の郵便局に勤務する契約社員が手当の差額計約1500万円の支払いなどを求めた訴訟では17年9月、東京地裁が「住宅手当などの不支給は違法」と会社側に計約92万円の支払いを命じたが、いずれも会社側が控訴に踏み切っている。

非正規社員約20万人を抱える郵政グループの賃金格差は年収ベースで約2倍と極めて大きいため、格差是正には時間がかかるとの認識だが、人手不足が深刻化する中で同一労働同一賃金制度の施行が経営側に与えるインパクトは極めて大きい

郵政省時代には「物件費」扱いだった非常勤職員「ゆうメイト」だが、19年の春闘交渉で日本郵政グループは無期雇用の非正規社員約8万人にも扶養手当を新設した。また、日本郵政は65歳までの定年延長を20年度に満60歳に達する社員から適用する。20年春闘でも非正規労働者の処遇改善が焦点となろう。

連合は20年春闘で大企業と中小企業との規模間、正社員・非正規社員など雇用形態での格差是正を前面に押し出す。最低賃金引き上げも大きなテーマとなる。パート労働者などを含む企業内の全ての労働者を対象にした企業内最低賃金「時給1100円以上」を要求する。

また、正社員と非正規社員の格差是正に向け、最低到達水準として35歳(勤続17年相当)で月給25万8000円を示した。最賃の要求金額や給与水準を明記するのは初めてだ。

しかし、人材サービス大手・アデコの調査によると、19年春時点で大企業の7割以上が対応方針を決められていないことという。「すでに決まっている」と回答したのは全体の27.0%。最も大きな課題は「基本給」、次いで「賞与」「各種手当て」に関することだった。

「対応が決まっている」と答えた企業の回答をみると、52.1%が「非正規社員の基本給が増える見込み」、55.1%が「非正規社員の賞与が増える見込み」としている。

一方、通勤手当や住宅手当など非正規社員への各種手当てについては「厚くなる」が31.5%で、「変わらない」と回答した企業も44.9%と対応が分かれている。非正規社員の退職金については、「増える」が27.0%、「新たに設ける」が17.8%だった。

令和の時代には「非正規社員」という言葉は死語になるのか20年はその試金石となろう。

トップ写真:デスクワーク イメージ画像 出典:piqsels


この記事を書いた人
八木澤徹日刊工業新聞編集委員兼論説委員

1960年1月、栃木県生まれ。日刊工業新聞社に入社後、記者として鉄鋼、通信、自動車、都庁、商社、総務省、厚生労働省など各分野を担当。編集委員を経て2005年4月から論説委員を兼務。経営学士。厚生労働省「技能検定の職種等の見直しに関する専門調査会」専門委員。


・主な著書


「ジャパンポスト郵政民営化40万組織の攻防」(B&Tブックス)、「ひと目でわかるNTTデータ」(同)、「技能伝承技能五輪への挑戦」(JAVADA選書)、「にっぽん株式会社 戦後50年」(共著、日刊工業新聞社)、「だまされるな郵政民営化」(共著、新風舎)などがある。

八木澤徹

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